イシュマエル・ノヴォーク

イシュマエル・ノヴォーク短編集

第1話: ピンボールタッチ

イシュマエル・ノヴォーク書いた人: イシュマエル・ノヴォーク, 投稿日時: 2020.09.11

 ONE

 ボウル・モア社製ピンセッターが等間隔でピンを並べた。すべてのピンは一五〇〇グラムで発注されたが、長年、油が塗られたボウルに小突き回された結果、おおよそ五〇から八〇グラムほど軽くなっている。ファウルラインの上で身を屈めるブラウンはピンセッターを見ながら
「そろそろマシンに手を入れてやらなくちゃならん」
 後ろで硬質ラバーのボウルを磨いていたウルピオが手を止め「先週、修理したばかりだ」
 ブラウンは青々とした二重顎に手をやり、振り向くこともせずに
「昔、ピンが九本だったって知っているか?」
 ウルピオはウェーブがかった前髪を浅黒く、ごつごつした手で撫で「初耳だ」と言った。ブラウンは萎れたシャツの袖をまくり上げ「ルターが決めたんだ。それよりも昔からボウリングはあったが、それはどうでもいい。一〇本になったのは、禁酒法時代に博打に使われるから、お偉い連中が〈ナインピンボウリングを禁ず〉と決めたんだ。一〇本ならいいだろう? というわけさ」
 首を回したウルピオが湿り気を帯びたタオルをボウルの上に置いて「大らかな時代だな」
「来週、セッターの修理をしよう。動きがおかしい。ピンの重さが違ってきているから仕方ないのかも知れんが、どうにもおさまりが悪い」
「それよりも、ピンを新しくしたらどうだ?」
「去年、レーンを張り替えたばかりだ。そこまで金を回せない」
 ブラウンはテカテカ光るレーンを見ながら「これも、あの口先野郎……ホレイショのせいだ。あいつがプラスチックのレーンのほうがいいと言ったからこれにしたが、失敗だった。ウッドレーンのほうがずっと良かった。たしかに……」
ウルピオが遮って「塗装と補修も馬鹿にならない」と言うと、喉を鳴らしたブラウンが
「あの馬鹿が刑務所に入ったのは天の采配だ。もし、今もあいつがのうのうと外を歩いているようなら、おれが絞め殺していただろうな」
「窃盗じゃあ、終身刑にならない」
「罪状はなんでもいい。誰でもいい。せいぜい、あいつを苦しめてやって欲しいよ」
 ボウルの上に置いていたタオルをポケットに突っ込んだウルピオが言う。
「マシンのメンテナンスは手伝うよ。それから、客から靴に穴が空いていたとさ」
 ブラウンは舌打ちすると「言わせておけ」と言い、ウルピオが「そうだな」と言った。ウルピオは回れ右をして従業員用ロッカールームに向かった。ロッカーを開け、水色の長袖シャツを脱いでハンガーにかかった合成皮革のジャケットを着ると出口に向かって歩き始めた。

TWO 

 ウルピオは身体の上にかかっていた毛布を払いのけた。浅黒い肌が露出し、胸から腹部にかけて彫られたソンブレロをかぶった髑髏の刺青が顔を出した。枕元に転がっている煙草に火を点けると、偽造マルボロの饐えた臭いが漂った。ベッドに肘をついたウルピオは、昨夜、恋人のアニタがベッドで吸ったボングを見つけ、ライトが置かれたキャビネットの上に置いた。
 煙草を吸い終えたウルピオはベッドから這い出てシャワールームに向かった。蛇口を捻り、温水を浴びながら石鹸を泡立てると、アニタが陰毛を剃るのに使うプラスチックの安全カミソリで髭を剃った。
 ウルピオが居間に行くと、テーブル、皿の上にのっているのは等脚目のようなパンが二つ。パンは温められておらず、賞味期限が切れているのか、それとも冷蔵庫の中で凍えていたのか、萎んでいた。ウルピオが椅子に腰掛けると、アニタがブリキコップにコーヒーを注いで寄越した。Tシャツを着ただけのアニタは気だるげな様子で「今日は朝から仕事。あなたは?」
 ウルピオはスーパーマーケットで最も安価に手に入れることのできる等脚目パンをコーヒーに浸しながら「昼から」
「なら、夕食を作ってくれる? あなたがやったほうが美味しいし」
 熱と水分を十分に吸い込んだパンが泥人形のように崩れ、ブリキコップの底に落ちていく。
「何がいい?」
「安くて、栄養があって、美味しければなんでもいい」
 コーヒーを一口啜ったウルピオが「注文が多いな」
「そうかしら?」
 ウルピオが小さく笑い「やっておく」
 アニタが家を出ると、ウルピオは肩まで伸びた縮れ髪をつづり紐で後ろに結んだ。それから、皿洗いを済ませ、冷凍庫を開ける。パプリカとセロリの冷凍刻み野菜と、レンガのように硬くなった豚のひき肉。これらをとり出し、ゴミ箱の隣で新聞紙に包まれた玉ねぎをまな板の上に置いて刻む。解凍したひき肉を炒め、多めに胡椒をふりかける。目分量で油をいれ、トマトソースと同量のホットソース、パプリカとセロリを火にかけた。小一時間ほど弱火で煮たら火を止める。

