杜 昌彦

D.I.Y.出版日誌

連載第217回: 落としどころ

杜 昌彦書いた人: 杜 昌彦, タグ:
2019.
10.14Mon

落としどころ

七転八倒してようやく満足のいく装画ができた。トリミングの問題だった。イラストの拙さは関係なかった。男の背中が認識できるぎりぎりまで女の顔に近づけて文字の配置をいじったら完成した。うまくいかないときは足すことを考えがちなものだがそうするとますます拙くなる。これ以上は引けないほど引けば重要な要素だけが残る。いいたいことが明確になる。ロマンス小説の装画は男女が抱き合う構図が多い(それもなんとなく傾いた姿勢で抱き合っている)。半裸ないし作品世界を象徴する衣裳をまとった男女が見つめ合うかもしくは女のほうが「こんなセクシーな男性に愛されるなんて困っちゃう」とでもいいたげなドヤ顔をしている。おれの小説で男女は見つめ合わない。てんでに勝手な方向を見ている。なので男に抱かれる女が肩越しに男の書いた本を読む構図にした。六十年代の音楽をモチーフにした話なので『Revolver』や『Rubber Soul』のパロディにする必要もあった。それなりに必然性があってあんな絵にしたのだ。『Revolver』は四人の顔なのに当初なぜ引きの絵にしたのか自分でもわからない。イラストとしてはそう悪くなかったが装画にしてストアに並べるとゴミにしか見えなかった。最初から顔だけにすればよかった。まぁいい。終わったことだ。それにしてもなぜおれはこんなにも自分の納得のいく出版にこだわるのだろう。だれも読まないのに。ままならぬ人生においてわずかでもコントロールできることがあると実感したいのだ。そのためには自分でコントロールできる範囲でのみ出版せねばならない。アルファベット最初の文字からはじまる偉大なるモール様や、おれとは相容れないそこの顧客層は当然ながらおれの外部にある。コントロールできるものではないししたいとも思わない。そういうものに触れるのはおれにとって害しかない。たぶんおれは人格OverDriveでのみ連載し単行本を配布すべきなのだ。今回の連載はプロとしてやっていくための技量を知る試みだった。単に小説の技能だけでいえば証明できた。しかしプロとして食べていく技能はそれとはまた別だ。他人とうまくやっていく力こそが必要となる。そういう意味でおれはプロにならなくて幸いだったし人格OverDriveという場を得られたのはよかった。十四年ぶりに書けたのもサイトに連載機能を実装したおかげだ。来年は『GONZO』という中年探偵と女装男子のBLアクションを書く予定だ。それまでの数ヶ月は戦略的に本を読むつもりでいる。『ぼっちの帝国』は装画ができたので年内に印刷版を出す。

ぼっちの帝国


(もり まさひこ、1975年6月18日 -)著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、藤井太洋氏、十市社氏らによる指導を受けた『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。最新作は『ぼっちの帝国』。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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