物語が好きな読者と言葉に惹かれる読者がいるのではないか、 というツイートが流れてきた。 たぶんナボコフは後者で、 読ませるための戦略として前者を活用している。 わたしは読者としても書き手としてもそれに近い。 言葉だけでは読め (書け) ないし、 物語だけでは読む (書く) 意味を感じない。 それにもうひとつ 「いいたいことをいう (いってくれている)」 という要素があって、 『ぼっちの帝国』 はたまたまその三つの均衡がとれていたので書きやすかった。 いま書こうとしている 『GONZO』 はその配分が悪いようだ。 そうだ、 もうひとつ 「人間が描かれている」 というのもあるかな。 物語に含める考え方もあるだろうけれど 「つまらないけど人間が描けている」 あるいは 「おもしろいけど人間が紙人形のようだ」 という小説もあるのでわたしは別に捉える。 いずれにせよ 『ぼっちの帝国』 はそれらがうまく機能して、 『GONZO』 では失敗している。 「細かいことはどうでもいい」 という姿勢の Z 級アクションで、 下種な煽り文句だけは決まっている。 「中年殺し屋と女装男子の BL アクション」 というのだけれど、 それだけ聞くとおもしろそうに思えませんか? 『ぼっちの帝国』 が全力で恋愛小説に振ったので真逆の、 殺伐とした話をやりたかった。 ところが実際に書こうとするとつまらない。 気分が乗らない。 気分で書けたり書かなかったりするあたりがどうも素人だ。 わたしは身のまわり 30cm 範囲内か、 浮世離れした空想のどちらかしか書けないらしい。 『GONZO』 にいまひとつ乗り切れずにいるのは警察やら公安やらを出さねばならないせいもある。 発達障害なので現実の社会制度が何ひとつわからない。 社会的能力に困難のある発達障害だからこそ、 『ぼっちの帝国』 では関係性の最小単位である恋愛を題材にした。 縁のないもの、 わからないとわかっていることを書く。 それがうまくやれた。 去年は体調がよかったせいもある。 きょうはもうだめだ。 読むほうをやろう。 ピンチョンやオースターがわたしのために列をなして待っている。
2020.
04.28Tue
(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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