D.I.Y.出版日誌

連載第238回: 平常運転

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2020.
04.28Tue

平常運転

物語が好きな読者と言葉に惹かれる読者がいるのではないかというツイートが流れてきたたぶんナボコフは後者で読ませるための戦略として前者を活用しているわたしは読者としても書き手としてもそれに近い言葉だけでは読め書けないし物語だけでは読む書く意味を感じないそれにもうひとついいたいことをいういってくれている)」 という要素があって、 『ぼっちの帝国はたまたまその三つの均衡がとれていたので書きやすかったいま書こうとしているGONZOはその配分が悪いようだそうだもうひとつ人間が描かれているというのもあるかな物語に含める考え方もあるだろうけれどつまらないけど人間が描けているあるいはおもしろいけど人間が紙人形のようだという小説もあるのでわたしは別に捉えるいずれにせよぼっちの帝国はそれらがうまく機能して、 『GONZOでは失敗している。 「細かいことはどうでもいいという姿勢の Z 級アクションで下種な煽り文句だけは決まっている。 「中年殺し屋と女装男子の BL アクションというのだけれどそれだけ聞くとおもしろそうに思えませんか? ぼっちの帝国が全力で恋愛小説に振ったので真逆の殺伐とした話をやりたかったところが実際に書こうとするとつまらない気分が乗らない気分で書けたり書かなかったりするあたりがどうも素人だわたしは身のまわり 30cm 範囲内か浮世離れした空想のどちらかしか書けないらしい。 『GONZOにいまひとつ乗り切れずにいるのは警察やら公安やらを出さねばならないせいもある発達障害なので現実の社会制度が何ひとつわからない社会的能力に困難のある発達障害だからこそ、 『ぼっちの帝国では関係性の最小単位である恋愛を題材にした縁のないものわからないとわかっていることを書くそれがうまくやれた去年は体調がよかったせいもあるきょうはもうだめだ読むほうをやろうピンチョンやオースターがわたしのために列をなして待っている


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。