D.I.Y.出版日誌

連載第305回: トランプのようでなければ死ぬしかない

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2021.
01.29Fri

トランプのようでなければ死ぬしかない

筋の通らぬ理屈に従うよう強要されたとき思考を停止して従うことはできるしかしそれと同時に主体性を求められるとわたしにはその相反する要求を満たすことはできない別の人間になるよう求められたことになるからだ筋が通らぬという認識はわたし個人のものでしかないだれとも共有されていない社会において共有という言葉が用いられるときその意味するところは全体で正しいとされた認識に沿って発言しろということだ全体に抗ってまで我を通そうとは思わない結局のところわたしは何も理解していない全体にとって正しい理屈があるのならそれが正しいのだろうであればそれに従う従いはするがそこで前提とされた認識がわたしとは相容れない以上主体的であることは論理的に不可能だ全体としては相容れない時点でわたしの過ちでありその誤りは正さなければならないということになるであればそれは結局のところ主体的という言葉の定義に反するしかし言葉の定義なんてものはそれが用いられる集団によって異なりうるものだ全体といったところで結局は局所的な集団でしかない相容れなければよそへ行く自由があるしかしそれはあくまで能力がある人間の話であって何をやらせてもだめな人間には行くべきよそがない変化は悪化に直結する暮らしが立ちゆかなくなるこれは実社会本業においてでも比喩出版としてでもそうで Amazon を離れて本は売れないわたしは脳に障害があり健常者が当たり前にやれることの多くができない努力はしているが周囲からはふざけて怠けているようにしか見えない生きているだけで迷惑なので顰蹙を買い社会から排除されるここで重要なのはそれが悪であると適正な判断がなされ社会から排除されることだわたしには過剰な自己愛はないはずだ少なくとも精神医学的には問題ないと診断されているしだれかれなく他者を見下したりはしないそう易々と他人を見下せるほど自分を高く見積もってはいない自分に何か価値があるかのように取り違えたりもしない書いたものに価値があると思いたいが現実にはそうでないのを理解している)。 他者に対して積極的に害をなしたりすることもないところが強烈な自己愛と独特のこだわりを持ちだれかれなく他者を見下し自分のルールを押しつけ自分を絶対に正しいと信じて疑わず批判はすべて不当ないじめだと感じてそのように吹聴する種類の人間は社会的に適正なものと認められやすい上長によってそれが正しくその正しさに違和感をおぼえる側が不正でありまちがっており劣っており修正ないし排除されるべきだと見なされるつまりはお墨付きが与えられるお墨付きが与えられることによってそれが正しいことになるそのようにしてそうしたひとびとは社会にまかり通るそのような人物が入り込んだ組織企業であれ家庭であれ組織としては問題なく運営されるにしても所属するそれ以外の人間はすべて疲弊する誤っている側と認定されるからだお墨付きがある以上は自己愛者のいいぶんが正しいことになりそうである以上はそれ以外の人間は誤っており劣っておりその人物を虐げていることにされてしまうだれに悩みを訴えても断罪されるだけだ受け入れてやらねばならない差別だなどとあべこべに批難されるいわゆるカサンドラ症候群だある人間は暴力を受け入れねばならずある人間はあるがままにだれに対してもひどい仕打ちをして構わないというこの差はどうして生じるのだろう人格に問題があってもみずからの欠陥を顧みるところがなく他人のせいにして社会にまかり通る自分を疑わないからまかり通るしまかり通るから自分を疑わないひとたちはどうしてそのようにうまくやれるのだろうそのひとたちとわたしは何がちがうのだろうひとつには人間性という観点では社会のプロトコルから大きく逸脱していながら人間性を疎外する要素においては都合よく既存のプロトコルを利用できる才覚があるかどうかだそれがゆえに異常者である点では大差ないのにわたしは罰を受け彼らは罰を他人に押しつけたうえにその他人を世間の先に立って批難するそのようになりたいかと問われたらうーんなりたくはないのだけれど世間はそうしたひとたちの味方でありそうしたひとたちが社会では正しいとされるので社会的にまちがった人間わたしであるよりは適切な人間でありたいしかし彼らが正しいとされるのは踏みつけにされた誤りを押しつけられたひとたちがいるからであって実際という言葉の定義がもはや怪しくなるがには彼らは正しくないそのように立ちまわっただけだそのように立ちまわる方法を知りたいだろうかよくわからない他人を苦しめたくはない苦しめたくないから適切になりたいのであって適切になるために苦しめるのでは意味がない


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。

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