D.I.Y.出版日誌

連載第215回: 落としどころ

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2019.
10.14Mon

落としどころ

七転八倒してようやく満足のいく装画ができたトリミングの問題だったイラストの拙さは関係なかった男の背中が認識できるぎりぎりまで女の顔に近づけて文字の配置をいじったら完成したうまくいかないときは足すことを考えがちなものだがそうするとますます拙くなるこれ以上は引けないほど引けば重要な要素だけが残るいいたいことが明確になるロマンス小説の装画は男女が抱き合う構図が多いそれもなんとなく傾いた姿勢で抱き合っている)。 半裸ないし作品世界を象徴する衣裳をまとった男女が見つめ合うかもしくは女のほうがこんなセクシーな男性に愛されるなんて困っちゃうとでもいいたげなドヤ顔をしているおれの小説で男女は見つめ合わないてんでに勝手な方向を見ているなので男に抱かれる女が肩越しに男の書いた本を読む構図にした六十年代の音楽をモチーフにした話なのでRevolverRubber Soulのパロディにする必要もあったそれなりに必然性があってあんな絵にしたのだ。 『Revolverは四人の顔なのに当初なぜ引きの絵にしたのか自分でもわからないイラストとしてはそう悪くなかったが装画にしてストアに並べるとゴミにしか見えなかった最初から顔だけにすればよかったまぁいい終わったことだそれにしてもなぜおれはこんなにも自分の納得のいく出版にこだわるのだろうだれも読まないのにままならぬ人生においてわずかでもコントロールできることがあると実感したいのだそのためには自分でコントロールできる範囲でのみ出版せねばならないアルファベット最初の文字からはじまる偉大なるモール様やおれとは相容れないそこの顧客層は当然ながらおれの外部にあるコントロールできるものではないししたいとも思わないそういうものに触れるのはおれにとって害しかないたぶんおれは人格 OverDrive でのみ連載し単行本を配布すべきなのだ今回の連載はプロとしてやっていくための技量を知る試みだった単に小説の技能だけでいえば証明できたしかしプロとして食べていく技能はそれとはまた別だ他人とうまくやっていく力こそが必要となるそういう意味でおれはプロにならなくて幸いだったし人格 OverDrive という場を得られたのはよかった十四年ぶりに書けたのもサイトに連載機能を実装したおかげだ来年はGONZOという中年探偵と女装男子の BL アクションを書く予定だそれまでの数ヶ月は戦略的に本を読むつもりでいる。 『ぼっちの帝国は装画ができたので年内に印刷版を出す

ぼっちの帝国


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。