D.I.Y.出版日誌

連載第297回: 別の展望

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2020.
12.21Mon

別の展望

適正な読者を見出すあるいは彼ら実在するとしてに見出される方法はどこにあるのだろう? 今月の売上表示機会が抑制されているのか実際には読まれているのに管理画面上収益がないかのように調整されているのか一頁も読まれていないのに順位がジャンル一桁台に入ったりするので後者のような気がするのだがいずれにせよ先月の十分の一しか稼げずに終わりそうだしかしそれでも人権意識の偏った客や本を読む能力のない客に読まれるよりはまだましだtwitter のアルゴリズムは差別や偏見や暴力を助長したりペドフィリアやサイコパスに被害者をマッチングしたりするのに最適化されているAmazon のアルゴリズムもまた同様の機会を強化する方向性に最適化されている現代ではそれらが効率よく金を稼ぎ稼ぐことによってさらに稼ぐ機会を雪だるま式に増大させるからだそうしたアルゴリズムに最適化されたコンテンツあるいは人間のみが価値あるものと見なされるそれ以外は切り捨てられ表示機会を喪うアルゴリズムに評価されることのみが人間の価値になってしまっているあまりにそのことが当たり前になりすぎていてだれも疑うことがない疑うも何もそれがすべての土台になりはてているそんな世界においていかにして本を売るかという話なのだがこれは前提を疑うべきではないかという気がしているすなわち現代に生きるわれわれは遮眼革を装着せられた競馬馬のごとくビッグテックが規定した世界を見せられているわけだけれどそもそも見せられた世界を見せられたまま受け入れずともよいのであるそんな当たり前のことがわれわれにはわからなくなってしまっているなんでも見せられるがままに信じてしまうような旧弊で頑迷な世代のみがしがみつくばかりで時代の変化に柔軟に適応する新しい世代はインターネットをだれも信用しなくなる日が半世紀以内に訪れるだろうその前に Amazon はおそらく 30 年以内にいまのトイザらスやタワーレコードのようになる彼らのアルゴリズムはあまりにもギャディスJ R的で嗜好というものを一顧だにしないからだGoogle はあまりにもわれわれの視野と同一化してしまったがゆえにそれがだれにも信じられなくなり別の何かが台頭し取って代わられるまでにはもう少し時間を要するはずだしかしそれほど遠い未来ではない半世紀以内にその交代は起きるもしかしたらその時代をわたしは見届けることができるかもしれないわたしはいま 45 歳で祖父は 93 まで生きたからだしかしそれまで待つつもりはない別の世界を視ることがいま必要なのだいま本を売らねばならないもうひとつ別のインターネットをつくる話をさいきん読んだか観たかしたのだけれどもブリーディング・エッジだったかドラマシリコンバレーだったか思い出せないインターネットが廃れてオルタナティヴな情報網が立ち現れる話はもっと古くからあってマイケル・マーシャル・スミスなんかも前世紀末にそういうのを書いてたような気がするあるいはもっとフィジカルなものであるかもしれなくてだから 2005 年にPの刺激でそのような世界を書いた。 『パターン・レコグニションのインターネットを地方都市の路地にソーシャルメディアを壁の落書きやチラシや吊革広告に置き換えたなんにせよいまのやりかたはいつまでも続きはしないしもしも続いたら文学をはじめとする芸術は滅びるだろうけれどもそう簡単に滅びるようなことはないと信じる現実的なことをいえばこの国の市場ひいては教育や文化においてはすでに滅びて二度と取り戻せないのではないかと疑っている)。 それは人権や嗜好や感情に関わる何かであり人間の本質と結びついているからだそれを疎外して価値を決めつけたり押しつけたりするような力や社会あるいは視野ものごとの見方からはひとはいずれ自然と離れていく個や主体性が憎まれるこの国の社会ではどうかわからない)。 