イシュマエル・ノヴォーク

ペリフェラル・ボディーズ

第11話: ジェイク・キニスキー、文学を語る

イシュマエル・ノヴォーク書いた人: イシュマエル・ノヴォーク, 投稿日時: 2021.01.08

 キニスキー氏とコンタクトがとれたことは幸運以外の何物でもなかった私自身寝耳に水とか青天の霹靂とかそういった仰々しい言葉を並べ立てたくなるような気持ちだったキニスキー氏は言わずと知れた小説家だがこれまで一切のインタビューを受けないばかりか著書に掲載する顔写真すら別人のものを貼り付けるような人物だ誰かに騙され担がれているような気持ちだったはじめ氏はインタビューの場所をスキッドロウのモーテルを指定したが私は反対したはっきり言って危険だからだ次に指定されたのはコンプトン同じように却下させていただいた紆余曲折あったが最終的にイングルウッドの公営住宅の中庭に決まったどうしてこんな場所になったのか? 氏が住んでいた場所はインペリアル群だったはずだわけがわからなかったが絶対に機会を逃したくなかったので提案を呑んだ
 インタビュー当日約束の場所に辿り着いても中々自動車から出ることができなかった白人男性で護身用の拳銃を持たずにこんな場所にいるなんていいカモだろう窓ガラスがノックされた時はガベルが打たれたような気持ちにさせられた私は怯えていたおそるおそるパワーウィンドウを下げると球形サングラスにくしゃくしゃの髪の毛の中年男が立っていた 世間一般に危険と知れ渡っている場所で夜を一緒に過ごそうぜとプリントされたTシャツの上にアロハを羽織ったヒッピー然の男が立っていたらどんな気持ちになるだろう? 私は混乱した
遅れて悪いジェイク・キニスキージェイクって呼んでくれよさぁお喋りしようぜ
 キニスキー氏は公営住宅の敷地に入って行きジロジロ見ているアフロ・アメリカンたちに気さくに挨拶をした刺すような視線を感じていたがキニスキー氏はお構いなしといった様子だった氏は勝手知ったるといった態度でテーブルに腰を下ろして私に座るよう促した腰を下ろした私がポケットからソニー製のポケット録音機をとり出すと氏は首を横に振って
エリック・ドルフィーも言っただろう? 音楽は捉えることができないってさ

         ☆

 どうしてこんなことになったのか種明かししようインタビューを受けるのに提示された金額が良かったからさロサンゼルスまでの航空機チケットとその後のちょっとしたお楽しみの代金まで支払うからと言われた時おれは耳を疑ったとうとう狂っちまったのかと思ったよ牛乳を飲みハーシーの板チョコレートとハシシュ……ハッパを吸ってから考えた深く考えたそれこそ手足がなくなりそうなぐらいにそのあたりはゲイリー・スナイダーとかアレン・ギンズバーグに聞いてくれよおれよりももっと詳しく話せるだろうからなでも聞いて楽しいかは別だぜ?
文学について語ってくれと言われて金をもらう仕事なんてそうはないボヤっとした話だしな物語を書いてそれをメシの種にしようと考えている若い奴らに何を読みどう考えるべきかを言うことは余計なお世話さ好きなものを読み好きなものを書き好きなものを吸ったらいいタバコ葉巻ラタキア葉のちょっと酸っぱい匂いのパイプ水パイプは遠慮しておくよ甘ったるいのが苦手なんだ
 
 使っている機材? バロース加算機のタイプライターだよウィリアム・バロウズの祖父さんが作った会社さ最近じゃあインクリボンを買うのも一苦労させられるステイシーに言われるんだ。 「いい加減パソコンを買ったら? パソコンがあればインターネットにも繋げるし調べものも何か必要なものを買うのにも便利よ?ってなそういうわけでマリネッティに電話していいパソコンはないかと聞いたんだ
 
 マリネッティについて? あぁあいつはイタリアに住んでいてヘンテコな映画を撮っているあいつが若い時たしか一八歳とかそんな頃に知り合ったんだとびきりいい奴さパソコンをプレゼントしてくれたしなダンボールからパソコンをとり出して片手で吸盤みたいな緩衝材を潰しながらパソコンを開いた固まっちまったよどこを押したらいいんだろう? ってなステイシーに聞いてパソコンのスイッチをいれてインターネットを接続してもらったベルリンの壁が崩壊した時東ベルリンの若い奴らははじめにどこに走ったか知っているかい? ポルノショップだとさその点おれは抜けていた自分自身しまったと思った気恥ずかしい気持ちで一杯になったなぜってはじめにしたのはインクリボンを買ったことなんだからな
 
 詩について? グルーヴィフランス詩は一九世紀の詩の頂点だとはいえおれのフランス語なんてせいぜいセラヴィ フランス語は詩に向かないって言う奴がいるが誰の受け売りなんだろうな言ってやりたいよマラルメはどうなんだい? ってな
 
 好きな詩人? ヴィヨンだ泥棒だったしな泥棒っていう意味ではジュネもいい一緒に飲むならこういう奴がいいおれはビートニクにはイマイチ乗り切れなかったケルアックもバロウズもギンズバーグもいいんだがどうにも馴染めないところがあったなんていうか真面目さを感じちまうんだバロウズはカミさんを撃ち殺したしヘロイン中毒だったが指先ペン先は素面だったように思うよ
 
 同時代で好きな作家? 生きていて好きな作家なんていやしないぜでもしいて挙げるとするならノーマン・メイラーは好きだぜ作品じゃなくて名前がね口に出しやすい会ったらガッカリしそうだから会わないようにしているんだでもいい奴なんじゃないかと思っているよ
 
 今までで自分が書いた中で一番面白いと思うもの? もしそんなものがあってそれをリストにできる奴がいるとしたらそいつは廃業したんだ次のほうがいいに決まっているコールリッジはクブラ・カーンで何て書いた? 明日はまだ来ない……つまりはそういうことさ

 他に好きなもの? モータウンビーチ水着姿の若い女ハッパもういいだろう? 読む奴も退屈しているぜ若い奴らにアドバイス? 好きに書いたらいい物語じゃあこれをやったらマズイことなんてものはないんだいい加減パーティーにしようぜ? ピザを五十枚ぐらいデリバリーしよう牛一頭まるごとのバーベキューは見たことあるかい? ここにプールがあればプールサイドに寝そべってハイネケンでも飲みながら羽を伸ばせるんだがプールと言えば家の庭にプールを作ろうと思ってスコップで穴を掘ったことがあるんだどうなったかって? 水道管を突いちまったらしくて庭中が水浸しさステイシーのガーデニングを腐らせちまって張手をお見舞いされたよとりあえず付け合わせのライスを撒いてみたんだが来年は収穫ができるかもなグルーヴィそういうわけでインタビューはおしまいだ誰かハイネケンを持ってないかい?


『ロクス・ソルス』という同人小説サークルで活動しています。それから、ジャズピアノの演奏活動をしています。気が向くと絵を描いたりします。
amazon