イシュマエル・ノヴォーク

コイディシュ・ブッフ

第13話: 街角の義人たち

イシュマエル・ノヴォーク書いた人: イシュマエル・ノヴォーク, 投稿日時: 2020.07.25

 朝いちばんにやることはミジェレツキさんのところで新聞をもらって、自転車にのっける。それから通りまでひとっ走り。でも、今日は通りよりもスモレンスキンさんのとこが先。昨日の約束を守らなくちゃ。
 小さな通りを曲がって、大きな通りを曲がって、また小さな通り。まっすぐ走ればバーベリさんのお店。バーベリさんが店の前を掃いている。店の前には黄色い花が咲いていて、バーベリさんはじょうろで水をやったりする。バーベリさんは指がないし、なんだか怖いけど、いい人。たまにハマンタッシェをくれるもの。自転車に乗りながら挨拶すると、バーベリさんが
「気を付けろよ、チビ助」
 歌とおんなじように、ぼくには六人の兄弟がいる。父さんはたまに帰って来るだけだから、ずっと一番上のイサクが父さんだと思っていた。イサクは背が高いんだ。イサクの背が高くなかったらチビ助なんて呼ばれないのに。

 小さな通りを抜ければスモレンスキンさんのお店。焼きたてのにおい。自転車を停めて、おりると帽子が落ちてきた。これはイシュバクからもらったもの。でも、イシュバクはミディアン、ミディアンはメダン、メダンはヨクシャン、ヨクシャンはイサクからもらったもの。みんながかぶったから帽子が大きくなったんだ。ぼくがかぶり終わる頃には気球みたいになっているかも。

 重たいドアを押してお店に入ると、スモレンスキンさんが
「おはよう、シュアハ。昨日の約束ね?」
 ぼくが新聞を渡すとスモレンスキンさんがベーグルをくれた。
「明日も来たほうがいい?」
「いいえ。これは約束をちゃんと守ったご褒美」
「今日はベリルいないの?」
 スモレンスキンさんが困ったような顔になった。
「慣れないことするから、昨日、腰を痛めて、今日は家で休んでますよ。まったく、あれほど気を付けろと言ったのに。とはいえ、仕事がないのは昔っからですから、心配するだけ無駄ですよ」
「そうなんだ。お大事に。ベーグルありがと。もう行かなくちゃ」
 ぼくは重たいドアを引いてお店を出る。スモレンスキンさんが「気を付けるんですよ」と言ったから、ぼくは手を振った。
 
 ポケットにベーグルを突っ込んで、自転車に乗ったらひとっ走り。大きな通りにきたら自転車を隅っこに停めて、後ろの新聞を解く。ぼくの場所は決まってる。花売りのイダが右で、左は靴みがきのイェフダー。ぼくは息を大きく吸い込んで

「ニューヨーク一番の新聞はフォアヴェルツ! フォアヴェルツ紙はいかが!」


『ロクス・ソルス』という同人小説サークルで活動しています。それから、ジャズピアノの演奏活動をしています。気が向くと絵を描いたりします。
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