 正午頃、ロッカールームで水色の長袖シャツを着たウルピオはその足で裏に向かい、貸し靴を磨きはじめた。プラスチックレーンの上を滑るボウルがピンに当たり、倒れたピンを青息吐息のマシンがピンを拾う。天井の四隅に埋め込まれたスピーカーから流れているのはブラックサバスの『パラノイド』
 ウルピオがうんざり顔で靴を磨いていると、後ろからブラウンの声が聞こえた。
「セッターがおかしいと思わないか?」
「かもな。でも、おれは今、靴を磨いているんだ」
「靴なんてどうでもいい。マシンの話をしているんだ」
 ブラウンは昨日と同じようにシャツの袖をまくって言う。
「セッターだ。セッターに何かある。もしかすると、あそこに悪魔が棲みついていて、悪さをしているのかも知れない。インクをぶつけてやりたいよ」
 ウルピオが気のない態度で相槌を打つとブラウンがつぶやくように言う。
「明日は貸し切りが入っている。大忙しだ。その前に」
「客がいなくなったらマシンを見よう。それでいいか?」
「レーンも磨かなくちゃならん。ピカピカにだ」
 ウルピオが口笛を一吹きした。ブラウンが
「ポップコーンマシンも調子が悪い。カラメルがちゃんと混ざっていないんだ。同じ金なのにカラメルを馬鹿みたいに持ち帰る奴は客だと思うか? それとも泥棒か?」
「後で見ておく」

THREE

 珍しく、ボウリング場は満杯だった。ブラウンは上機嫌と不機嫌を乱気流のように行ったり来たり。ウルピオはボウルを磨きながら青色の電光掲示板に映し出される点数を見た。早足で歩きまわっているブラウンが近付いてくると「サボると給料はないぞ」
「ボードが故障しているんじゃないかと思ってな」
「あぁいうマシンは故障しない。いずれ、マシンが全部を取り仕切るようになる。文句も言わずにセッターを修理するし、レーンだって磨いてくれるだろうな」
「靴磨きとボウル磨きもお願いするよ」
「そうこうしているうちに、マシンがボウルを投げるようになるんだ」
 ウルピオは垂れた前髪を撫でると、あたりを見渡し「今夜は大入りだ」
「貸し切りだ。元保安官の親睦会だと。先週、キップを切られたばかりだから、これでお相子ってことにしておく」
「だといいがな」
 首を傾げたブラウンが「どういう意味だ?」
「思いついたことを口走っただけだ。今日はセッターの具合を見るか?」
「いいや。でも、スイープ・バーは見ておきたい。こう、動くとマシンも疲れておかしくなっちまうからな」
「おれたちもな」
「馬鹿言ってないで、仕事しろ」
 ブラウンが早足で去ると、老人が近付いてきた。週に一度は自前のポリウレタンのボウルを投げる男で、名前はフィニアス・クランクショウ。ウルピオが「クランチ、調子はどうだ?」と言うと、クランクショウは顎に生やした白い髭を触りながら電光掲示板を指差し
「悪くない。だが、調子に乗ると足下をすくわれる。いつも通りにやらなくちゃならん」
「そのボウルは軽そうだな。具合はどうだ?」
「手に馴染むし、それにこの色だ。緑色が波打っているみたいで気分がいい。積立年金で買ったんだ」
「保安官は儲かるみたいだな」
クランクショウは口をへの字に曲げると「それだけ悪党が多いっていうことだ。いいことじゃない。昔は農作業の合間に保安官をやるような時代だった。今じゃあ、考えられんがね。皆、のんびりしていたよ。信じられんだろうが、ワシが保安官になった頃は銃を持たなくても良かった。悪党なんて数えるほどしかいなかったから、泥棒が出る度に躍起になったもんさ」
「いい時代だ」
「そう、いい時代。うんと遠くの時代さ」

