D.I.Y.出版日誌

連載第311回: ソーシャルメディアと竹筒

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2021.
02.15Mon

ソーシャルメディアと竹筒

ソーシャルメディアのアルゴリズムに最適化された人間であることは生まれつきの資質ないし能力であって努力でどうにかできることではない人間は生まれながらにしてアルゴリズムに差別されるあるものは祝福されあるものは排除されるそういうものなのだから仕方ないしかしどのように最適化されるかも重要でアルゴリズムに振りまわされた結果企業の方針転換によってあっさり切り棄てられることもある黙らされ去勢されることで男の子の遊びに混ぜてもらえる女児を描いた漫画について、 「女が口を出すなわきまえろと主張するtwitter の人気アカウントが書いた記事をうっかり途中まで読んでしまったそういう考えがソーシャルメディアでは優先表示され正しいものとされるわかりやすいから差別や暴力に加担する側だから企業にとって金になるし政治家が民衆を操りやすくなるから権力があなたから搾取しやすくなるからあれは明確に古い時代の価値観をサディズム・マゾヒズムの性的描写のために援用した漫画なんだよ明らかに意図的にそういう文脈でやっているアングラな漫画や絵画のサディズム・マゾヒズム描写をそれとわかるように引用しているし同様に家父長制の価値観をも道具立てとして利用しているだから日本刀で斬殺される女性がことごとく性的な表情で描かれるんだよそれで幼い性に目覚めた男の子たちが十年後にどうなるか見ものだね職場の休憩室にあるテレビで缶コーヒーのCMを見たよポルノ産業を美化するドラマの主人公を演じる役者がかつて巨大ロボットに憧れた男の子がおじさんになって実物大の模型をつくろうとして若い女性社員におじさま素敵といわれる話だったよあれは認めるのに日本刀で美少女を斬殺することを性的に美化した作品に憧れた男の子たちが大人になって何をするかは考えないんですかそれはないことになるんですか鬼としての強大な力を竹筒で封じられることで兄の仲間に入れてもらう話なんだよ鬼としてあるがままの力を発揮して年上の男の子たちをやりたい放題に食い散らす話じゃないんだよ封じられる力が口にあることには明確な意味があるサディズム・マゾヒズムの文脈においてあたかもそれがいいことであるかのように描かれる作品なんだよちゃんと読めや読まずに差別に加担するから優先表示されて人気アカウントなんだよな企業によって都合よく調教されたユーザにその軽薄さが支持されているんだまぁわかってはいるけどさほんと腹立つこの国でまともな出版をやろうとしたらサミズダートにならざるを得ないわけだよそれとはまた別の記事でくだんの漫画をわきまえないとするタイトルを見たタイトルを見ただけで読みに行かなかったのは腹が立つのが目に見えているからだいやいやいやめっちゃわきまえさせられてるじゃんよ口に竹筒くわえさせられて黙らされて鬼の力を抑制させられてそれでお兄ちゃんの仲間に混ぜてもらってんじゃんよこの国に言論の自由がないとまではいわないないかあるかでいえばまぁあるけれどしかしこの国における言論は政治的にずいぶん都合よく表示がコントロールされている権力にとって都合の悪い言葉は目につきにくくされユーザにとって無価値なもの誤ったものと映るようにされて竹筒をくわえさせられわきまえさせられている都合のいい言葉だけが優先表示され正しいものとして権威づけられるこれ本当に自由な社会なのわたしにはそうは思えない一方でこの正しさは不変ではないあなたが正しい側について誤った側を高みから貶めわきまえさせていても安心はできないソーシャルメディアのアルゴリズムは独裁国家の思想教育みたいだあるときに正義とされていたことがちょっとした風向きの変化で悪とされ失脚し粛正されるMeToo や BLM が正義とされトランプが悪とされたのはたまたまにすぎないいずれもアルゴリズムの扇動にひとびとが流された結果でしかない人気急上昇中だった女優ジーナ・カラーノはそれでキャリアを喪った自分は差別主義者じゃないから関係ないと思っていたらいずれ足をすくわれるクリックひとつで万人を意のままに操れる装置があれば JR 少年はそれを売り出して金儲けしようとするだろうそれを悪だといわれたらなんで?ときょとんとするだろうわれわれは彼を批難する言葉を持たないその悪夢が実現したのが現代のソーシャルメディアなんだよ


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。