杜 昌彦

D.I.Y.出版日誌

連載第314回: ソーシャルメディアと竹筒

杜 昌彦書いた人: 杜 昌彦, タグ:
2021.
02.15Mon

ソーシャルメディアと竹筒

ソーシャルメディアのアルゴリズムに最適化された人間であること、は生まれつきの資質ないし能力であって努力でどうにかできることではない。人間は生まれながらにしてアルゴリズムに差別される。あるものは祝福されあるものは排除される。そういうものなのだから仕方ない。しかしどのように最適化されるかも重要で、アルゴリズムに振りまわされた結果、企業の方針転換によってあっさり切り棄てられることもある。黙らされ去勢されることで男の子の遊びに混ぜてもらえる女児を描いた漫画について「女が会議に口を出すな。わきまえろ」と主張する、twitter の人気アカウントが書いた記事をうっかり途中まで読んでしまった。そういう考えがソーシャルメディアでは優先表示され正しいものとされる。わかりやすいから。差別や暴力に加担する側だから。企業にとって金になるし政治家が民衆を操りやすくなるから。権力があなたから搾取しやすくなるから。あれは明確に古い時代の価値観をサディズム・マゾヒズムの性的描写のために援用した漫画なんだよ。明らかに意図的にそういう文脈でやっている。アングラな漫画や絵画のサディズム・マゾヒズム描写をそれとわかるように引用しているし、同様に家父長制の価値観をも道具立てとして利用している。だから日本刀で斬殺される女性がことごとく性的な表情で描かれるんだよ。それで幼い性に目覚めた男の子たちが十年後にどうなるか見ものだね。職場の休憩室にあるテレビで缶コーヒーのCMを見たよ。ポルノ産業を美化するドラマの主人公を演じる役者が、かつて巨大ロボットに憧れた男の子がおじさんになって実物大の模型をつくろうとして、若い女性社員におじさま素敵、といわれる話だったよ。あれは認めるのに、日本刀で美少女を斬殺することを性的に美化した作品に憧れた男の子たちが大人になって何をするかは考えないんですか。それはないことになるんですか。鬼としての強大な力を竹筒で封じられることで兄の仲間に入れてもらう話なんだよ。鬼としてあるがままの力を発揮して年上の男の子たちをやりたい放題に食い散らす話じゃないんだよ。封じられる力が口にあることには明確な意味がある。サディズム・マゾヒズムの文脈においてあたかもそれがいいことであるかのように描かれる作品なんだよ。ちゃんと読めや。読まずに差別に加担するから優先表示されて人気アカウントなんだよな、企業によって都合よく調教されたユーザにその軽薄さが支持されているんだ、まぁわかってはいるけどさ。ほんと腹立つ。この国でまともな出版をやろうとしたらサミズダートにならざるを得ないわけだよ。それとはまた別の記事で、くだんの漫画を「わきまえない」とするタイトルを見た。タイトルを見ただけで読みに行かなかったのは腹が立つのが目に見えているからだ。いやいやいや、めっちゃわきまえさせられてるじゃんよ。口に竹筒くわえさせられて黙らされて鬼の力を抑制させられて、それでお兄ちゃんの仲間に混ぜてもらってんじゃんよ。この国に言論の自由がないとまではいわない。ないかあるかでいえば、まぁ、あるけれど、しかしこの国における言論は、政治的にずいぶん都合よく表示がコントロールされている。権力にとって都合の悪い言葉は目につきにくくされ、ユーザにとって無価値なもの、誤ったものと映るようにされて、竹筒をくわえさせられわきまえさせられている。都合のいい言葉だけが優先表示され、正しいものとして権威づけられる。これ本当に自由な社会なの。わたしにはそうは思えない。一方でこの「正しさ」は不変ではない。あなたが「正しい」側について「誤った」側を高みから貶め、わきまえさせていても安心はできない。ソーシャルメディアのアルゴリズムは独裁国家の思想教育みたいだ。あるときに正義とされていたことが、ちょっとした風向きの変化で悪とされ、失脚し粛正される。MeToo や BLM が正義とされトランプが悪とされたのはたまたまにすぎない。いずれもアルゴリズムの扇動にひとびとが流された結果でしかない。人気急上昇中だった女優ジーナ・カラーノはそれでキャリアを喪った。自分は差別主義者じゃないから関係ない、と思っていたらいずれ足をすくわれる。クリックひとつで万人を意のままに操れる装置があれば JR 少年はそれを売り出して金儲けしようとするだろう。それを悪だといわれたら「なんで?」ときょとんとするだろう。われわれは彼を批難する言葉を持たない。その悪夢が実現したのが現代のソーシャルメディアなんだよ。


(1975年6月18日 -)著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。最新作は『ぼっちの帝国』。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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