杜 昌彦

D.I.Y.出版日誌

連載第243回: 失った習慣

杜 昌彦書いた人: 杜 昌彦, タグ:
2020.
05.23Sat

失った習慣

絶不調。二ヶ月前にジムで無理をしすぎて腰を痛めた。姿勢が悪いせいか慢性の腰痛に移行した。行けずにいるうちにジムは閉鎖された。治療薬の副作用で胃腸がつねにむかつく。ビフィズス菌入りの胃腸薬を飲みはじめた。それまでは体質に合わなかった米が平気で食べられるようになった。年休消化で休日が多い。運動せずに過食して深酒して寝るだけの生活になった。自覚できるほど肥満した。いまならマタニティフォトが撮れる。『ぼっちの帝国』は十日ほど前から急に一頁も読まれなくなった。そうなるのが怖くて「アルファベット最初の文字からはじまる偉大なるモール様」などと呼称していたのだが、青山ブックセンターか何かとまちがわれて悪意を向けられて以来、それはそれで怖くて名指しするようになった結果が案の定だ。Amazonには売りたい商品を売りたいように売る権利がある。表示はそのために最適化される。もちろん実際の因果関係はわからない。今回にかんしては違うような気もする。どうすれば改善できるのかわからない。表紙がまずいのだろう。何度もつくりなおしたが自力ではどうにもならない。twitter広告を試してみた。多少の「いいね」を買っただけに終わった。googleにしてもそうだがどうも彼らは旧弊なジェンダーバイアスに基づいてユーザを分類しているようだ。電子書籍や閲覧端末の「興味・関心」は男性に紐付けられている印象を受ける。なんにせよ手詰まりだ。あれだけのものを書いたのにとんちんかんな冷笑を得ただけに終わった。あれだけのもの? だれにも評価されないゴミじゃないか。評価されるために出版したわけではないが読まれなければ書かれなかったのと同じだ。だれもいない森で倒れた木のようなものだ。価値のない無能のやることはしょせん価値がない。無能には何をやらせてもだめだ。あまりにもわかりきっている。価値がないものを書いてなんになる。わざわざ惨めになるためになけなしの力を振り絞るようなものだ。せめて気分だけでも上を向きたいのだが材料がない。自分を肯定できる要素がいっさい見つからない。もしかしたら日記をつける習慣を再開すればまた書けるようになるかもしれない。そうならないのはわかっているが一縷の望みをかけてむりにこの文章を書いた。ひどいものだ。


(もり まさひこ、1975年6月18日 -)著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、藤井太洋氏、十市社氏らによる指導を受けた『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。最新作は『ぼっちの帝国』。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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