うへ

大人って歯も上手く磨けない

連載第36回: ありのままの自分を好きになってくれるお相手なんてものは夢の話なのかな

うへ書いた人: うへ, 投稿日時: 2020.09.27

 いつからだろう。思えば私は、自分の年齢と十くらい前後している範囲内の女性のすべてを、恋愛の対象としてしか見ていないことに気が付いた。
 だから私はこれまで対面してきた、前記の条件に該当するすべての女性に対して、打算的な紳士的振る舞いを心がけ、日頃そんな人間でもないくせに、無理をして女性をリードするような「男らしい」男性を演じてきた。
 その能力は今ではもう、初対面の女性に対してであれば遺憾なく発揮され、第一印象はおそらく「悪くはない」人間としてカテゴライズされるくらいには腕が磨かれている。
 だが、その先に進展したことはまったくと言っていいほどない。女性の反応がイマイチだったのだろうか?いや、そうではない。私自身がその一回の対面で、もうすでに疲労困憊だからだ。
 自然体とはなんだろう。おそらく私は自然体で臨んで良いと言われれば、ほとんど無口になるか、相手の目を見つめるかくらいしかやることがない。もちろん、共通の趣味の話題(それも「読書」などという浅いカテゴリではなく、「安部公房」だとか「BIUTIFULという映画について」などといった、もっと掘り下げた共通項)であれば、自然体と形容できる落ち着いた態度で会話に臨むことができるかもしれない。
 私自身はこのこと(無口であったり目を見つめること)を気まずいとも思わない。しかし、相手はどうだろう。そんなの言わずもがなだ。

 そして私は、私のことをどうやら相手に知られたくないと思っているらしい。これはとても矛盾している。なぜなら私は、初対面であっても、訊かれれば訊かれてもいない細部まで気が付けば詳細に語ってしまうという癖がある。それは男女友人知人関係なくだ。
 そして一頻り喋ったあとで、別れたあとに「喋りすぎた」と毎回後悔している。それが相手に不快感を与えたから、ということではない。(その匙加減は心得ている)
 自分の情報を開示しすぎた、という後悔の念に苛まれるのだ。だから私は、二度目の約束を自分から取り付けることはほとんどない。

 もちろんパートナーである以上、深い絆で繋がっていたいと思っている。
 だがそのための条件として、私のことを最初はあまり深く知らないでいてほしいと思うのだ。それはとくに過去についてのことであり、私が語る自分像、見せたい自分像というものに惑わされないでほしいのだ。
 私が望むのは、相手自身が見た、客観的な考察であり、それから私を見て、好きか否かを決めてほしい、ということだ。そこに私の余計な脚色や演出はいらない。
 こんなことは夢物語なのだろうか。少なくともこのことに自覚的になれたのは、今後私が必要以上に自分のことを喋らないようにするためのブレーキにはなってくれるだろう。
 私は口を噤む。今後は女性に対して「恋愛対象」として見るのをやめようと思う。そんなに簡単にスイッチを切るみたいにできるのかはわからないけれど。
 気に入られようとして動くのは本意ではない。


趣味でしかものを書いたことのない、名無しの素人エッセイスト(自称)。 この度、どういうわけか当サイト「人格OverDrive」の主宰者である杜 昌彦氏に「掲載してみませんか」とお誘いいただき、こちらに寄稿することに。 29年間、苦しそうなこと、辛そうなことから逃亡している人生。フリーター。 寄稿するジャンルは妄想エッセイ。虚実交えた物語を書いていきたいと思います。
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