D.I.Y.出版日誌

連載第214回: 出版と後悔

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2019.
10.12Sat

出版と後悔

台風のおかげで早く帰されてこれを書いている。 『ぼっちの帝国はもう見るのも厭になってしまったのでさっさと出版して忘れることにしたMac に促されるままに OS を更新して MedibangPaint が使えなくならなければもう少しましな装画になるはずだったあんないかにも素人のゴミでございといった恥ずかしい代物にはならなかった類は友を呼ぶとやらまたしてもつまらない連中に寄ってたかって貶められるのが目に見えている今回はちゃんと書いたのでちゃんとした客筋にちゃんと読まれるよう注意深く出版するはずだったのに七ヶ月の努力が水の泡だこれまで数回の更新ではびっくりするくらい何も起きなかったので油断した今回はいろいろとひどいまず更新を迫る警告表示が煩わしかった以前はもっと控えめだったように思うどうしてもいますぐ消したいと思わされたまんまとしてやられたMedibang の件は自業自得にしてもいまもっとも困っているのは音量表示がおかしくなったことだHHKB のファンクションキーと AS を同時に叩くと表示されるスピーカー印の下の棒状の目盛りが真っ黒で見た目では何%か判別がつかないのだどのみち音源によって音量は異なるので耳で判断して調節するのだが強迫傾向のある発達障害者にはどうにも落ち着かないほかにも細々とした動作がおかしかったような気がするが Mac に触れている時間の大半は泥酔しているのでよく憶えていない大酒飲みだと勘違いされると困るので釈明しておくと下戸なんですウィスキーの 700ml 瓶を半分も空けたら潰れるそういう人間がなぜ飲むかといえば七ヶ月かけて書いた小説が失敗したからだいや本文はよくやったと思うんですよどうせまたろくに本を読んだこともない批評家気どりの阿呆どもに寄ってたかって笑い物にされるのだろうけれど自分にしてはよくやったと思うにもかかわらずまともな本に仕上げてまともに売ることができなかった当初は鷗来堂みたいなちゃんとした会社に校正・校閲を頼むつもりだったんですよ奥付にその旨を記載するのが夢だった⋯⋯が思ったよりも経済状況がよくないのに気づいて断念せざるを得なかったせめて自動校正をと思って Atok のウェブサービスを使おうとしたら一度に原稿用紙 25 枚までというじゃないですかとてもじゃないが使いものにならないそもそも入力可能な範囲でさえもお上品なビジネス文書にしか対応していない小説では使いものにならないそれでもうやる気をなくしたそれでも Medibang が死なず装画だけでもましにできていたらここまで恥に感じることはなかったかもしれないこれはほんとうに悔しいどうにかならなかったのか中身はずっとよくなったのに装画だけはPの刺激』 『KISS の法則から明らかに退歩している。 『逆さの月だって小学生が描いた虫歯予防キャンペーンのポスターみたいな最悪の出来だけれども今回のよりはまだましだ99 円という価格は期間限定でしばらくしたら 480 円くらいに値上げするつもりだどうせだれも買わないのだからいくらにしようが変わりない本来は客筋を改善するための広告戦略など考えていたのだが何もやる気がしなくなった来年はもっとましな本をつくりたい


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。