D.I.Y.出版日誌

連載第257回: 素人のくせに

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2020.
06.23Tue

素人のくせに

Amazon がほんとうに顧客第一であったなら関連付けやランキングなどの表示機会がもうちょっと読者の需要に寄り添っているはずアルゴリズムの操作による利益の最大化が彼らの意図するところであって客が喜ぼうが落胆しようが彼らの商売には影響しないソーシャルメディアとしての側面もありながら顧客と顧客を結びつけることすら満足にできないのはいかがなものか安全な高みから他人を貶めることだけがソーシャルメディアの機能ではない版元と読者が直接つながるソーシャルメディアとしてのモールを人格 OverDrive は将来的な視野に入れている著者と読者が直接つながることに利点はない。 「自分が書いたものならさぞ傑作に思えることだろうそんなものにお金は出さないよと著者バイアスへの消費者バイアスがどうしても生じるしそのバイアスは版元に支援されない著者とのバイアスによってさらに昂じるところが版元が推すと扱いは大きく変わる読者はこの作品を世に出したいという第三者」 (実際は当事者なのだがの情熱を感じ、 「そんなにいい本なら買ってみようかなとの心理が働くことになる実例として人格 OverDrive でもそのような現象が生じる自分の記事についてツイートしても読まれないがご寄稿いただいた文章なら確実に反応が得られる一方で著者と読者を安易につなげるとマウントやマンスプレイニングで済むならまだましでいずれ刃物や爆発物や毒物がでてくるわたし自身も過去の試みでそれに近い経験をした。 「書店と読者ならどうか。 「書店が推す商品となるとモールの規模によってはどうしても顧客の需要を無視した一方的な押しつけになりがちだそれが実際に金になるし突きつめれば個人の情熱など不要であってアルゴリズムによって自動生成できるので読書から人間性が排除される一方となるそれでは読者は離れるそれが Amazon でいま実際に起きていることで逆に個人に近いレベルまで規模を縮めていけば血の通ったものとなるしかしその方向をひたすら推し進めればいずれ版元と書店が重なり合うこの思考において物理的な制約は想定しないひとやモノを物理的な距離を移動させるという制約がなければ取次に求められるのは各モールの差違を吸収するインタプリタとしての役割だけとなる版元と読者を密にすればそれは必ずしも不要だ極端な話狭い部屋のふたりがおもしろいよ」 「千円で売って」 「いいよと会話すれば済む⋯⋯わたしが知的障害者でなければこんな話もだれかに理解してもらえたのだろうか目の前で手品を見せられた猿が怒る動画を見たことがある知能が高度に発達した定型発達者でさえも往々にして似た行動をとる彼らの目に触れぬようしたたかにやりたい賞賛される同人誌の話題を見るにつけ感じるのだがわたしに致命的に欠けているのは愛される才覚だ何をどれだけやったところで所詮素人のくせにと笑われるばかりだ出版において素人であるばかりか社会生活に困難をきたす水準のしかし福祉の対象にはならない程度の知的障害者でもある。 「素人のくせにで思い出すのはかつて本業でお問合せいただいた自称東大卒のお客様だ。 「わたしは高度な知識を有する専門家だ何も知らない素人のくせに黙りたまえ!一時間以上もわたくしどもの商品についてご高説を賜られたご多忙のなかわざわざ問合せておきながらそれに対する回答はひと言たりとも拒否し一方的かつ高圧的に無知蒙昧な相手に対して教えを垂れるだけだったのであるつまり聞くのではなく聞かせたかったのだそれが高度な知識を有するプロの態度だ。 「××のくせにには任意の××あたかも社会的に劣ったものであることが自明であるかのように威圧的に提示することで両者の力関係を再定義させようとする意図があるしかしのび太が単なる人名でしかないように、 「××が社会的に劣ったものであることは実際には自明ではない威圧によって錯覚させることではじめて定義されるものでしかない自分のしっぽをとらえてぐるぐるまわっているような滑稽味がありそれゆえにのび太のギャグが成立する一方おなじ定型文を用いてはいるものの異なった効果をもつバリエーションに大卒のくせにというのがある工場で深夜勤務をしているとき大卒のくせにそんなこともできないのかとよく溜息をつかれたこれには特権を有するものへのカウンターとしての効果があるように思える。 「素人のくせに知ったような口をといわれたらプロのくせになるカウンターで返すべきだろうか? ⋯⋯否プロつまらねえなと思ってプロには届かぬ領域まで素人の身軽さでさっさと歩いて行くだけだ


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。