D.I.Y.出版日誌

連載第250回: 出版社の役割

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2020.
06.09Tue

出版社の役割

最初から日本語で書かれる小説に救われなくなってひさしい価値観がちがいすぎて共感どころか読みすすめることができない手にとる気にもなれないこの国では基本的に、 「淘汰する側の論理で書かなければ出版されにくいと感じている別の視点を求めれば翻訳小説しか読めなくなる事実この二十年ほどそうしてきたペドフィリアやレイピストや差別主義者であることの権利が当たり前のように主張され人権を訴えれば袋叩きにされるようなこの国で読みたい本が出版されるわけがない販促は著者がやれというツイートを見た個人と出版社とのちがいは金と看板の二点にしかない看板を自分でどうにかしろといわれたらまぁ実際ソーシャルメディアでうまく立ちまわれるかどうかに出版社の出る幕はないのだけれどそうであるならば残りは金だけになるし個人が看板になれば金でさえもどうにでもなるいずれ著者は出版社のもつすべての機能を高い水準で求められるようになる個人がでかい資本を運用してさまざまな業務をそれぞれの業者に委託しプロフェッショナルな事業として立ちまわらねばならないようになる小説を書く技能労力時間は作家にとって些末なことになるというかすでにそうなりつつあるそうなったとき有利なのは出版社に育ててもらえた世代だろう過去のコンテンツ資産も含めて投下資本のフリーライドが問題になるせっかく金を投じて育てた作家が成功したとたん独立し個人でやっていくようになり何も回収できなくなる出版社は若い世代にますます金をまわさなくなり著者はますます離れていく単純にコンテンツだけを見ても取材に一銭も要さぬ企画だったとしても最低限校正校閲の費用がただ乗りになる作品が成立するまでに出版社がかけた金は戻らず離れていった著者が得るようになる著者が動かなければ過去のコンテンツ資産は塩漬けになるだけでどのみち出版社の利益にはならないのだけれど出版社の金がなければ作品が成立しなかったのも事実だいずれこうしたことが問題になる器用な著者はすでに動きはじめている成功の可否はソーシャルメディアにいかに自らを最適化するかだいいねされやすいマッチングの表示優先度に絡む関連付けや語彙のアルゴリズムをハックし自らの人格や言動をそこに最適化するのを人気アカウントは無意識にそれこそ呼吸するように自然にやっているむろん現実においてもそうなのだがとりわけソーシャルメディアでのふるまいが商売に直結するそうした未来に出版社の出番はないこのまま著者にあらゆる責任を押しつけつづければということだ販促は著者がやれ? たちの悪い客から守ってもくれないのに? ペドフィリアやレイピストや差別主義者を優遇するばかりで抗う表現はまともに扱おうとしないのに? じゃあ出版社の役割とは何なんですか


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。