FOUR

 チーチ・エルナンデスのバー。カウンターの隅に置かれたノートパソコンから伸びるケーブルはWAV変換された無菌のブルースが流れている。ウルピオの隣に座るのは中古車ディーラーのルベーン・カンポス。カンポスはチェイサーを飲み干し「商売はどうだ?」
 ウルピオは微かに首を傾け「ボウリング場が大儲けする時代じゃない」
「だろうな。チーチ、もう一杯くれ」
 黄ばんだシャツに黒いベスト姿のエルナンデスが頷いて、カンポスのグラスにペットボトルに入った水道水を注いだ。カンポスが「中古車が売れるのは、景気が悪い時だと言うが、景気がいいと言う奴を見たことがない。多分、今、景気がいいのは装甲車をアフガンで売る奴らだ」
「中古の装甲車なんて売れるはずがない」
 カンポスは猪首、次いで肩を叩きながら「そう思うか? 別に売るのは米軍だけと決まっていないぞ? なんなら、メキシコの奴らでもいい。言い値で買うだろう」
「危ない橋だ」
 カンポスは並々と注がれたチェイサーを一口飲むと「バレてもムショに戻るだけだ。戻ってくる頃には孫、下手をすれば、ひ孫まで生まれているだろうよ。ウルピオ、おれたちはいい時代にいた」
「そう思うか?」
「お前はチャンプになっただろう? ビッグホーミーにも気に入られていたし、いい思いをしたクチだ」
「ムショに入らなければ、マトモに稼げた」
「おれみたいにコカを売らなかったからだ。おれはうんと稼いだが、随分とピンはねされたし、おちおち昼寝もできなかった。昼寝中に喉を搔き切られた奴を何度、見たか覚えてない。独房にいた奴が殺された時は笑っちまったよ。あれは誰がやったと思う?」
「キューバ人だ」
「そう。多分、あいつらだ。ベトナム人も怪しいが、あいつらなら見境なくやるだろうしな。この国で唯一、平等な場所がムショだったなんて、お笑い種だ」
 カンポスが身体を揺さぶり「とはいえ、危ない橋は渡れない。マルティンがムショに行くんだ。ビビアナの腹に赤ん坊がいるのに第一級殺人だ。終身刑か、州法が変わってなければ死刑だってある。女房に言われたよ。マルティンの不始末はおれのせいだから、ビビアナと赤ん坊を食わせてやるのが筋なんだと。信じられるか?」
「ルベーンのせいかどうかはわからんが、息子のカミさんと孫の面倒を見るのは筋だ」
「女房の肩を持つのか?」
 ウルピオが肩をすくめた。パソコンに繋がれた拳ほどの大きさのスピーカーからはスライ&ザ・ファミリー・ストーンの星条旗の『暴動』かつてはB面三曲目に収録されていたはずの録音はリンゴ社の恣意的なお勧めに従って唐突なチルアウト作品として判断されている。チーチは白んだグラスを拭きながら首を振っている。カンポスが言う。
「州兵のチームと試合した日のことを覚えているか?」
「覚えている」
「お前が外野で、ピッチャーがチアッコだった」
「ピッチャーはチアッコだったが、おれは一塁だった」
「嘘つくな。おれが間違うはずがない。お前はパンチを打たれているからな。きっと記憶がごちゃ混ぜになっているんだ」
 前髪を撫でたウルピオが「おれはパンチドランカーじゃない」
「どうだかな。州兵チームに勝った時、最高に気分が良かった。あんなに盛り上がった日のことを忘れるはずがない。看守のシェルシ。あの馬鹿がショットガンを上下させたから、暴発させるんじゃないかとヒヤヒヤした」
 ウルピオがうなずくとカンポスが「あいつ、どうなったか覚えているか?」
「恩赦が遅れて暴動が起きた年に殺された」
 カンポスは満足気に「いい気味だ」と言い、ポケットからダイナーズのクレジットカードをとり出し、チーチに向かって「勘定してくれ」
 チーチはペンケースのような機械にクレジットカードを挿すとカンポスが
「スキミングするなよ? もし、おれから金を盗ったらどうなるかわかっているんだろうな?」
「あんたから金を盗むのは、よっぽどの馬鹿だ」
 カンポスが笑い「わかっているのならいい」
 ウルピオは財布から小銭をとり出すと、手をヒラつかせたカンポスが「おれの奢りだ。というか、お前、今時、クレジットカードも持っていないのか?」
「どうにも馴染めなくてな」
「あると便利だぞ? スキミングされないかと目を光らせなくちゃならなくなるが、それでも楽だ。スられても取り返しがつく」
「気が向いたらな」
 立ち上がったカンポスが拳で軽く腰を叩きながら「おすすめするよ」
 ウルピオはバーボンを飲み干して言う。
「ルベーン、無茶するなよ。おれたち、もう若くないんだからな」
 手をヒラつかせたカンポスが「赤ん坊を食わせなくちゃいけないからな。マルティンの代わりに赤ん坊を車に乗せてやらなくちゃならん。マルティンにしてやれなかったことだ」

