D.I.Y.出版日誌

連載第312回: 燃やされた肺

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2021.
02.16Tue

燃やされた肺

プルーデンス・ファローについて調べていて木の肺なるものを知ったフリー・ソフトウェアやクリエイティヴ・コモンズの考え方の元祖という気がするたとえば今後自動車は企業のプロプライエタリ・ソフトウェア商品としての性質を強めていく自分で修理したりメンテナンスしたりする権利はどうなるのかFediverse にも似たような希望をかつては抱いていたのだけれど実際には twitter 以上に女性差別主義のペドフィリアが跋扈する世界だったFediverse について何やら偉そうなことを主張しているアカウントのアイコンが女児を象ったアニメ風の画像であたかも愉快な冗談であるかのように女性差別的な投稿をくりかえすのを目にしたときそしてそれが Fediverse では一般的なアカウントであることを知ったとき心底この国の無教養に失望したMastodon が議会襲撃事件のようなフラッシュクラッシュを生じせしめないとしたらそれは単に利用者が少ないからだそして Amazon を代替するもっとましなものは存在しない木の肺のような善意ある発明は今後現れないだろうGoogle というか YouTube は嗜好のパラメータを付与するためにユーザにタグ付けをやらせていてこれはまぁいい方法だと思うタグの選択肢があれでいいのかという問題はあるけれどBookLive! はというかたぶん電子取次でやっている作業なんじゃないかという気がするけれど売る側の論理でタグ付けをやっていて最近はそれを積極的に開示しているしょうじき首をひねるようなタグばかりではあるけれどあれはあれで売りたいように売る店の権利と表示されたものから読みたいものを選ぶ読者の権利をそこそこ両立させているように思う金魚にとっての水のようにあまりに当たり前の存在になってしまって意識しようがないからというのもあるけれどユーザの嗜好を無視はしていないという点でつまり個別の嗜好を金にする方法を知っているという点でGoogle に対してはどれだけ個人情報を吸い上げられても不満が少ないAmazon と twitter はそれとは真逆で嗜好をはじめとする個人の差違を極力意図的に排除しようとする彼らの商売の都合に基づいてすべてのユーザに等しく均一にふるまうよう強要し逸脱したものを凍結なり表示機会を抑制するなどして淘汰して売りつけたい商品のみを優先表示する結果として twitter は議会襲撃事件というフラッシュクラッシュを招き同様の帰結として Amazon はあたかも小説というものがつまらぬものであるかのような風潮を形成したただ Amazon については権利者の説得に時間をかけすぎた出版業界の責任も大きいと思うしくじった初期の表示がそのまま核となって雪だるま式に増大して現在があるからだ)。 ゴミの優先表示とそうでない本の表示機会の抑制により読書文化は根絶やしにされ次の読者を育てる努力を怠った出版業界は読書文化を巻き添えにしていずれ滅びる理解している者をほかに見たことがないがAmazon は少なくとも電子書籍においては個人のゴミを売りたいんだよなちゃんとした本よりもそのほうが強い権利を持てるから音楽や映画のデータ販売やストリーミングサービスでもそうだけどコンテンツビジネスはコンテンツを売る商売ではなく権利ビジネスなんだよストアが売りたがる商品を素直に買う客はストアによって調教された客層でありゴミを好むのでゴミであればあるほど高く評価しそうでなければ貶めるそういうのが主な顧客である電子版はわたしにはミスマッチだだから今後は印刷版を主軸に据えるつもりではいる電子版はどうでもいい印刷版に対して Amazon は AmazonPOD でさえも電子版ほど強い権利をもたない単に流通と販路の問題となる電子版は何かと制約をつけられ専売を選ぶよりほかなくなるが印刷版ではそんなことはないしかしそんなことをしたところで何の意味もないだれも読まない本のために人生の大事な時間をむだにするのはばからしい分冊として単行本を出せばつづきを知るために連載が読まれるかと思ったがそんなことは一ミリもなかったそもそも単行本がだれにも需要がない。 『ぼっちの帝国は二連休があればきっちり二話分20 枚書けた。 『GONZOはだめだ三連休でも数枚がやっと一枚も進まないときもあるきのうのは前回の二連休で八割書けていたものに数枚足しただけだきょうは一文字も書かなかった書く努力をする元気もないだれにも読まれずばかにされるだけのものを死ぬ思いで苦しんで書くというのがもう体力的にむりになった無料でも読まれないんだからなひと月で三話分30 枚しか進まない分冊の第二集を出せるのは四月になってしまうそれで全体の半分強今回は第三幕を十話で終わらせる予定だから後半のほうが少ない理屈にはなるけれどもそれでも夏には書き上がらない今年中に紙の単行本を出せるだろうか次の冬が来るまでに書き上げられればいいやと決めたどうせだれも読まないことがわかったので今回は好きな文体で書いている前回までは改行を殖やしたり鉤括弧を加えたりしていた読まれやすさを意識してそのような妥協をするのはやめた手っ取り早く自己肯定感が得られるのは読書なんだよな社会的に価値があると見なされている本を読み通すことができてなおかつその価値を理解できたぞという客観的に公正な指標を満たすことができる体にいいものを食べた感というか長い距離を走破した達成感というか今後はそういうものを求めることに決めたむりはしない


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。