D.I.Y.出版日誌

連載第319回: 指さえ鳴らせない

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2021.
05.09Sun

指さえ鳴らせない

ぱちっと指を鳴らしたらおれは消えて最初からいなかったことになるそうだったらいいのにと空想するがそもそもおれは病的な不器用で指を鳴らせないBookBaby からDIY Equals DOAなるメールが届いたまったくおっしゃるとおりプロの編集者が必要だそれがないからこんなことになっているしかし BookBaby は英語とスペイン語しか受け付けないんだなこれが日本の業者は労せずして素人から巻き上げることしか考えてないから期待できないもちろん Amazon.co.jp にも期待できない期待できたところで金がない校正校閲に数十万編集者に数十万本来はどちらも不可欠だがだれも読まない本のために破産するわけにはいかない全面的な改稿でもないかぎり書いたものを読み返すことはないのだが推敲さえしない)、 はじめてぼっちの帝国を読み返したらふつうにいい話だったただところどころ意味のとれない文章があって校正校閲はもとより編集者の手が入っていないのがあからさまだったせめて身近によくわかってくれる第一読者が必要だだれともうまくやれないからひとりでやっているのだけれどやはりひとりでやれることには限度がある編集者を得るために新人賞に出すべきだったそうしていたら正当な評価を受けていたかもしれないただ人格 OverDrive の連載機能があったから書けた話であるのは確かでいちど公開したからには新人賞という選択肢はなかったしょうがない書いたものが数十年ものあいだだれからも一度として評価されないという経験をすると売られている小説が読めなくなる自分の書いたものに価値がないのならおなじもしくはそれ以下の水準にある小説にも価値を感じなくなるからだたいていの本はおれの本よりつまらないので読めなくなるなのでよほど優れた小説でなければいいと公言することはないそれに評価されているものは世渡りがうまかっただけだと知れてしまうので白々しく思えてなんにも関心をもつことができないおれが鼻持ちならない厭なやつでさえなければもうちょっと評価されていた気はするソーシャルメディアだってそれなりに運用できていたろうCreateSpace で出版した本の情報を JPRO で修正したら反映されたアルゴリズムが価格をつり上げる以外の問題内容紹介に仮名漢字が使えないとか商品画像が裏表紙になるとかはこれで解決したあとは.com のアカウントを.co.jp に統合できれば完璧なのだが問い合わせたところ祝日であるにもかかわらずすぐに返事があって、 「よく似ているけれど別のサイトだから不可能とのことまぁしょうがないどのみち何をやっても売れないのだソーシャルメディアを眺めても書店の売れ筋ランキングを眺めてもエンターテインメントってのは日本社会のおれがもっとも嫌悪する部分で成り立ってるんだなと実感するなんもやれなくなるtwitter 運用をずっと検討してきたのだけれどやはり関わらないに越したことはないなあまりに向いていない自分がもっとも嫌悪する世界でしかない肯定的な要素がひとつも見つからないそんなところで露出したところで望ましい読者は得られないとすると金を投じて広告するしかないこれまでの結果を検討したらもっとも効果が実感できなかった Google 広告がもっともマシだったように思えてきた効果があったとまではいえない水準ではあるがしかしそのためにまた手間暇と大金を投じるかといえばそこまでして得られるのは失望だけでしかないのは経験上あまりに明らかだしこのところ無駄金を使いすぎているので何もしないそうこうするうちに 15 ヶ月未使用だったためにアカウントが閉鎖されてしまっただれにも読まれないことがわかっている小説を書くことにも疑問がでてきた何にせよおれの人生はやるだけむだでしかない無能とはそういうものだ憎まれ蔑まれて育ち憎まれ蔑まれて生きてきてだれからも愛されたことがなくそれで書いたものが読まれたり評価されたりするはずがないやればやるほど世間の迷惑になるだけだ別に他人を不快にしたくて生きているわけではない死ねないからには息を潜めているのがいいtwitter