うへ

大人って歯も上手く磨けない

連載第41回: IBSライダー

うへ書いた人: うへ, 投稿日時: 2020.10.18

 うんこし放題。ある特別な才能を授けられたものだけがこのワードに感動を覚えることだろう。そう、過敏性腸症候群にとっては死活問題であり、人生の4分の1をトイレで過ごしてきたと言っても過言ではない。
 過敏性腸症候群には大きく分けて下痢型、便秘型、下痢と便秘を交互に繰り返す交替型という3つのタイプがあるのだが、その昔、私は下痢型と診断され、コロネルやイリボーといった薬を処方されたこともあった。今では症状が薬に頼るほどでもなくなったし、内科に通うのが面倒くさいので行かなくなった。というのも、あの頃に比べると格段に症状は落ち着いているからだ。だが、まだまだ悩みは解消されたわけではない。なぜなら私の腸はかつての下痢型から、「食後15分間ジンクス型」というメタモルフォーゼを遂げてしまったからだ。そう、変種である。未知との遭遇である。詳細をお話しよう。この食後15分間ジンクス型(以下、食GO15イチゴー型)というのは、飯を食らって15分もせぬうちに便意を催す、というもの。その便意はもはや我慢など到底できるレベルではなく、例えるなら尻の穴の力のみで「うんことしょ」と内界と外界の狭間で綱引きをしているあの我慢状態が食後15分以内に突如として必ず襲ってくるのだ。そんな事態が飯を食うたびごとに訪れる。
 私はよく「痩せていますね」だとか「ちゃんと食べていますか」と言われることが多い。そう人に声をかけられた際、「少食なので……」とか「食べても太らない体質で……」などと答えているが、マナーやエチケットというものを完全に無視していいなら、「いやー、食っても出るんすよ」と答えるところだ。
15分で出てくるとはいっても、そんな食ってすぐ出えへんやろ」
「昨日食ったもんとちゃいますのん?」
などと言いたくなる気持ちもわかるのだが、それは残念ながら否定しなければならない。なぜなら、さっき食った黄色いコーンがうんこに混在しているからだ。原型をとどめたまま。黄色いなりで。私も最初は目を疑った。さすがに15分前に食した黄色いコーンの粒が、消化されずにそのまま出てくるなんてことがあるはずがない、と。現実を受け入れるのに時間がかかった。証拠としてみなさんに画像をお見せできないのが残念だが、私のスマホには茶色いうんこにデザインが施されたアートなコーンが点在している写真が収められているのだ。疑うの? 載せるよ?

 過敏性腸症候群は毎日がサバイバルだ。用もないのに用を足しにデパートへ何食わぬ顔をして足を踏み入れるのに慣れるまで何年かかったか……。雑居ビルは基本誰が入っても怪しまれることはないので、駆け込み寺としての役割を果たしてくれる、という豆知識を編み出すのにいったいいくつの便器にライドしてきたことだろう。なんなら「駆け込み寺」というアプリを開発して、GPS(ゲリ・ピー・ストップ)を駆使したトイレマップをリリースすれば一儲けできるくらいには街のトイレの在処を把握している。
 正直、こういったデリケートな話題を匿名性もなく、プライベートな間柄の人たちも少なくない数の人が見ているこの場所で語るのは勇気のいることかもしれない。だが私はあえて言いたい。うんちを垂れ流してしまう同胞を見捨てることになるよりは、同じ悩みを抱えた同胞にうんちくを垂れるほうが(以下略)。

 私は新しい職場の仕事の心配よりも気になることがある。初日のうんこである。どんなトイレが私を待っているのだろうか。どんな便器にライドすることになるのだろうか。ライドする時間に制約はあるのだろうか。初日の昼は歓迎と称して食事に誘われるだろうか。その後15分以内に駆け込めるトイレは近くにあるだろうか……。
 仕事の内容よりもうんこの心配をしている私、来年30歳。


趣味でしかものを書いたことのない、名無しの素人エッセイスト(自称)。 この度、どういうわけか当サイト「人格OverDrive」の主宰者である杜 昌彦氏に「掲載してみませんか」とお誘いいただき、こちらに寄稿することに。 29年間、苦しそうなこと、辛そうなことから逃亡している人生。フリーター。 寄稿するジャンルは妄想エッセイ。虚実交えた物語を書いていきたいと思います。
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