D.I.Y.出版日誌

連載第282回: 知ったばかりの特殊な単語が予測変換の候補に表示されたので

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2020.
10.11Sun

知ったばかりの特殊な単語が予測変換の候補に表示されたので

モールの表示には頼れないほかの検索語句からの流入は期待できない指名買いしか導線はあり得ないコミュニティの支持基盤がない無名のあるいは小説家としてはキャリアのない作家を指名買いさせるにはどうすればよいかまずは知ってもらわねばならない関心を持ってもらわねばならない読みたくなってもらわねばならないソーシャルメディアにせよモールにせよ既存のコミュニティは自分の外側にあるものなのでコントロールできないならばコミュニティをつくるところからはじめるというのがひとつの手だそっちに舵を切ろうと思えばやれないこともないソーシャルな要素は向いていない憎んでさえいるだからやりたくないがなんらかの権威づけがなければ指名買いは成立しないコミュニティに依拠するにせよしないにせよ他人の力を利用することなしには何も実現しない依拠しないのであればだれか権威者をひっぱってきて称賛してもらうしかない独裁者やカルト教祖がダライ・ラマと記念写真を撮りたがるようなものだあまり思い返したくないが実際にそのようなことを試した経験もあるほかの手を思いつかなければコミュニティをやるしかないのかやるかやらないかで何に対して集客するかが変わってくるウェブサイトを宣伝するのか作家個人に焦点を絞るのかあるいはコミュニティではないけれどコミュニティ的な要素を持ち込むとか一時期のはてなのように複層的な言及/被言及の場をつくるだとすればコメント欄は必須かもしれない書いて読まれる力関係は一方的にしたいのでこれも気が進まない複層的なコミュニティをつくるのであれば旧筆名時代の失敗はもしかしたら失敗ではなかったのかもしれないおそらく契約の関係だろうが出版社が及び腰だったため当時はコンテンツの幅が限られたそのため客層も関連付けもいま以上に劣悪だったひどい客層と紐付けられたため一からやり直さざるを得なかったがいまとなっては正しい判断だったかわからない悪評も知名度や被言及のうちではあるからだコミュニティ運営の肝は本質的には差別にありそれがコミュニティをやりたくない最大の理由だ選ばれし者とそうでないその他大勢にいかに大きな格差をつくるかその奈落が深ければ深いほど欲望のエネルギーが生じAmazon という装置がその力を換金するだから人格 OverDrive をコミュニティに発展させるのであれば現状の寄稿者を神格化してその他大勢から搾取する構図をつくらねばならないいかにも悪魔的な発想に思われるかもしれないが成功したウェブサービスなら必ず巧みに意図し実践していることだその搾取構造は中央集権的に運営されねばならないよその支配から逃れて自分が独裁者になるのはどうなのかただこの点については寄稿者の魅力を最大限にひきだすという目的さえ実現できればそのために独善性を完璧にコントロールできれば手段は正当化され得ると信じる創作も出版も実のところ本質的にはそういう暴力だったりするとはいえ搾取されるためだけにその他大勢が自発的に集まってくるかといえば少なくとも人格 OverDrive にはあり得ない主催者のわたしが何者でもない無価値な人間だからだnote にそれができたのは最初から評価経済の換金装置として立ち現れたからだそこには最初から成功者がいただれでも登録できるようになった時点で叶わぬ夢を見させるための餌はもうすでに有象無象の鼻先にぶら下げられていたそういうことは人格 OverDrive にはできないやれるとしたらまずわたしが評価経済において成功することが必要でそんなことはわたしがわたしである以上あり得ないそのため堂々巡りとなるかといって何もせずに済ませるわけにもいかないそろそろ何か動くべきときだ人格 OverDrive でもっとも PV を集める人気作家がその評価の高さを実感していないらしいツイートをしているし潜在的な顧客はもっとも多いはずの注目されるべき才能は小説を書くことそのものに関心が薄れているかにあるいは寄稿先としての人格 OverDrive に関心を失ったかに見受けられる前者の才能に対してはできれば年末にでも単行本を出したいし後者に対しては連載作を長編化して文藝賞に応募してもらいたいと思っているほかの寄稿者に対してもそれぞれにこのように利用されたいというイメージが具体的かつ明確にあるそれはもちろん寄稿者の要望によって変化し得る)。 何者でもない素人ながらにそういう出版エージェント的なあるいは踏み台としての役割を夢見ていて原稿を託してもいいと思えるくらいのメリットを何かしら提示することをいま迫られていると感じている


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。