D.I.Y.出版日誌

連載第252回: ソーシャルな怪物に抗う

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2020.
06.11Thu

ソーシャルな怪物に抗う

差別に加担し略奪や暴動を扇動する連中の親玉みたいな大統領が反ファシズムを標榜するをテロ認定するとか何がなんだかわけがわからない世の中だtwitter のわたしのタイムラインではあたかも差別に抗うかのような言説が渦巻いているところがなぜか J.K. ローリングの差別発言の話題は流れてこないようやく流れてきたと思ったら自分の怒りをダニエル・ラドクリフが無視したと怒っている理不尽なツイートだったあなたの怒りはあなたが主張していけばいいでしょうすべての差別に同時に言及するよう他人に要求する思考がわからないアフリカ系米国人が置かれている状況について論ずるひとに白人の生命も大事だとふっかける輩を連想させるがどうもそういう問題ではなさそうだtwitter 上の反差別には明確なヒエラルキーがあるようなのだ差別として認められる対象にまで差別があるひどいツイートが流れてきてショックを受けた数名の女性の言動を理由にだから女性はと批難したらだれがどう見ても差別だがトランスジェンダーを相手にそれをやればまかり通るあまつさえそのひと自身にはどうにもならない身体性を貶めるような言説であってさえもそれどころかそれらは反差別人権尊重の言葉であるかのように受け入れられる正義を訴えるかのように装いながら公然と安全な高みから悪辣な暴力をぶつけることのできる対象がすなわち社会によって加害する権利が広く保障されている相手がトランスジェンダーなのだろうまるで国民の創世に描かれるアフリカ系米国人みたいな扱いじゃないかなんでだれかがそのひとであることの価値をあかの他人に認めてもらわなきゃいけないんだよなんで他人様の生命を許すとか許さないとか決める権利が自分にあると思うんだよ少なくともわたしのタイムラインでそうした価値観に共感こそあれ抗う声はないtwitter はみんなでおなじことをいう大喜利なのだという気がしてきたこの国ではだれにも考えなんてものはなく全体の空気に流されるだけなのだしょせん反差別も上っ面の流行にすぎない本来なら支持すべきハッシュタグにもあべこべに全体主義の臭いしか感じられない認められる怒りとそうでない怒りがあるみんなが話題にしていればいいがそうでない差別への怒りを表明すれば疎外される米国人の怒りの根底には個がある香港で起きてることだってそうだそれぞれがわたしである権利のために互いに支え合い声をあげる日本人はもっともらしい口実を掲げながら全体の空気に流されて貶め合うばかりだそもそもだれにもわたしがない空虚な闇があるだけだそこにだれもが引きずり込まれる政治家やカルトや差別主義者がそれを利用するわたしは Halsey のコメントに共感する。 「若き反乱者が純粋な血筋を守り抜くという動機に基づく非道なモンスターに打ち勝つという世代を定義するかのような素晴らしいシリーズを書き上げながら今という状況のなかでうーんよしトランスジェンダーの人たちを無価値認定しようっていうのはどうなのフィクションではないのにこの訳もまた役割語めいていてそれはそれでモヤッとするけれどしかし芸術とは何のためにあるのか大いに示唆する言葉ではなかろうか


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。

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