FIVE

 ポップコーンマシンの修理を終えたウルピオが帰宅したのは二二時を少し回っていた。マシンは部品を交換しなければならず、その部品は方々を探し回らなければならなかった。家の鍵を開け、居間に行くと、近くに住む甥のピーターが椅子に座っていた。ウルピオが「よぅ」と言うと、ピーターは不貞腐れた様子で首を縦に振った。ウルピオが冷蔵庫を開けると、ビニール袋に入った等脚目パンがあるだけ。ウルピオはソファに腰掛け、テレビを観ているアニタに向かって
「おれのチリビーンズは? 一昨日、作ったやつだ」
「ピーターが何も食べてないって言ったから、あげた」
 ウルピオは溜息をつき、等脚目パンを口に放り込んで椅子に腰掛けた。ピーターが
「怒った?」
「まぁな。それで、何の用だ? モニと喧嘩したのか?」
「母さんの失敗は親父とおれだよ」
「ガルシーが帰って来たのか?」
「ろくでなしは帰って来なくていい」
 ウルピオはテーブルの上に置かれたままの偽造マルボロの紙箱に手を伸ばして一本とり出した。そして、安物ライターで火を点ける。青と白の煙が絡み合いながら天井に上っていく。ウルピオが言う。
「ガルシーはろくでなしだが、それでもおれの弟で、お前の親父だ」
「かもね」
 ウルピオがピーターを見た。タンクトップ、首に巻かれた赤のバンダナ。典型的なイングルウッドのならず者といった恰好だった。
「学校には行っているか?」
「学校で学べることなんてたかが知れているよ。ウルピオは?」
「おれは学校に行くような歳か?」
「ウルピオはどうだったのさ? それこそ、親父と一緒だったじゃないか」
 煙を吐き出したウルピオが「責めているのか?」
「かもね」
 ウルピオは首を回し、合成皮革のジャケットを脱ぐと椅子の背もたれにかけた。テレビを観ているアニタの笑い声が聞こえた。ウルピオが言う。
「何か飲むか?」
「酒が飲みたいよ」
「一四の小僧が酒? ジュースで十分だ」
 立ち上がったウルピオが冷蔵庫を開け、グラスにオレンジジュースを注いでテーブルに置いた。
 ピーターが恨めしい顔で「馬鹿にされた」と言うと、肩を竦めたウルピオが
「そうだな。お前は馬鹿だ」
「学校に行っても大した仕事に就けるわけじゃない。どうせ、日曜日にショッピングセンターの駐車場で家具を買ったばかりの白人相手に媚びて、家具を組み立てるんだ。セニョール、今日は犬小屋ですか? それとも、子ども机? ってさ」
「おれもやってる」
「ボウリング場の稼ぎだけじゃ暮らせるわけないものね」
 ウルピオはテーブルの上で手を組み、僅かに身を乗り出して言う。
「おれのことをとやかく言いたいのか? なら、言えばいい。だが、おれだって気が長いわけじゃない。お前はギャングかぶれのガキで、自分には才能があると思っている。根拠のない自信だ。お前は箱乗りして銃をぶっ放すようなタイプじゃないし、ビッグホーミーみたいなタイプでもない。育ちが多少、悪いだけのガキだ」
「ウルピオは?」
「おれは一九年食らった。ムショでボクシングのチャンプになったし、ルベーンに言わせると、おれはいい思いをしたクチらしいが、それでも見切りをつけた。争いが起きれば喉を掻き切られる。皮一枚で首が垂れ下がった奴、舌を引き抜かれて殺された奴も沢山見た」
「刑務所に行かなければいい」
「絶対に行くことになる。そうじゃなければ、早々にあの世行きだ。ピーター、いいか? 今しかないぞ? 今、ここで踏ん張らないと、おれやガルシーと同じになる」
「同じになんかならないよ。時代は変わったんだ」
 煙を吐き出したウルピオが「リオヴェルデに叔母さんが住んでいる。ピーター、叔母さんの手伝いをしろ。モニにはおれから話す」
「田舎に行って何をするのさ?」
「ピーター。頭を冷やせ。リオヴェルデで新しい学校に行って、友だちを作れ。イングルウッドは腐ってる。あぁ、モニは腐ってないが。だが、お前は? お前は一四で、身の振り方一つロクに考えられないガキだ。お前はおれやガルシーと違う。マトモな人生を歩くことができるんだ。クレジットカードを作れないおれなんかと違う、正しく生きることを考えろ」
「そんなことができると思う?」
「できる」
 気が付けばテレビの音量は切られていた。アニタが二人を見ていた。喉を鳴らしたウルピオが
「もう遅い。家まで送ってやる」

