イシュマエル・ノヴォーク

コイディシュ・ブッフ

第1話: イディッシュ語新聞ができるまで

イシュマエル・ノヴォーク書いた人: イシュマエル・ノヴォーク, 投稿日時: 2020.06.17

 デスクには書類が山のように積まれている
 黙々とタイプを打つシャバタイ・ギンプルは二五歳になったばかりの青年だがまめまめしい性格で仕事ぶりは既に老練の域に達している
 休みになればギンプルは友人たちと律法について話し合いその中で敬虔さが研ぎ澄まされていくように感じる

 ギンプルの敬虔さ信心深さは両親譲りで信仰に対するある種の頑迷さはドイツ的だ

 一〇歳の時ギンプルは両親と共にニュー・イングランドにやってきた彼は船を降りて見たチェサピーク湾を出エジプト記になぞるこの時彼らの首からは私たちは英語がわかりませんと書かれた板が垂れ下がっていたこの板は船内で知り合ったワルシャワっ子と名乗る親切な同胞が書いてくれたものだ

 その後瞬く間に英語を覚えたギンプルは未だに英語の覚束ない両親や同胞たちのために通訳をかってでたその中には難しい法律用語が散見する契約書もあればユダヤ教徒にとっては相応しくない内容のものも含まれていたもののギンプルはそれらを丁寧で平易な文体で翻訳した

 彼はこれらの仕事を適正な価格で提供した信頼と金銭は心の秤なのだから

 ギンプルはボルチモア大学で奨学金を取得し経済を学んだ父親のアブハウはギンプルが繊維工場を経営する親戚ゲルショムの片腕になることを期待していたがギンプルにはいささか秘教的傾向があった
 大学を卒業したギンプルは糸に手繰られるようにニューヨークに移り住んだニューヨークで得た仕事はエイブラハム・カーハンが一八九七年に創刊した前進紙の編集デスク

(フォアヴェルツなんて美しい言葉なのだろう? フォーワードカディマに比べて口語的で力強く話し掛けるための響きだ地上にいる人々ぼくぼく以外の誰か目に見えない人々が囁き合うためにある言葉だ)

あの件はどうなった?
前回の律法学者のコラムあれは最低だったなまるで中身がなかったどうして編集長はあんな奴の記事を載せたんだ? あんなものじゃ読者に鼻で笑われるのが関の山だ
カフェに来るボタンかがりの娘を知っている? そう短い髪をしたコーヒーにサッカリンをいれて飲む娘だよ
ねぇ食事はどうする? サージの店でどうかな?
もしもし? その件はもうちょっとしたらですね……えぇそうだから大丈夫ですよ
その髭面もう少しマシな髭剃りを買ったらどうだ? 向かいの店がいいぞ? あいつはポーランド人だがいい腕だ眠ったからって剃刀を真横にして掻き切ったりしない
そうなんだまったくプリム祭の鳴り物みたいにやかましい連中だよ
広告に金をかけるんだ金に糸目をつけちゃいかん人手に金を惜しんでもいいが広告に金を惜しんでは駄目だ我々の敵はどうやった? 奴は悪魔だって裸足で逃げ出すような非道なことをした奴のやり方はどうだ? 中身のない虚ろな連中の心を掴んで離さなかっただろう? つまり広告だ広告こそが時代の鍵だ広告を制する者が世界を制するわかったら次は一面でぶち抜け

 ギンプルはタイプライターから吐き出された紙を慎重に千切るとクリップでとめトレイにのせた

おしまいあとはよろしく


『ロクス・ソルス』という同人小説サークルで活動しています。それから、ジャズピアノの演奏活動をしています。気が向くと絵を描いたりします。
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