杜 昌彦

D.I.Y.出版日誌

連載第273回: ここではない場所

杜 昌彦書いた人: 杜 昌彦, タグ:
2020.
09.05Sat

ここではない場所

別人に変わるしかないのはわかっているけれど、ほかのだれとも違う自分であることからは逃れられない。連載中のZ級BLアクション小説『GONZO』の閲覧者がわたしだけであるのは仕方ないとして、あれを公開するようになってから『ぼっちの帝国』のKENPが完全に死んだ。作品の善し悪し以前に作家の人格そのものに難がある。たとえわたしと接点のない人気アカウントであってもわたしが共感できるようなツイートをした途端ごっそりフォロワーが減る。ましてわたしは自分が共感できることしか書けないのでだれからも決して肯定されない。にもかかわらず一方で、適切な客筋にリーチできていないだけなのでは、この地上のどこかには千人くらい読者がいるのではという妄念がどうしても拭えない。わたしの顧客はソーシャルメディアにはいない、Amazonにも楽天にもBWにもHontoにもいない。インターネットにはいない、かといって実店舗にも、こんな醜い棚で売られたくないという違和感しかないから、やはりそこにもいない。それらはどれもテレビの客層と重なっていて、わたしはそうした感性に適性がない。だれからも一度として好まれたためしがなく、そのような人間であることが最大の障壁になっている。流通手段ももうちょっと何かましな手はないものかと調べてみた。いかにも民主的みたいに装っている新サービスも、どれもこれも結局は既得権益というか、既存の価値観から一歩も出ないスノッブな世界であることを思い知らされるばかりだ。出版の民主化をうたうWordPressでさえも近頃は押しつけがましく感じられ、学習コストは厭わないから自由にやらせてくれ、と思わずにいられない。やはりわたしの言葉は公に出すパブリッシングには向かないのだ。だれにも見られていない場所で常軌を逸した独り言を延々と垂れ流すのが似つかわしい。しかしそれを他人を巻き込んでやるのはまちがっているし本来の意図とも異なる。わたしの使い方がまずいせいでせっかく登録してくれた寄稿者の方々が使えずにいるのはわかっている。オール・トゥモロウズ・パーティーズは告知に特化して、いずれは別のサーバを建てるべきかもしれない。しかしメンテナンスの手間が要らないことや維持費の安さを考えると、ポルトガルの業者に委託した現状維持でいい気もして迷っている。人格OverDriveをだれでも審査なしで登録して投稿できる方向にすべきだろうか。セキュリティの問題もあるし、著者別にカテゴリを割り振って専用テンプレートをあてる現在の運用も考えなおさねばならない。いずれにせよわたしはただの無能な屑のままでいたくない。人生の手綱を握っている実感がほしい。錯覚でもいい。


(もり まさひこ、1975年6月18日 -)著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、藤井太洋氏、十市社氏らによる指導を受けた『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。最新作は『ぼっちの帝国』。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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