D.I.Y.出版日誌

連載第216回: 出版と個の幸福

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2019.
10.15Tue

出版と個の幸福

書いているあいだはそれほどでもなかったのに書き上げたら鬱になった出版せねばならないからだそもそも何のために出版するのか自己肯定感を得るためだ自分にもやれることがあるという実感ないし錯覚を得るためだそのためには他者の介在を成立の条件に含めてはならないあくまで努力によってコントロールし得るもののみを対象とせねばならない一方で出版の概念は公にすることを含む他者との関わりによってはじめて存在を規定される具体例をあげればストアは自分の外にある概念でありコントロールできない客層も相容れない自己を貶め肯定感を奪う他者にほかならないにもかかわらずそこに公開せねばことにならないならば手段に過ぎぬのを努めて意識せねばならない自己肯定感のために何がやれるかを活動の基準としたい次の休みには印刷版を作成する三年前から漠然と取り組んできたぼっちの帝国に今月中に片をつける年末までは本を読む読んで感想を書く自己肯定感の向上に貢献することは実証済みだいい本を読めば気分がよくなる単純な話だ長期的には本の網で集客し自著に繋げる目論見もある本は個に属するもので単純には割り切れずかつ長期的に捉えるべきものだ現代の日本社会はそうした概念と相容れないそこでは他者にどう見られるかを前提とした刹那的な消費としてのわかりやすさが尊ばれる時間をかけて積み上げる側ではなくだれかが苦労して積み上げたものを一瞬で蹴り崩して嗤う側がよしとされるだれかがだれかの言葉を潰せばひとびとは狂喜して群がってその暴力を消費する他人の仕事を台なしにすることで労せずして全能感を味わう草も生えぬ焦土にしてまた次の標的を捜し求めるそれが現代の日本でありそんな社会は自分にも本にも適さないかといって社会を変えることはできない社会が自分を変えることもできないできるのは自分が自分を変えることだけだ自分にとってよりよいものにすることだけだ社会にとってではない残念ながら


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。