うへ

大人って歯も上手く磨けない

連載第13回: 「染まるよ」で蘇る思い出。奈良で童貞を捨ててきた話(Part1)

うへ書いた人: うへ, 投稿日時: 2020.07.05

 深夜二時過ぎ、スマホで立ち上げたYouTubeのおすすめに不意に上がってきたチャットモンチーの「染まるよ」。
 いつか書こうと思っていた私の原点にして頂点である色恋沙汰エピソードを語るべきときが来たようだ。みなさんも是非、チャットモンチーの「染まるよ」を聴きながら(もちろんヘビロテで)お付き合いいただければと思う。

 あれは私が2122のときだった。出会いは、今はなき某ブログサイト。当時の私は宙ぶらりんで、推薦で受かった大学も早々に退学し、「人混みが嫌だ」という理由で僻地にあるバイト先をわざわざ選んで通っているフリーターだった。

 日々溜まりに溜まっていく鬱憤と自己顕示欲を、高校の時から続けていた匿名ブログアカウントに吐き出していた。
 それは駄文であり、詩であり、独白であったりした。つまり厨二臭い、死ぬ気などサラサラない、自殺願望を仄めかすだけの遅れた思春期のソレだった。

 また今日も駄文を綴ろうとブログを開いてみると、いくつかの記事に見知らぬ人からの同一人物によるコメントが付いていた。
 その女性は「ペス」と名乗っていた。名前のアンカーリンクからブログに飛ぶと、「淫乱ペスの欲求不満ブログ」というタイトルが目に飛び込んできた。目に飛び込んできたのはそれだけではない。なんの加工も施していない顔を晒したまま胸元を強調し、谷間をチラ見せした写真や、下着姿のお尻をアップした写真などが掲載されていた。
 彼女は、エロブログ部門では人気を博しており、上位一桁代に食い込むほど、そのブログ界隈では有名な人物であったようだ。

 そんなカリスマ的ともいえる彼女が、なぜ自分のブログなんかに複数のコメントを残したのか。それも、どのコメントも好意的なものばかりで、ときに疑問形であり、ときに「私はこう思う」という意見の提示であったりした。

 27歳、2人の子持ち。旦那との関係はとっくに冷めている。彼女のブログをチェックするうちにわかってきたことだ。卑猥な画像を載せている記事では、「尻軽そうな女」を演じているふうであり、そうかと思えば、非常に鬱々とした暗い過去への怨嗟とも悲嘆ともつかぬ、本人にしかわからぬような詩的ともいえる断片的な言葉を綴っている記事が並んでいた。
 彼女の書くそうした文章は、相当に病んでいた。幼少期から母親による虐待を受けて育ったこと。五人姉妹の真ん中でありながら、中学二年生にして下の子二人の面倒を見て家事もしていたということ。実家には毎週末違う男が上がり込み、中学生の娘の帰宅を気にもかけない母親が、男との醜態を晒していたこと。中学生のとき、はじめて好きになり付き合っていた五つ上の恋人が、「会いたい」と切迫した声で訴えたにも拘わらず、軽く受け止めて電話を切ったその数時間後、自殺を図り、死んでしまったことなど。彼女には、重すぎる暗い過去の体験がありすぎた。

 「好きだ」と言われて、誰だって嫌な気はしない。ましてそれが淫乱でグラマラスな可愛い系美人の年上お姉さんであり、仄暗いリアルな過去を抱えたヒロイックな側面を持つ陰のある女性であればなおのこと。そんな人に私の書いた駄文が褒められれば、表向きの態度こそクールぶってはいても、内心では有頂天であった。
 そしてなにより、私は童貞なのだ。早く童貞を卒業したいという焦りも欲望もあった。鼻の下を伸ばしまくって、いずれ来るかもしれない逢瀬に備えて、ほどなくオナ禁を開始した。

 こうして私は、人妻子持ちと、付き合うことになった。人生ではじめての、正式な彼女である。

 「待て待てい、それ、不倫ですから~、ざんね~ん!!
 などということは、22歳の世間知らずな私にはわからなかった。いや、正しくは、既婚者と体の関係を持つことが悪いことであるという認識こそあれど、それが法律に触れていることなど、学のない私にはわからなかったのである。

 不便なブログでのやりとりからメールへと移行した我々は、早速「声が聴きたい」と申し出た彼女に言われたとおり、電話をかけた。
 ドSを自称するブロガーであった彼女の声は、その印象通り、関西弁も手伝って、とても淡白でぶっきらぼうに響いた。とはいえ、初対面となる初めての電話である。彼女の好意や丁寧さは言葉の節々から伝わってきた。子供たちの駄々をこねる声も。

 「あ~、声聞いたらますます会いたなってきた~、デートいつにする?」

 事も無げに言ってくる彼女に私は狼狽した。なにせ福岡と奈良である。
 「女性のぶんは男性が奢るもの」という哲学をたったいま電話越しに披歴した彼女の手前、費用面や時間的な制約、過保護な母親のことを話すのは憚られ、「それでは童貞が捨てられない」という邪な思いも働いた結果、私は片道五時間半、その距離510㎞をかけて、童貞を捨てに行くことにした。


趣味でしかものを書いたことのない、名無しの素人エッセイスト(自称)。 この度、どういうわけか当サイト「人格OverDrive」の主宰者である杜 昌彦氏に「掲載してみませんか」とお誘いいただき、こちらに寄稿することに。 29年間、苦しそうなこと、辛そうなことから逃亡している人生。フリーター。 寄稿するジャンルは妄想エッセイ。虚実交えた物語を書いていきたいと思います。
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