イシュマエル・ノヴォーク

ペリフェラル・ボディーズ

第5話: ビートボックス

イシュマエル・ノヴォーク書いた人: イシュマエル・ノヴォーク, 投稿日時: 2020.10.24

 ラスターは五人兄弟の末っ子で家族全員から可愛がられた彼は兄弟の中で唯一まともに学校に通ったなぜなら兄たちが毎日口を揃えるように
おれみたいになるなと言い続けたから兄たちがストリートで有名だったことからラスターは学校でいじめに遭うこともなかった
 公営住宅の狭い部屋では兄たちが日課のように過激な言葉をぶつけ合ったりしたもののラスターが同じような言葉を遣うことは許さなかった
 イングルウッドという土地の中でラスター・ライカーガスほど温和な少年時代を送った者はそう多くないだろうそれでも彼の心の中にはイングルウッドを抜け出したいという感情が生まれその感情は日毎大きなものになっていった

 ラスターはリュックサックにノートパソコンとヘッドフォンを入れパイオニア製MIDIコントローラーを小脇に抱えると母親と兄たちが母親の産道を通った順にハグをしたラスターが感謝と愛を伝えると母親が涙を流したラスターは先週買ったばかりのスポーツシューズを履き家を出た
前庭に置かれたテーブルクリーム色をした公営住宅鉄格子が設置された窓ガラス

 後ろからクラクションが鳴らされラスターが振り返ると苔色をしたシボレー・カプリスが停まっていた自動車の窓ガラスの隙間からルベーン・カンポスが顔を出し
空港まで乗せて行ってやる
 ラスターは迷ったが結局カンポスの自動車に乗り込んだ
 自動車の中には子ども用のゴム人形やミニカーが沢山置かれているラスターが
これ誰の?
 首を鳴らしたカンポスが孫のだよ
お爺ちゃんになったんだ
 カンポスは前を見たままそう……道理で老いぼれちまったわけだ

 フリーウェイに乗りカプリスが速度を一定に保つ等間隔の自動車景色がゆっくりと色を変えていく

 口を開いたカンポスは自身の家族について語り出す生まれたばかりの孫について終身刑が言い渡された息子のマルティン中古車市場の不景気について眠気を感じたラスターが目を擦るとその機械は何に使うんだ?というカンポスの声ラスターが話し始めカンポスは黙ってうなずく
 ラスターがMIDIコントローラーの説明を終えるとカンポスが
向こうの家はどうなっているんだ?
ワシリーとルームシェアするんだ
ワシリー?
うんワシリー・スタフスキー
ロシアン・マフィアか?
ロシア系が皆ギャングっていうわけじゃないよ
そうか? おれの知っているロシア人は皆やくざ者だおまけに飲んだくれ
偏見だよワシリーはそういう人じゃない
そうか? ならいいんだがそれでもそのロシア野郎がお前に何かしたらすぐに言えよ? 目にモノを見せてやる
ワシリーはそういう人じゃないから安心してよぼくと同じトラックメイカーなんだ
クスリを製造するのか? 昔耕運機を改造してドラッグ製造機にした奴がいたんだそいつとはムショで会った本当の話だお前の親父……ミルマーも一緒だったしウルピオに聞いてもいい
嘘だなんて思わないよウルピオは元気にしている?
あぁ一昨日も会ったが相変わらずだった今日もマトリョーシカみたいなピンを拾っているだろうさ結局変わるものなんてないのかもな
 空港に着くとラスターはMIDIコントローラーを小脇に抱えてドアを開けた
金は? チケットは忘れていないか? スられたりしたら目も当てられないぞとカンポス
大丈夫だよ
大体服も持たずにピクニックだってもう少し荷物があるのに
ルベーンぼくは大丈夫一人前って言うにはまだまだかも知れないけれどなんとかする
 ラスターがありがとう身体に気を付けてと言ってドアを閉めようとするとカンポスが
おれが……
 ドアが閉まるカンポスは小さくなっていくラスターの後ろ姿を見つめながら
ミルマーを殺したんだ……おれがお前の親父なんだ


『ロクス・ソルス』という同人小説サークルで活動しています。それから、ジャズピアノの演奏活動をしています。気が向くと絵を描いたりします。
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