D.I.Y.出版日誌

連載第235回: D.I.Y.出版と広告

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2020.
04.07Tue

D.I.Y.出版と広告

今夜はしらふであるまぁこれから飲むのだけれど下戸だというのになぜ毎晩飲むようになったのかわからないしかも以前は机に置きっぱなしのウィスキーをちびちび飲むだけだったのが最近は安ワインとか缶酎ハイとかビールとか薄い酒をがぶがぶ飲むようになったおかげでせっかく眠れても排尿のために何度も起きるはめになる買いだめした薄酒は買いだめした夜になくなるものだ初心に返って手元の瓶で景気をつける悪くない調子がでてきた疫病で苛立った客が行列をなし連日のように理不尽に罵倒され人格否定される日々昨夜はあまりに疲れはて何も書かずに泥酔して寝てしまったが今夜はこれから泥酔じゃなかった前回予告した宣伝の話を書きたい発達障害者は酒や薬物ばかりか賭博にも依存しやすいと聞くわたしは下戸だし競馬もパチンコもやらない代わりに広告に無駄金をつっこむ月に五千円からひどいときだと二万ほど戻ってくるのは多くて五千円である無駄金を投じたからといって読まれぬが投じなければ一冊も読まれないなぜなら何を隠そうわたしの本は現代の読書文化およびそれを支えるインターネットときわめて相性が悪いのである威張るつもりはないが事実売れぬのだからしょうがないアニメ風イラスト表紙のほかのどれとも区別のつかぬわかりやすい使い古されただれかの言葉が勿体つけて記された本、 「いいねや共有に適した本一瞬でわかった気分になれる本そのようなものが現代のこの国では喜ばれる皮肉や悪態のつもりはないそれが企業や消費者が望むよい商品でありわたしのは生憎そうではないという客観的事実をただ述べているわたしの本は普通でもよい商品でもないわたし自身がそのような人間ではないからだなれるものなら正常な家庭に育った定型発達者になりたかったし、 「いいねされ共有されるようなアニメ風イラストの似合うわかりやすい」 「よい商品を書きたかった。 「普通の人間ならわざわざ必死こいて D.I.Y. なんてやらないしそもそも書いてすらいない淘汰されるべき生産性のない人間だだから苦しんできたし苦しんでいるあなたのために出版するわたしがわたし自身であることあなたがあなた自身であることの困難について書いている売れた実績のない企画は商業出版に向かないだから D.I.Y. を選んだ旨はすでに述べたしかし epub も POD もインターネットの落とし子である販路もまたインターネットのしかももっとも  濃ゆい﹅﹅﹅部分の偉大なるモール様であるインターネットは 90 年代には表現の自由や多様化を叶えるかのように夢想されたひとびとの暮らしに広がり掌の端末に定着してみればそれは既存メディアの偏狭を効率化しいびつなまでに拡大しつづけるだけの代物でしかなかった。 「世間に適性がないわたしはインターネットにはなおさら適性がない読まれぬのは受け入れているが筋の悪い客に読まれるのは業腹だ望む商品ではないからととんちんかんな低評価をつけられる缶酎ハイしか飲まぬ人間にウィスキーを出したらまずいと吐き出されるのはもっともな道理であるそこでせめて客層の改善をしたいと望んだのが広告の動機で⋯⋯いやこの辺にしとこう思ったより長くなったつづきは明晩とする酔い潰れていなければの話だが


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。