D.I.Y.出版日誌

連載第306回: 消えればいいと思うが指を鳴らす能力もない

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2021.
02.04Thu

消えればいいと思うが指を鳴らす能力もない

自己肯定感の成立条件に他者を介在させてはならないコントロールできないから努力によって操作しうる要素のみで自己評価しなければならないそれはそうなのだけれどしかし社会的評価を完全に除外するのは社会にとっては適正な自己評価ではない思い上がり勘違い迷惑ということになるつまり評価としてではなく適正な評価としては無価値と自覚しつつ心持ちの問題として自己肯定感を得なければならないどのみち無価値な人生に変わりはないし自殺のコストを支払えないのであれば愉快にやり過ごすに越したことはない何かをなし得る人生ではないのだから出版がおもしろかった時期は終わったな試せることはぜんぶ試してなんの甲斐もなかったいまとなってはそれは顔を売るのが巧いやつが成功するゲームでしかなくなったソーシャルメディアとなんら変わりない。 『GONZOは書き上げられるかどうかわからない書きはじめた以上は最後まで書くつもりではいるしかし最低限信じられるだけのリアリティもないしユーモアも精彩に欠ける単純に失敗作なのだろうわたしには小説を書いて出版をする最低限の能力がないのだこれまでに書いた分を読み返すとバイアスがかかっておもしろいかのように錯覚するのだけれどこれから書かなければならないことを考えるとどうも自分はこの物語をよく理解していないことがわかる理解しないまま何もわからないまま手探りで書いているので時間がかかるのも当然だ書いた分が正解なのかもわからないアクションもののよくあるパターンだけで書けば楽なのではというところからはじまった企画だけれどソーシャルメディアで人気の漫画に腹を立てたのがそもそもの動機ではあるけれど筋書きにおいては技法から発想している)、 よく考えてみればわたしはこの年齢なら当然理解していなければならない社会常識や当然経験していなければならないことを何ひとつ知らない知能の発達に問題がありすぎてそれが小説の拙さにもあらわれている細かいことはどうでもいいZ級アクションを最初から狙っていたとはいえやっぱり安い嘘でいいところとちゃんと書かなきゃいけないところはあると思うんだよ少なくとも読んでいるあいだだけは信じられるような嘘でなければならないのにそれができない46 歳の大人がこんな幼稚で稚拙なものしか書けないのは恥ずかしい社会的にも書くことにおいても無能である上に遅かれ早かれ失明するらしいことがわかったいまとなっては、 『GONZOの完結どころか別の小説を書くことすらないかもしれない考えてみればこれまでにもたいしたものは書いてこなかった。 『ぼっちの帝国は出版した 2019 年当時の流行をこれでもかとばかり詰め込んだ内容なのだけれどその売りが紹介文や宣伝文から伝わらず三万五千円にしかならなかった社会的に無能すぎたのが売れなかった理由だと信じるが客観的にはやはりただのゴミなのかもしれないどうでもいい他人に呼び出されて公然とばかにされたのと気の毒がってくれた柳楽先生にていねいな感想をいただいたことがあるだけであとはだれからも一度たりとも言及されずまして評価などされなかった。 『Pの刺激の初稿はホラ大と幻冬舎で最終だったし乱歩賞でも二次に残ったから商品価値はなかったにせよ二十代の若者が書いたものとしては伸びしろのある出来だったのだろうしかし書きなおすうちに短くなってつまらなくなった三万五千円。 『悪魔とドライヴはだれからも指摘されたようにたいした出来ではないが中編としてはあんなものかもしれない九万円を稼いだから最安の Mac mini と同じだけの価値はあったということかいやそんなわけはないだろうあれはひどいゴミだよ一見ペド小説みたいにも読めるので金になったのかもしれない。 『逆さの月は最低のゴミだがその割には二万これは広告に無駄金を突っ込んだからかあとはどれも人前に出せないゴミ以下の恥だソーシャルメディアでうまくやれないために何をやってもだめというのがきつい逆に何をやってもだめだからソーシャルメディアでうまくやれないともいえる努力の報われなさに問題があるんだよな報われたという判断には他者の介在が不可欠だこれはどうしたって免れようがないもうちょっと読まれるための努力をすべきなのかなぁそれはまったく無駄なことで見返りのない努力をすることに疲れてはいるかといって現状がいいとも思えないし努力をやめるのも何か違う気がする人間としてThe Beatles について調べていると登場人物のだれもかれもが魅力的で成功したプロジェクトはひととの縁でできてるんだなぁと実感する決して主役の才能だけでは成り立っていない作家になろうとしていた若い頃は控えめにいって縁に恵まれなかったと思う類は友を呼ぶというけれど価値のない人間には上から目線で貶めようとする輩しか寄りつかないのだそのことを身に染みて理解したいまは寄稿者にとってののひとつに自分がなれたらいいなと願っているおこがましいのは承知しているし現状なんの価値も提供できていないのも今後もその見込みがないことも所詮は何ひとつ満足にやれない無能である事実も理解してはいるが


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。