D.I.Y.出版日誌

連載第245回: 最終出口

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2020.
05.29Fri

最終出口

なんでもかんでも文句を垂れるのではない大好きなことや信じていることがあるから妨げるものに抗う本心を隠して屈したくない黙らされるから生きづらくなるのだ目の前に問題があれば解決せねばならないそのために何ができるのかを考えているそっくりな動画をふたつ見た米国では警官が被害者を押さえつけるあいだ目撃者らはやめさせようと声をあげショックのあまり支えられながら立ち去るひともいた翌日にはあんのじょう暴動だ警察に協力的とみられた量販店が略奪され焼き打ちに片や日本では助けを求める被害者が受けると嗤われたあの嘲笑が加害者への挑発なら心意気を感じるのだが⋯⋯またぶん違うだろう人権剥奪を悲願とする政党に忖度した twitter はあからさまな検閲をはじめた同じ理由から国内有数のインスタンスがあいついで運用を停止するという米国では大統領のツイートに警告をつけたのに⋯⋯との意見を散見するけれどそう単純な話だろうか彼が大統領に選ばれたのは広告代理店が twitter をうまく使ったおかげだといわれているつまりその時点では協力的だったわけだ掌を返したのは単純に儲からなくなったからだろう米国でも日本とおなじように人権侵害の報告は無視される人気作品のリメイク版に出演した女優が人種差別の被害にあったときもそうだった日米で企業体質がそう異なるとは思えない彼らのやり口に筋の通った大人の思考を求めても、 『J Rの主人公さながらに意味がないこれからは個々人が自由な発言の場を確保すべきなのかもしれないFediverse について調べはじめた三年前のブームではどうやらあべこべに人権侵害をやり放題できる場としてもてはやされたらしいゆえに国内最大インスタンスはネオナチと同様に扱われ世界の連合からつまはじきにされている。 「friendica インストールでぐぐって一頁目にサイコパスのサイトが表示されるあたりがいかにもこの国だ利用しているサーバにお手軽インストール機能があったので gnu social を試したepub や WordPress による出版と同様にディスカバラビリティを解決できないかつてブロゴスフィアと呼ばれていたものとよく似ているこれでは BuddyPress でひとりごとを垂れ流すのと変わりないしそちらのほうが扱いやすくて自由度が高いということになるここまで逼迫した状況でありながら Fediverse が検閲による表示抑制ではなく実際に話題にされないのはなぜかそれでわかった中央集権の恣意的な関連付けであるにせよ twitter の絆主義はディスカバラビリティとしてそれなりに機能するその点で Fediverse は twitter や Facebook を代替するインフラに決してなり得ない個の尊重と見出されやすさは両立できないのか宿命的なものなのかしかし本というのはその相矛盾する要素を長い歴史においてともに成り立たせてきたはずだ獅子文六の小説に年配の経営者がまっとうな商売を長く積み重ねた看板の価値を力説する場面がある見出されやすさにおいてブランディングが大事だとすればその看板はいったいどこで手に入るのか認知の積み重ねがなければ信頼も得られない自分でツイートしてもだれにも読まれないがひとさまに紹介していただくと爆発的に読まれる見出されるか否かはフォロワー数の多寡ではなく発言者がどれだけ信頼されているかで決まるようだひとづてに紹介される経験を地道に積み重ねばならぬということか紹介されるためには見出される必要がある堂々巡りだ完全なるどん詰まりの個じられた本とはそのようなものだがそれらを互いにつなげる術はないものか政府を批判すると黙らされるが支持者が多いと復活できるそうだだれにも愛されない人間はいなかったことにされるだけ淘汰されざる看板を手に入れねばならない信頼性といえばひとさまの原稿を預かっている前回は年齢も近かったしそれまでにもある程度の関係性があって相互の尊重が成立すると感じられたので不安はさほど大きくなかった緊張感を楽しみさえした今回うまくやれるか否かはほかの投稿者を招けるかどうかにかかっているような気がするよく知らない方とはメールのような一対一の密室のやりとりは避けたいのだけれどこれはどうしようもないなるべくガラス張りにするためには一対多にするしかない相手の数が増えれば力の非対称性による気持悪さも薄まるはずだしかしこんなことを考えている時点で圧倒的に気持悪いだれも脅かしたくないおひとりさまインスタンスにひきこもりたいそうもいかない出版とは言葉を公にすることだ見出されねば書かれなかったのとおなじになる第二波を控えて緊急事態宣言は解除された外へ出なければ


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。