杜 昌彦

D.I.Y.出版日誌

連載第312回: 人間扱いされたい

杜 昌彦書いた人: 杜 昌彦, タグ:
2021.
02.11Thu

人間扱いされたい

トランプはソーシャルメディアにとって金になるコンテンツだった。だから優先表示したし、それに対する苦情は黙殺したり表示を抑制したりした。そのことは統計にも表れた客観的事実だ。一般のひとびとは企業によって意図されたものを見せられているという事実が理解できない。権力によって与えられたものを無条件に正しいと信じ込んでありがたがる。小説なんか書かずに顔を売れ、という藤井太洋さんの助言はやはり正しいのだと思う。しかしただ顔を売ればいいというものでもないのは過去に痛い目を見てわかっている。だれに売るかが重要だ。筋の悪い客層に売り込んでもろくな結果にならない。そして自分に適した客がどこにいるのかわからない。自分に合うソーシャルメディアがなければつくる、というのも考えるのだけれど、他人とうまくやれない自分に合う、という時点で自分にしか適合しないお一人様インスタンスが確定してしまう。それはこれまでにもやってきたことで、それはそれで役立ってはいるが何も進歩がないし、いま必要なのはそういうことではない。Ultra Community というプラグインを試した。BuddyPress よりずっといい。しかしいま人格 OverDrive でやるべきことではないなと感じた。ひとに気に入られる努力をすべきなのかな。自己肯定感のために別な人間になるのはそれはそれで本末転倒という気がするけれど。それで何度も twitter を、リサーチといえば大げさだけれど見に行って、自分に接点のありそうな単語をいくつか検索したりして、そこから先の作業を考えたら気が遠くなった。フォローしていいねしてリツイートして話しかけて話題に積極的に参加して……やはり向いていない。これまでにも何度も失敗している。あれはわたしとは異なるひとたちのための場所だ。いわゆるドブ板選挙みたいなことなんだよな。政策も何も関係ない。中身なんてどうでもよくて、ひとりひとりとの関係性を築けるのが大事。自分の知っているだれそれさんだからと票を入れる。聞くところによれば演歌歌手もそういう世界らしい。小さなレコード屋でうたって、客のひとりひとりと握手してレコードを手売りして、顔と名前を憶えて呼びかけて、逆に憶えてもらう。落ち目になった大物歌手がよく似た世界である同人誌即売会で挨拶回りをして、孫くらいの年齢のひとりひとりと握手して顔と名前を憶えて呼びかけて、それで紅白に返り咲いたと耳にした。むかしはそれでも芸の力もだれよりも求められたのだろうけれどいまはそうではない。受容するのに素養を要するようなものは求められない。知ってるものが表示されたから共有や購入のクリック、みんながいいといってるからいいねや購入のクリック、あいつはみんなが悪いといっているし気に入らないから袋叩きのクリック、それだけだ。ストアもソーシャルメディアもその仕組みを利用して商売しているし、だからこそ客もまたそのように躾けられる。一瞬の衝動で消費できないとか異なる観点を提示しているとか、彼らの都合に反していたら悪しきものと見なされ寄ってたかって石をぶつけられ排除される「新人賞に応募する」というのが結局いちばん楽なのかもしれない。でも最近はドブ板的な部分は当然のように著者がやらされると聞くし、一流大を出て一流企業で働く編集者たちとは会話がまったく噛み合わなかった。すでにあるもの、だれもが知っているものを書かねばならない、自分が自分であってはならないという点で、結局はソーシャルメディア同様に合わない世界に自分を最適化させなきゃならない。やっぱり何をやってみたところで四人囃子「おまつり」みたいだなと溜息をついている。いい結果を招く可能性がひとつも見えない。人間として当たり前の、最低限のスキルがわたしには欠けている。それがわたしの出版に価値がない理由だ。たかだかジムやコンビニに赴き、他人の顔を見ただけで気分が悪くなって一枚も書けなくなる。祝日で郵便局の用事が足せないのを口実に一歩も外へ出なかったら、多少は恢復して少しは書けた。そういう人間だ。ただこのままでいいとも思えず、であれば他人から人間扱いしてもらえるような人間にならねばならない。たぶん森喜朗の差別発言に同調して笑うとか、ペドフィリアに目くじらを立てないとかの技術が必要なんだろうな。社会で受け入れられる人間になるには。それができたら小説なんて書いてはいない。だからこそ藤井太洋さんは小説を書くな、顔を売れとおっしゃったのだ。わかってる、わきまえてるんだけどさ。


(1975年6月18日 -)著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。最新作は『ぼっちの帝国』。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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