 トヨタのピックアップトラック、ハイラックスはセンティネラ・アベニューをゆったり走っている。スピーカーから流れるのはジョニー・キャッシュが歌う『リデンプション・デイ』
ピーターが「古そうな曲」と言うと、ウルピオが「最近のだ」
「好きなの?」
「慰問で観たことがある」

 左右のギター、時折打たれるピアノの低音。控え目なオルガンとストリングスの和音。自由、自由、自由……オンドマルトノのような機械音のシークエンス。

 イースト・ハイドパーク通りに面した家は平屋ばかりで、家の窓には鉄格子が取り付けられている。まばらな外灯、電柱は斜めに傾いていた。ハイラックスが停まると、ピーターが
「母さんになんて言ったらいい?」
「悪かった、もうしない」
「それから?」
「ハグしろ」
 ピーターがうなずき、自動車を降りた。ドアが閉まる音。遠慮がちに扉をすり抜け、チャイムを押すピーターの姿。ドアが開き、モニが腕を組んだままピーターを見る。ピーターが何か言い、モニにハグする。モニの視線がウルピオと合わさり、ウルピオはハンドルに肘をついたまま手を振った。

SIX

 ショッピングセンターの駐車場。炎天下の中、〈家具、組み立て代行。一〇ドル〉と書かれたダンボールを掲げるウルピオの隣には同じ穴のムジナ、ジャレド・マルビンが
「今日はありつけそうにねぇ」
 腕時計を見たウルピオが「まだ二時だ」
「面倒事をおれたちみたいな奴らに任せるような奴らは、この時間になったら家でテレビの前でフィットネスをやっているんだ。今、こんなところで油を売っているのは、おれたちぐらいなもんさ。いつも思うんだ。どうして、てめぇで組み立てられもしない家具なんかを買うのかってな。てめぇで尻を拭けない奴が多いってことさ。これはビニーから聞いた話だが、今、尻を拭いてくれる便器が売れているんだと。とんだ間抜けだ」
「間抜けのおこぼれで稼いでいるおれやお前はどうなんだ?」
 目をギョロつかせたマルビンが舌打ちすると「クソだな」

SEVEN

 フィニアス・クランクショウは愛用のポリウレタンのボウルを搦め手なしのストレートで投げた。電光掲示板にはGの文字が浮かび上がった。クランクショウは白い顎鬚を撫で、ボウルが床下を転がり、モグラのように顔を出すのを待つ。緑色のボウルがやってくると、クランクショウは愛おしそうにボウルを撫で、三つの穴に指を第一関節までいれた。
 ヘビのような助走。球筋はフックとカーブの中間。結果はスペア。クランクショウが言う。
「トリックプレイを余興と言う奴がいるが、それは大間違いだ。ボウルがレーンの上を滑って、一〇本倒す前に二本当てて倒す。これは難しい。実力があっても駄目。才能があっても駄目。運が良くても駄目。ピンボールタッチは人生みたいだっていう奴もいるが、それは違う。人生って奴はそんなに面白おかしいものじゃない。笑いどころなんて数えるほどしかない。そういう意味じゃあ、ピンボールタッチは人生以上だ。さぁ、うまくやれよ?」


『ロクス・ソルス』という同人小説サークルで活動しています。それから、ジャズピアノの演奏活動をしています。気が向くと絵を描いたりします。
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