うへ

大人って歯も上手く磨けない

連載第24回: 生活の澱

うへ書いた人: うへ, 投稿日時: 2020.08.23

 どうしてだろう。私はあの人をあんなに好きだったのに。恋愛に溺れるようなタイプではない私が、あんなにも熱く、それでいて静かに燃える炎のような気持ちを抱いていたのに。愛しているとさえ、言っても恥ずかしくはないと思っていた時期さえあった。それなのに。
 たとえばそれは、ほんとうに些細なこと。
 食事を終えたあと、自分の食器を下げないこと。バスタブの二枚の蓋を、いつもいつも大雑把に重ねた状態で閉めること。トイレのペーパーが、芯だけになっても補充しないこと。

 生活というのはなんてかなしいものなんだろう。あの頃夢みていた(それでも、冷静さが欠けていたとも思えない)私には許せると思っていたこと。
 彼の振る舞いや心の逞しさがあれば、その大きな長所さえあれば、たとえこの先、彼のだめなところを知っても打ち消せるとおもってた。
 一緒に暮らしはじめて落ち着いてくる頃に、少しずつ見えてくるあまりにも小さな小さな隔たり。
 お互いがそれぞれに、それぞれの暮らしの中で築いてきた習慣や癖。
 相手に悪気がないことが、なおさら私の気持ちをささくれさせる。

 それはちょうど淹れたての紅茶に溶かした砂糖のように、かき混ぜているあいだは目にはほとんど見えず、味も甘くて美味しい。
 だけれども、時間が経つと底のほうに沈んで、砂糖がそれとわかるようになってしまい、もう一度かき混ぜない限り、あの甘さは得られなくなる。

 もう一度、私がスプーンを使ってかき混ぜればいいことなのだろうか。
 それは冷めてしまった紅茶でも、叶うことなのだろうか。


趣味でしかものを書いたことのない、名無しの素人エッセイスト(自称)。 この度、どういうわけか当サイト「人格OverDrive」の主宰者である杜 昌彦氏に「掲載してみませんか」とお誘いいただき、こちらに寄稿することに。 29年間、苦しそうなこと、辛そうなことから逃亡している人生。フリーター。 寄稿するジャンルは妄想エッセイ。虚実交えた物語を書いていきたいと思います。
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