杜 昌彦

D.I.Y.出版日誌

連載第287回: アルゴリズムを渡る

杜 昌彦書いた人: 杜 昌彦, タグ:
2020.
10.17Sat

アルゴリズムを渡る

人工ニューラルネットワークが深層学習で描く画像は、さながら統合失調症患者の妄想のようだ。世界の認知の仕方を教わっていないからだ。独創的な絵を描くプログラムとして知られるアーロンは人体や植物がどのようなものであるかを学習することによりあの画風を獲得した。深層学習的なアプローチと物事の見方(土台となる認知の枠組)を教えるアーロン的なアプローチ、両方が必要なんだろうな。教育がなければ、あるいは歪んだ教育を受ければサイコパスしか育たない。インターネットで捉え方を(まともな教師なしにひとりで)学べば差別主義者のサイコパスができあがる。貧しい家庭の放置子がストリートで育てばギャングになるように。実際、ソーシャルメディアでの交流から学習して育つとされたAIはいずれもそのような結果となった。モールの関連付けによるサジェストもまたしかりで、収益の効率的な最大化ばかりを目的とするアルゴリズムは嗜好を疎外する。嗜好が疎外された書店に読者は育たない。つまらないものということになって読書は滅びる。ソーシャルメディアにおいてもしかりだ。そこで正義とされる「表現価値」はいいねやリツイートやフォロワー数だ。そこには収益の効率的な最大化と同種のアルゴリズムが作用する。ゲーム的な反射の手腕のみが評価され論理や人間性は排除される。某中央集権の資本主義サービス(日本法人の運営会社は政権とつながりの深い某広告代理店が大株主だという)が人権侵害の報告を受理するかどうかは、報告者の人気や政治的立場によって決定される。なんらかのトラブルが生じた、あるいは引き起こされた際、彼らはアカウントの人気、政治的立場、金といった力のあるほうに加担する。法律もそのように働く。そのため次のようなことが生じうる:非正規雇用、ゲイ、発達障害の当事者であるあなたは、当該SNSにおいて非正規雇用、ゲイ、発達障害を侮辱する人気アカウントの投稿を目にし、a) 人権侵害報告をする。b) 当該投稿を批難する投稿をする。その結果、a’)「当社の規定する人権侵害行為は認められませんでした」として報告は受理されず、b’) 当該人気アカウントから当たり屋よろしくあべこべに訴えられ、示談金を請求される。裁判で争っても負ける。そのようにして当該SNSにおいてあなたは、人気アカウントと運営双方から人権侵害の加害者と喧伝される……。あなたがあなたであることの価値はビッグ・テックと政府が決めるし、あなたの言葉はいいねやリツイートの数で正邪が判断される。ソーシャルメディアで「表現価値」のないものと断罪された言葉は焚書に遭う(「Kindle」には「燃やす」の意味がある)。そしてわたしには「表現価値」がない。寄稿作品にはわたしの信じる価値が紛れもなく存在する一方で、おそらく、評価経済においてわたしよりずっとうまく立ちまわる可能性がある。作品そのものの価値ばかりではなく著者の人間性もまた信頼に値するからだ。評価経済は「絆」を重視する。彼らならわたしにはかなわなかったアルゴリズムに勝てるかもしれない。彼らの傑作を編集し公開する作業と、見込みのない自分のゴミと格闘する作業とでは、得られるものは較べようがない。後者は労多くして報われない。惨めな自己愛の落とし前をつけさせられているようで後味も悪い。わたしは作家を職業や社会的な立場とは考えていないので、臆面もなく自称しているが、他者からしたら滑稽に映るだろう。作家ぶった発言にはだれもが居心地の悪そうな反応を見せる。あるいは聞こえなかったふりをする、というかしてくれる。あたかもわたしが粗相をしたかのように。そうした反応を見るにつけ認められていない事実を再認識する。だからといって態度を変えるつもりはない。わたしの価値はわたしが決める。交流の巧みさで決められてたまるものか。他人の言葉への関心もしかり。オール・トゥモロウズ・パーティーズをはじめたとき本好きのためのサーバを見つけて、そこで何人かフォローさせていただいて、いまもそのサーバを見に行ってはフォローしたりしている。サーバ単位で同好の士が集まる考え方は、それはそれでたしかに理解できるものの、輪に加わる、という社会的スキルなり行動なりが求められるのはしんどい。自分のアカウントは自分で律したいというのもある。やりたいのは交流ではないのだ。BuddyPressの「グループ」みたいな概念や機能はないものか。つまり、サーバはあくまで自分専用(いわゆる「お一人様」)で、そこから話題ごとに所属できる複数のグループへ赴くような。しかし、そんなことをするくらいなら新聞でも購読したほうがいい。金を払って読み、金をとって読ませることだけが結局、われわれを護ってくれるのかもしれない。


(もり まさひこ、1975年6月18日 -)著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、藤井太洋氏、十市社氏らによる指導を受けた『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。最新作は『ぼっちの帝国』。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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