D.I.Y.出版日誌

連載第251回: 世界にいくつもの花

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2020.
06.10Wed

世界にいくつもの花

twitter を再開して五ヶ月になるわたしに近い考え方が増えたのは膚に感じているしかし所詮はいつもの全体主義的な空気でしかないだろうと醒めた気分で眺めている一日に数件のクレーム対応をしている多くのお客様はその方なりの筋道が通っていて話せばご理解いただけるごくまれに弱い相手に人格否定をして憂さ晴らしをしたいだけの方もいらっしゃるそうしたお客様が人格否定の言葉としておまえはアベみたいなやつだと仰ったとき潮目の変化を感じた流れの向きが変わったただそれだけのことだほんとうにわたしの考え方が多数派になったのであれば共感できる小説がもっと出版されているはずだ実際には疎外されつづけている職場のオペレータがtwitter は政治的な発言をすればいいねがいっぱいつくからといっていてなるほどと思った結局そういうことでしかないのだろうそのひとは猫の画像をツイートするアカウントだけをフォローしているといっていた。 「twitter は癒やされますよね猫だけが流れてくるからわたしの知るタイムラインとは違うと感銘を受けたそれが正しい使い方だ。 「世界にひとつだけの花でも花屋の店先には並ばなければならないと賢しげに語るツイートを見たゲイもいるしそうでないひともいるみんな自分らしく生きようよと楽しく歌っているところに異性愛者がドヤ顔でずかずかと割り込んできて結婚し家庭を成して子どもを持つのが常識その前提を満たしてこそ人間だと頭ごなしに説教された気分あの唄が流行った頃よりこの国は退行したんじゃないか花はあなたに見られるために咲いているわけではない百歩ゆずってあなたに見られるための花であっても植物園もあれば花壇もあるホームセンターの種売場もある。 「花屋の店先を全世界と思い込むあなたのために咲く花に広い世界で咲く花の彩りはないあなたのようなつまらない男に美しいとか醜いとか使えるとか生産性がないとか品定めされるために花は咲いているわけではないそのことは強く主張しておきたいそしてそんなくだらない世界からはどんな花も逃げ出すだろうということもtwitter のアルゴリズムはやはりユーザの挙動を反映した表示機会を雪だるま式に増大させることでユーザ間のコミュニケーションを促しているようだフォロワー全員の言葉が等しく流れてくるわけではない。 「いつもの顔ぶれと感じる体験が生じるように調整されているアルゴリズムが生成した錯覚なので最適化されていない挙動がそのために誘発されることもありうるその挙動もまた増幅され社会規範を逸脱した挙動=暴力とみなされるみずからを最適化できた者のみがよりいっそう生きやすくなりかなわなかった者は疎外されよりいっそう生きづらさを抱えるしかしそれは要するに花屋の店先でしかないわたしたちはもっと広い場所で咲かなければならない自分だけの色でつまらない他人に承認されるためではなく


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。