D.I.Y.出版日誌

連載第203回: 動画は燃えない

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2019.
07.19Fri

動画は燃えない

テロ事件を知るたびに胸が張り裂ける思いがするおれの父親も社会病質だったのでひとごとではないそんな思いは小説に書くべきことであって日記では時事ネタは扱わないことにしている⋯⋯のだが今回にかぎっては警告の必要を感じるので書き残しておくというのは KDP を利用してセルフパブリッシングをしている著者は少しでも人目についたらあるいはおれのようにまったくの無名人でもこのようなテロの被害に遭う可能性があるということだあの手の社会病質者は弱い者を標的にするだからただ授業を受けていたりバスを待っていたりする小学生やただ集まって絵を描いていたりする若者たちをあのような目に遭わせるそのメンタリティはたとえばネット右翼と呼ばれるひとたちに極めて類似していて今回の犯人がその多くを占めるとされる年齢層であったことやインターネットと親和性の高い文化に対して執着し逆恨みを抱いたことは必ずしも無関係ではないと思うセルフパブリッシングをしている著者は立場が弱くしかも往々にして出版のために詳細な個人情報を公に晒さざるを得ないそればかりかこちらに非のない逆恨みも買いやすいおまけにソーシャルメディアはそうした暴力と極めて親和性が高くユーザの多くは善意のつもりで二次加害に加担しがちだ今回の犯人はライトノベル作家を自称していて盗作されたとの妄想から事件を起こした疑いがあるとの話もある社会病質者の妄想を報じるのは暴力に加担し正当化することにつながるからやめていただきたい本来なら徹底的に人間性を無視してまったくの無として扱うべきなのだがしかしそのことは本稿とは無関係なので置いておくいいたいのはその妄想と実行力についてである事件には至らぬまでもというか至っていないことを祈るがそのような妄想にとらわれたアマチュア著者を実際にひとり知っているとある人気ドラマが自分の無名作品の盗用であると主張してウェブ上でいやがらせをくり返していたそのような妄想に対してはクーンツベストセラー小説の書き方にあるアイダホ州ポテトタウンの呪われた町を参照し作品の価値というものをよく考えていただきたいのだがそんなまともな理屈がその手の輩に通じるはずがない相手が人気ドラマの関係者であればテレビ局なり著名人としての立場なりが護ってくれるかもしれない無名人は絶対にだれからも護られない基本的には丸裸であるあべこべに被害者がインターネットの悪意によって攻撃されたりするそこそこファンのいる歌手だって警察は護ってくれずめった刺しにされていまだに後遺症に苦しんでいるし某コミュニティでよく知られた人気ブロガーはあっさり殺された人気ドラマに妄想を抱いたアマチュアがどうなったかは縁を切ったので知らないがまぁどこかで正気に返ってくれたのではないかと期待するそう願いたい一時の気の迷いだったんだろそうだよな今回の犯人みたいな悪人じゃなかったはずだでもおれ自身が標的にされた別の事例でははっきりいってどうだったのかわからないあまり詳細には書けないのだがかなり大昔そうほらおれは昭和の生まれだしさ昭和って戦争があったくらいの時代なんだぜあなたの知りようのないくらい本当に大昔あなたの知らない別の名前で大勢に協力してもらってとある試みをしたところ複数の人物から厭がらせを受けてそのうちひとりからは実際に身の危険を感じる脅迫を受けたおれはまぁしょうがないとしていやちっともしょうがなくないのだが刺されるのも焼かれるのもごめんだしさまぁ一億歩譲って構わないとして困ったのは協力してくれたひとたちである彼らに危害が及ぶのはどうしても避けたかったそのためすでに大勢を巻き込んで動きだしていたその試みを断念せざるを得なかったもちろんおれひとりの気まぐれなわがままでやめたことになった非難囂々だそれこそしょうがないあのまま続行していたらだれかが刺されたり突進してきた車に撥ね飛ばされたりガソリンを浴びせられ焼き殺されたりしていたかもしれないそういう行動力を持つひとびとがインターネットには実際にいて出版活動をすることはそいつらの目にとまりやすくなるということなのだそして無名であればあるほど無防備になり支離滅裂な妄想の標的にされかねないのもまたおれが身をもって証明した事実なのである殺されたくなければ出版をやめるかそいつらの目につかぬようより無名でありつづける努力をするしかない連載中のぼっちの帝国はいまのところ五人にしか読まれていないがそれくらいで調度いいのかもしれないその五人に悪意のストーカーが紛れていなければの話だけれどいっとくけど上に述べた事例は詳細を掘り下げようとするなよせっかく各方面に配慮してごまかしたんだからさそれにこの記事はどうか共有も拡散もしないでほしいいつも通り数人に読まれるだけにとどめてくれ加害者の目につけばなにをされるかわからない長い年月が経過してようやくほとぼりが冷めたんだよこのまま忘れ去られてほしい


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。

コメントは受け付けていません。