D.I.Y.出版日誌

連載第288回: 世界を出し抜く

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2020.
10.19Mon

世界を出し抜く

ソーシャルメディアでもモールでも国家でもなんでユーザは見せられたものを正しいと思いこむのだろう違う視点を提供するとよってたかって叩かれる戦前戦中の日本と変わりないそうした社会から排除されるのはマーケットによる自然淘汰なんかではありえないそんな民主的で自然なものではないどうしてそれがわからないんだろうだれだって排除される可能性はあるのにファシズムを肯定するようなものだあるいは差別をただそういう権力による淘汰に抗うことは確かに現実には不可能だろうとも思う抗う表現は非表示にされるからだないことにされる権力による淘汰とはそういうことだ権力の側につく表現をするのか抗うのかどちらの側で書くのか人格 OverDrive は明確に抗う側を意図しているソーシャルメディアにせよモールにせよ意図があって何をどう見せるか決めているということを皮膚感覚として理解できるひととできないひとがいるのかもしれないできないひとにとってみれば自分が空気のように当然と思っていることを疑われたら自分が依って立つ足場を否定されたことになり侮辱されたように感じるのかもしれない腹を立て一方的に殴っていい相手と認定するのだろうそれは権力に都合のいい側の思考なのでだれもが加担するその暴力は社会的に正しいものとされるそちら側にいない者はどんなに侮辱されてもアンクル・トムさながらに作り笑いでやり過ごすことを強要される抗えば一方的に殴っていい相手認定され袋叩きにされるアンクル・トム扱いからののび太のくせに生意気だ一方的に殴ってもいいやつ認定作家にせよ読者にせよ編集者にせよ読書や出版という営みにおける主体でなければならないそう考えたくないひとたち権力に与えられたものをただ享受する立場でいたいひとたちにとって主体的であろうとするひとたちは都合が悪いだから一方的に殴るあらかじめ嘲笑の対象として位置づけられており逸脱は許されない薄笑いを浮かべて侮蔑を受け入れている分には許されるが抗うと袋叩きに遭うだからといってそのような扱いを甘んじて受け入れねばならない理屈はないそういう低い次元に交わればこちらまでくだらなくなる世界を出し抜かねばならない


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。