妄想中年日記

連載第216回: 出版と後悔

杜 昌彦書いた人: 杜 昌彦, タグ:
2019.
10.12Sat

出版と後悔

台風のおかげで早く帰されてこれを書いている。『ぼっちの帝国』はもう見るのも厭になってしまったのでさっさと出版して忘れることにした。Macに促されるままにOSを更新してMedibangPaintが使えなくならなければもう少しましな装画になるはずだった。あんないかにも素人のゴミでございといった恥ずかしい代物にはならなかった。類は友を呼ぶとやら、またしてもつまらない連中に寄ってたかって貶められるのが目に見えている。今回はちゃんと書いたのでちゃんとした客筋にちゃんと読まれるよう注意深く出版するはずだったのに。七ヶ月の努力が水の泡だ。これまで数回の更新ではびっくりするくらい何も起きなかったので油断した。今回はいろいろとひどい。まず更新を迫る警告表示が煩わしかった。以前はもっと控えめだったように思う。どうしてもいますぐ消したいと思わされた。まんまとしてやられた。Medibangの件は自業自得にしてもいまもっとも困っているのは音量表示がおかしくなったことだ。HHKBのファンクションキーとA、Sを同時に叩くと表示されるスピーカー印の下の、棒状の目盛りが真っ黒で、見た目では何%か判別がつかないのだ。どのみち音源によって音量は異なるので、耳で判断して調節するのだが、強迫傾向のある発達障害者にはどうにも落ち着かない。ほかにも細々とした動作がおかしかったような気がするがMacに触れている時間の大半は泥酔しているのでよく憶えていない。大酒飲みだと勘違いされると困るので釈明しておくと下戸なんです。ウィスキーの700ml瓶を半分も空けたら潰れる。そういう人間がなぜ飲むかといえば七ヶ月かけて書いた小説が失敗したからだ。いや本文はよくやったと思うんですよ、どうせまたろくに本を読んだこともない批評家気どりの阿呆どもに寄ってたかって笑い物にされるのだろうけれど。自分にしてはよくやったと思う、にもかかわらず、まともな本に仕上げてまともに売ることができなかった。当初は鷗来堂みたいなちゃんとした会社に校正・校閲を頼むつもりだったんですよ。奥付にその旨を記載するのが夢だった。……が、思ったよりも経済状況がよくないのに気づいて断念せざるを得なかった。せめて自動校正を、と思ってAtokのウェブサービスを使おうとしたら一度に原稿用紙25枚までというじゃないですか。とてもじゃないが使いものにならない。そもそも入力可能な範囲でさえもお上品なビジネス文書にしか対応していない。小説では使いものにならない。それでもうやる気をなくした。それでもMedibangが死なず装画だけでもましにできていたらここまで恥に感じることはなかったかもしれない。これはほんとうに悔しい。どうにかならなかったのか。中身はずっとよくなったのに装画だけは『Pの刺激』『KISSの法則』から明らかに退歩している。『逆さの月』だって小学生が描いた虫歯予防キャンペーンのポスターみたいな最悪の出来だけれども今回のよりはまだましだ。99円という価格は期間限定でしばらくしたら480円くらいに値上げするつもりだ。どうせだれも買わないのだからいくらにしようが変わりない。本来は客筋を改善するための広告戦略など考えていたのだが何もやる気がしなくなった。来年はもっとましな本をつくりたい。


(もり まさひこ、1975年6月18日 -)著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、藤井太洋氏、十市社氏らによる指導を受けた『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。最新作は『ぼっちの帝国』。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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