諸屋 超子

豚はいつ飛ぶ?

第6話

諸屋 超子書いた人: 諸屋 超子, 投稿日時: 2020.08.26

 最近は男の子も女の子もブサイクをみなくなった。僕の頃は居たよ。現に僕がそうだ。
 僕はわりと理系だから、遺伝子の進化とかそういうやつかなぁなんて考えていたんだけれど、それにしては急激かつ広範囲だから不思議に思っていた。
 それで、その謎について僕は、ちょっとした発見をした。みんな平均に寄せているんだよ。服装も、髪型も、言動も、食べ物なんかもみんないっせいに同じもの食べるでしょう? この間まではタピオカで、今は台湾茶だっけ? 詳しいでしょ、案外。朝の情報番組の受け売りだけれどね。
 で、なんでも平均に寄せると、テレビに出てる人に似るんだよ。テレビのタレントは、今流行ってるもの着てるでしょう? 
 例えば会社で隣の席にいる佐藤さんが、虹色リボンマックスのミウミウと同じ格好をしているとする。ミウミウファンの僕としては、もちろんミウミウと佐藤さんの違いははっきりと見えている。見えているけれど、どことはなしに、みうみうの面影も感じてしまう。でも佐藤さんの顔は、可もなく不可もない顔で……そんな時、思っちゃうんだよ。
「あ、かわいいな」
 それで、こんな可もなく不可もない顔の子を可愛いなんて思える僕って、なんて感性の優れたやつなんだろう、美は見る者の目に宿るんだよなぁ……なんて、なんだか得体の知れない優越感に浸れるんだ。
 虹色リボンは5人組だけれど、最近は人数が数えきれないようなアイドルグループも多い。あれってたまにいるすごい美人な子を好きになるより、目立たないけれどキラッと光る子を好きな方が、なんか価値があるんだよ。それってあの優越感のせいなのかも。
 そして、みんながアイドルみたいに平均の服を着ていれば、可もなく不可もない子が、可になる。優になる。
 美容室での出来事は、そんな仕組みを、僕が気がつく前の話だからね。とにかくド派手にチャラチャラした髪型を僕たちはオーダーした。
 コーヒー牛乳が戻ってきて、僕の髪を指先でしごいて、色の具合をチェックしている間、僕はなんだかさっきよりずっと緊張しまくっていた。
「色、抜けてますね。シャンプー台で流しますね」
 コーヒー牛乳が僕を覗き込むように言う間、僕は目が白黒してまともに彼女の顔を見られなかった。首が変な風に固まって、とても座っていられないような状態だったから、大きな椅子が倒れて、首の後ろに蒸しタオルを当ててもらったのは最高にありがたかったよ。
 シャンプー台は4台並んでいて、案内された時、さっきのロン毛が隣の台にいて、なんだかやけにふわふわした服の女の髪を流してるのが見えた。女の脚はタオルの下でかちこちに固まってるように見えた。なぜそう見えたかというと、サンダルの先から出てるマニキュアの塗られた指が、そろってピンと天を向いていたからだ。
「私、いつか彼氏できるかなあ」
 ちょっと震えたような、しかし明るい声でその子はロン毛に言った。
「え? いないの?」
 ロン毛は驚いたような大きな声を出して、それから声をひそめた。
「いないなんて信じられないなー。ショーコちゃんオシャレで可愛いのに」
 フワフワ女はなんだかモゴモゴと返事していたが、よく聞こえなかった。
「竹村さんて、彼女さんとかいるんですか?」
 プリンセスコーヒー牛乳が僕にとんでもない爆弾を投下したせいだ。
僕もフワフワ女のショーコちゃん並みにモゴモゴと答えた。
「いや、今は特には」
 なぜ、今に限定したのか自分⁈ 特にではない埋もれてしまいそうなあれこれがあるとでも言うのか自分⁈
 自分の答えに気が遠くなり、僕は眠たいフリをしようと、大きな声であくびをした。顔に載せられたガーゼの端が口に入りかけて、赤ん坊のような甘くて清潔な香りが僕を包んだ。


長崎市にある本のセレクトショップ『Book with Sofa Butterfly Effect』店主。読書について、本について、文学について。好きなことは「しゃべって、読んで、無駄な時間を過ごすこと」。本を通じて人と人が交わる場所をつくりたい。月2~4回、本を読んでいなくても参加できる読書愛好会を開催。編集室水平線ウェブサイトにて連作『コロナinストーリーズ』連載中。
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