イシュマエル・ノヴォーク

ペリフェラル・ボディーズ

第22話: 太陽の街

イシュマエル・ノヴォーク書いた人: イシュマエル・ノヴォーク, 投稿日時: 2021.04.30

               1990s Elpaso

 フォードFシリーズのピックアップトラックが上下左右に揺れている助手席に座るリロイは舌を噛まないように口をかたく閉じているハンドルを握るエミールが片手でカウボーイハットをおさえながらエリは何て言った?
 リロイが少しだけ口を開き好きにすればいいって
 エミールは顎に生えた無精ひげを撫で苦笑いを浮かべたリロイが言う
ねぇどうして母さんと別れたの?
 ため息をついたエミールがエリはダラスの生まれでおれはエルパソそれじゃあダメか?
ちょっと言葉足らずだと思うよ
 タイヤが石を踏んで車体が大きく揺れた天井に頭をぶつけたリロイが悪態をついたエミールが言う
結婚してお前が生まれてから三年はうまくいった忙しかったからお互いの悪い所を見ている暇なんてなかったんだおれが保安官補から保安官になった時エリも上向いたエルパソの裁判所の速記人で終わるのが嫌だったんだエリはそんなところで終わるタマじゃないしおれもそれで終わって欲しくないと思っていたところがどうだエリはダラスの弁護士事務所を選んだおれはレンジャーになるつもりだったからここを離れたくなかっただけどエリはさっさとここを離れたかった
一度ここに戻ってきたよね
お前のためにもお互いに努力したんだ努力はしたがやっぱりダメだった
母さんを愛している?
愛していない女と一緒に暮らそうなんて考えるか?
ぼくにはわからないよ
 顔を顰めたエミールがお前にはまだ早いと言ってブレーキを踏みカウボーイハットのつばを撫でたエミールが自動車を降りるとリロイも後を追った二人は枯れ草を踏みしめ荒野を歩く萎んだ薔薇のような太陽が紅炎を放射し紫がかった光線が地平線をなぞったエミールが言う
一〇歳の時親父にここに連れて来られたそれまで馬に乗ったことがなかったから嬉しかったよ親父からは色々と教わったそのうちの幾つかは親父よりも上手くできるようになった夢だったレンジャーにもなったそれでもまだ遠く感じる
お祖父ちゃんはどういう人だったの?
昔気質のおれなんかよりもずっと頭が固い岩みたいな男だったそれなのに家庭っていうものをよく理解していたおれやおふくろをいびったりすることはなかったし常に周りから敬意を払われていた
 俯いたリロイが凄い人だったんだねと言いエミールがうなずいた
 太陽から放射された光線が所々剥き出された赤茶色に吸い込まれる風が運んだ土埃をかぶったねじれた草が頭をもたげる
父さん?
なんだ
正直に答えて欲しいんだぼくは父さんを失望させた?
 顎を撫でたエミールがどうしてそう思う?
大学を卒業できないなんてぼくは恥ずかしいよ
 エミールは近くに転がる岩を見た古代人が薬を煎じるために使用した臼のように凹んだ岩はガラスを含んでいるのか赤黒く点々と輝いていたエミールが笑いカウボーイハットのつばを撫でるとそんなことで失望するならおれは親父に撃ち殺されていただろうな笑ったのはそういう意味があったんだがもう一つ同じことをおれも口に出したことがあるその時親父はもう墓に入っていたが
 手をヒラつかせたエミールがさっきも言ったが初めてここに来た時は馬に乗って来た親父は死ぬ間際になって馬も牧場も手放した元はと言えばロブ爺さんのものだ親父のものじゃなかったら引き継いだだけっていう負い目みたいなものがあったのかもなひょっとしたらあの世にいるロブ爺さんに返したかったのかも知れない今でも人から借りて馬に乗ることはあるが車のほうが楽だ時代は変わった親父の頃からおれの頃から……それでも変わりようがないものもある
それは何?
焚き木を拾うんだ初めにやることだからな
どうして?
今夜はここで野営する日が暮れる前に焚き木を集めないと厄介だぞ
 言い終えたエミールが歩き出ししゃがんで細い枝を拾いはじめるとリロイもしゃがみ地面に手を伸ばした


『ロクス・ソルス』という同人小説サークルで活動しています。それから、ジャズピアノの演奏活動をしています。気が向くと絵を描いたりします。
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