D.I.Y.出版日誌

連載第229回: 立ち止まる

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2019.
11.11Mon

立ち止まる

前作は若書きの習作を書き直したにすぎず内容も薄かった今回はそれなりに力を入れたが売るのには前作にもまして失敗した両者の違いはふたつあるまず広告に無駄金を投じる気力が失せた次に無料キャンペーンの有無だKU 以降はあまり意味を成さなくなったかに見られているが多少なりとも露出を増やすにはいまだ有効なのかもしれないあるいは無料配布と広告の組み合わせに多少の気休め程度の効果があったのだろうか発売直後に広告で集客して無料配布しひと月ほど 99 円で売ってから値上げすべきだった今回はすでに 480 円で購入実績が生じたのでいまさら引き返せないゴミほど気軽に手に取られやすいストア特性の前では出版に力を入れるほど社会的に無価値である事実に落胆させられる読まれるためではなく自分にもやれると感じるためにやっている無力感を募らせるだけなら逆効果だがかといってやめることもできない愛されるために生きているのではないのと同じだ他人とかかわるのは苦痛でしかない死ぬのも死に損なうのも厭だから生きているだれともかかわらずに生きられれば赦しなど要らないが奪われつづけでは生きていけないやむだけでは苦痛は解消されないし決してやみはしないのも知っている取り戻せるはずなどないのにさもしくも渇望する愛は生まれながらにすべてを所有するひとたちのものだ有限かつ寄り集まる傾向がある持たぬ者を蔑むひとたちが固く握りしめて生まれてきて死んでも離さない幼かったおれを虐待していた父親の年齢になった若かったおれが一緒に暮らしていた女を酔うたびに電話一本でデリヘル代わりに呼びつけた妻子も持ち家もある教師の年齢になった彼らと同じ年齢になっても奪われたままだどれだけあがいて努力しても取り戻せない雨が降っていて寒いジムにも郵便局にも行きたくない書評サイトへの献本が億劫になった広告と同じ金と時間と労力を投じた分だけ惨めになるならばもっとましなことをやるべきだ小説を書くのは病気だからやむをえない日記はどうだろうか出版にともなう思考を記録するよりも実践すべきだし日々の気分を垂れ流すくらいなら小説を書くべきだ小説の連載機能は実装したおかげでぼっちの帝国を書けたしかし日記に利点はないのかもしれない時間を浪費して自らを貶めるだけだ本の感想と小説の連載だけに特化すべきかもしれない


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。

コメントは受け付けていません。