D.I.Y.出版日誌

連載第268回: 言葉を取り戻す

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2020.
08.20Thu

言葉を取り戻す

ブコウスキーの未発表作品集を読んでいるリトルプレスや ZINE に書き散らし晩年には Apple II で書いていたしかしラジオの位置は右側とタイプライター時代と変わらなかった彼が現代にもまだ生き長らえていたらきっと自分で Mastodon のサーバを建ててこのようなたわごとを垂れ流していたのだろうなと思う彼の文章を身近に感じるのは人間性ゆえだある記事によれば生身の人間が書かぬほうが読者には喜ばれるそうだAI が書いた事実を指摘したコメントは批難され表示優先度が落ちたとのこと中央集権の資本主義サービスでも創設者自身が批判しているほどだが表示優先度を決めるアルゴリズムは必然的に人間性を淘汰するというより生身の読者自身が排除されるべき非効率なものとして人間性をきらうのだ人間がインターネットで受け入れられない理由は大量の情報を効率よく処理することに最適化された需要がマネタイズのしやすさゆえに優先されるからだろう新しいもの独自なもの見慣れぬものは排除される一方くりかえし利用され定型化された考える必要のないほど見慣れたわかりやすい文章がよしとされるそれこそまさに AI の得意分野だつまるところ読まれやすさは人間性を排除した効率にしかないソーシャルメディアでの表示機会にはジェンダーによる明確な格差があるKindle ストアにそうした偏りがあるのも自明だ人間性の排除はテキストにおいてばかりではない名刺交換や挨拶まわりで顔を売りつきあいで売り買いする技能に人間性が介在してはならないコンテンツ以上にシビアな効率が求められる生身の人間がそれをやるなら交流自体が目的であることを巧みに装わねばならない大手広告代理店がマネタイズをもくろんで生身の思惑を感じさせたがゆえに炎上した漫画の例もあるまたその手のコミュニティには京アニ放火事件の犯人のような才能のなさを他人のせいにする人格異常者がまぎれこんでいてうっかり目立つと読まれるには目立たねばならないわけだが暴力の標的にされる味方のない無名人は近づかぬが吉だそもそも余暇にまで交流なんかしたくない大昔に死んだ作家や遠い異国の作家の言葉だけを読んで過ごしたいしかし寄稿者との連絡手段は必要でメールは即時的なやりとりに向かないそのためポルトガルの業者に Mastodon サーバを建ててもらったがそもそも即時的なやりとりは自分には向いていなかったもっぱら独り言を延々と垂れ流している分散ソーシャルネットワークで Mastodon を選んだ理由は使い勝手が単純だからだGNUsocial もそれなりに気に入ってはいたがいかんせん古すぎた人格 OverDrive は Ostatus にも ActivityPub にも対応しているがBuddyPress のタイムラインにリモートフォローした投稿を表示させたりはできないしそれ以前に GNUsocial から一方通行で人格 OverDrive をフォローできたのみでMastodon とはどちらからも叶わなかった追記:この問題は解決しMastodon から人格 OverDrive の各アカウントをフォローするのには成功した記事は人格 OverDrive のアカウントから Fediverse に配信される)。 Fediverse に執着する理由は epub や WordPress にこだわるのとおなじ自由に書いて出版したいからだWordPress の標語は出版の民主化だから信頼していたのだが最近の動きはだれにでも使えるの意味を取り違えたかのようで、 「使い勝手を開発者が勝手にお膳立てするになってしまっている努力は惜しまないからユーザに決めさせてほしい本来はだれもが自分のサーバをもつ世界であるべきだ自分のサーバに他人を招き入れるのではなくよそにいる他人をつきあいに応じて混在表示させる現に Fediverse はそのようなものとして設計されているのになぜ日本人は両手に嗜虐的なコンテンツをかかえて大規模サーバにわざわざ群れ集うのか三年前の日本における Mastodon ブームはいわゆる赤い薬」 (差別主義者にとってのあるべき世界への切符として期待されたにすぎずネオナチが gab.com をISIL が diaspora* を利用したようにペドフィリアが約束の地を夢見て大量流入したにすぎなかった優生思想と同様ペドフィリアもまた全体主義社会にとって都合がよい成人男性が女児を搾取するコンテンツは権力構造を再生産する装置たりうるからだtwitter ジャパンは現政権とつながりの深い企業某大手広告代理店が大株主によって運営されており流出しかけたユーザは何事もなかったかのように戻ってきた言葉の自由を取り戻すという考えは結局のところ差別主義者にあべこべに悪用されるだけなのかもしれない⋯⋯とここまで書いてブロックチェーンについて書かれた文章をいくつかよみだれもが自分のサーバをという発想は古いかもしれないと気づいた意図するところは合っていてもサーバではなく各自の端末が結節点となるような P2P 的なやり方が書いて出版する自由の未来かもしれない

オール・トゥモロウズ・パーティーズ


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。