『巨匠とマルガリータは国家によって出版を許されなかったいまでいえば Amazon や Google のアルゴリズムが表示機会を抑制するのとおなじだしかし読者はそれを隠れて印刷しまわし読みした罰せられると知りながらもしかしその読者らは権力によって存在しないことにされたその本をどうやって知り得たのだろう? そこに抜け道の手がかりがあるような気がする。 『あの本は読まれているかドクトル・ジバゴは海外で読まれ政治的な意図によって持ち込まれた現代でいえば武漢日記も似たような経緯をたどっている⋯⋯うーんこの線で考えても何も得るものはないな。 「が存在しないからだ現時点では。 「を期待するのもばかげている虫がよすぎるわれわれ自身が主体的に力を持たねばあるいはインターネットはそのままでビッグテックを置き換えるものをオープンソースで実現するというのはありかもしれないしかしオープンソースコミュニティそのものが排他的で差別的であったりもするFediverse の考え方はきらいじゃないがそれが何かを実現するとは思えない現にオール・トゥモロウズ・パーティーズに思考を垂れ流したところでなんの役にも立たないカルトに汚染された政党や広告代理店を背後にもつ中央集権の資本主義サービスとは異なりどこともだれともつながっていないからだつながりを目的としてもいない孤/個を尊重する何かがほしいしかし情報は伝達されねばならないこの矛盾を解消するような何かが必要でその実現のためにはいま現在この地上には存在していない新しい考え方が必要となる考えてみればブルガーコフは出版社によって見出され育てられてある程度知られたのちに弾圧されたわけだつまり潜在的な価値がすでに知られていた現代では出版社によって資本が投下されそこで見出され育てられて広く知られいざこれから資本を回収せんという段階で出版社とかかわるより自力で出版したほうが効率よく儲かることや取り分を減らしてまで出版社とかかわったところでだれからも何からも護ってもらえないばかりか得るための努力すら著者の自助」 (ソーシャルメディアでの立ちまわり頼みで結局は自力でやるのと何ひとつ変わらない上に制約ばかりが増えることに気づいた作家が離れていくという現象が海外では生じはじめている (「海外ではということにしておこう)。 出版社はキャリアの最初期において世間に価値を知らしめるためにのみ作家に利用される時代が訪れつつあるであれば出版社である必要はない広告代理店で充分だというか広告代理店やカルト政党かつての自民党はそうではなかったが背後についている中央集権の資本主義サービスをクラックすればいいだけの話だだれも話題にしていないことのみが話題にされている単語がトレンドに表示されているのを見たことはないだろうか? あれはそういうことだ広告代理店が世論や消費行動を操作するために何かをやっているそれによって火のないところに煙が立ちやがてはオーストラリアの森林火災のごとく燃え広がるつい最近も十代の少年が仮想通貨で詐欺を働くためにソーシャルメディアをクラックした事例があったけれどそんな技術があるのであればトレンドを編集すべきだったさりげなく単語を忍び込ませれば運営側には気づかれないというか悟られぬよう表示させればいい連中が普段われわれに対してやっているように気づいて削除したところで手遅れだ大衆はそのようにしていくらでも操作できる売りたいものを売ることができるし差別主義者を大統領にしたかと思えば掌を返して道化に仕立てあげたりもできるもちろんこれは大きな商機でもあるからすでに利用されているはずであなたがそのことを知らないのは連中にとって金にならないからにすぎない考えつくすべての悪い商売はすでに行われておりそうしたものに抗う芸術は価値として認められるすべから完全に疎外されている表示機会の抑制によってすべての芸術が葬り去られたあと残るのはなんだろう? そんな世界に生きていたいだろうか? その答えは地下出版物のディスカバラビリティや流通手段を新たに構築できるか否かにかかっている壁崩壊前の東ベルリンでは禁じられたパンクロックのコンサートが教会インターネットのはるか以前二千年前からつづくソーシャルな情報網で密かに行われた神父がそれを支援したのだ手段は見出されるものだもしあなたがそれを望めば


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。