でうまくやらなければ先がないことはわかっているおれは生まれてこの方ゲームというのをやったことがない楽しみというものをすべて取り上げられて育ち隠れてありつけるのは図書館の本だけでこの歳になっていまさらゲームをやろうとは思わないやったことがないからやってもうまくやれないしうまくやれなければ惨めになりもし仮に奇跡でも起きてひとなみにうまくやれるようになったとしても虚しいだけでなんの楽しみも得られないそういうのは子ども時代にたしなんでおかなければ一生身につかないそして現代の社会生活にはゲームの才覚と技能がもっとも必要とされるtwitter がいい例だある意味そこでうまくやれたらエンパワメントになるとは考えられるしかしどう考えても自分にとってもっとも合わない有害な場でしかない心身の健康を保つためには全力で遠ざからねばならない一方でそこでうまくやること抜きに出版は立ちゆかないし出版が立ちゆかなければ最低限の自己肯定感も得られないtwitter のアルゴリズムと自分の性格特性をすりあわせると次の折衷策を守ればよさそうに思えるそのいくつかは twitter のアルゴリズムの求めるところに結局は反していため凍結のリスクはあるがやむを得ない政治的なことを含めなんらかの考えが感じとれるようなことは書かないリスク: twitter では力のある者へ積極的に媚びなければならない)。 論評はしないリスク: twitter では共有が推奨される)。 他人とかかわらないリスク:かかわらなければ twitter の利益にならないのでスパム判定される)。 しかし自分の考えを書かずに何を書くというのかゲーム的な対策を考えると肝心の投稿ができなくなるいかにも何かいっているふうで実際には何もいっていないという文言を大量に自動生成すればよいのだがいまのおれにその手段はないそれをなんの考えもなしにごく自然に呼吸するかのように脊髄反射みたいにやれる健常者がふしぎでならないやっぱりソーシャルメディアでの自己宣伝は性に合わない辱しめられるだけだペイパーバックを配ってレビューを書いてもらうのはどうかとも考えたがまずだれにも読んでもらえまい迷惑がられるだけだ要するに人望がない鼻持ちならない厭なやつが何をやったところでうまくいかないましな人間になりたいがそのためにはあらかじめ最初から立派な健常者でなければならない金を持っていなければ金持にはなれないしだれかに愛されていなければ世界に愛されることはない筋トレについても同様に絶望していたが十日で体脂肪率 19%軽度の肥満から 16%標準へ戻せたジムに通いはじめたばかりの頃はひと月かかったので多少なりとも改善されたわけだ十年あまりのあいだこれだけ必死に努力してようやく健常者の体型に近づけただけというのは健常者は生まれつきよほど筋力に恵まれているのだなと感じるがとはいえなんの成果も得られぬよりいい腕はまだ健常者より細い鬱で死にかけていた若い頃は二の腕が人差し指と親指でつくった輪で指先が触れるほどだったいまは懸垂もできるし 60kg のチェストプレスもできる腰を痛めるまでは 80kg までいけた)。 虐待によって正常な発育を阻んだ両親がかつては憎かったがいまは哀れみと蔑みの念しかないそして自分もまた遺伝と環境からあの連中と大差ないのを知っている必死に努力したところでこのざまだ死ぬまでにそう遠くへは行けまいがしかし努力せずに死にたくはない神の前に立たされたとき連中とはちがうと胸を張りたい少なくともおれは努力したし結婚もせず子どももつくらなかったとそう考えると出版にしても健常者にはほど遠いにせよ努力した意味はあった十年前は WordPress の組版をあれこれ試す技能はなかったし装画もロゴ作成もずっとひどかったのだISBN さえ持たなかったしペイパーバックの出版など考えもしなかっただれにも評価されないしゴミ以下の結果しか残せていないが他人によく思われるために生きているのではない極端な話神だって鼻をほじりながらで?とのたまうかもしれないし比喩的な意味においてはそれが現状なのだがしかし⋯⋯いやもう何もわからないやはり鼻持ちならぬ厭なやつである時点で死ぬべきなのだろうし神の前に立つ権利さえないのかもしれないそして病的に不器用すぎて後腐れなくきれいに自死するだけの能力すら持ち合わせないのだ


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。