杜 昌彦

D.I.Y.出版日誌

連載第203回: 読み返さない

書いた人: 杜 昌彦, タグ:
2019.
07.10Wed

読み返さない

第三幕の第二章あたりに予定していた話をまちがえて先に書いてしまった今回は悪夢のフラッシュバックで間接的に描くに留めるはずだった全体像を最初に見せては構成のバランスが悪いまぁいい書いてしまったものは仕方ない今後のことは書きながら考えるどうせだれも読まないなんの意味もないものをなぜ書くのかという命題には一応の答えを得た病気だからだ書かないと負債のように感じる価値あるものが評価されないのはおかしいし是正されるべきだと三年前までは考えていたいまはそうは思わない店は売れるものを売りたいので客層に見合った商品を目につきやすい場所に陳列する当然だおれの書いたものはどの店にも合わない店にかぎらずどの出版社のどのレーベルにもどの雑誌にも合わないおれの書くものはおれだけのものだ似た傾向のものが世界にふたつとないたぶん潜在的な需要はあるおれはおれの書くようなものを切実に必要とするなければ生きていけない次元でおれは凡庸な人間だ異常か正常かでいえば異常だが特別か凡庸かでいえば歴然と凡庸だこれを読んでいるあなたより確実に凡庸だだってあなたにはあなたを愛するだれかがいるでしょうおれみたいなつまらぬ人間はどこにでもいるということはつまりおれが必要とするならほかにも必要とする人間はいるはずだしかしそうした需要になぜか供給はない市場が開拓されていない金にならぬとみなされているまぁ確かにだれからも愛されぬ凡庸な人間は金を持たない持たぬとはいえ全員が小銭を持ち寄ればそれなりの市場が形成されるはずだがだれもそんなことは考えないだれからも愛されるような健常者を相手にしたほうが手っ取り早く金になるからな凡庸なつまらぬ人間のためにはだれも商品を書かないし売らないだから自分でどうにかするしかない他人が書いてくれるのであればわざわざこんなしんどいことはやらないとはいえ書いたところでだれも読まぬし買わぬのでは書かなかったも同然だし出版しなかったも同然だ他人のやることはコントロールできないが自分はどうにかしなければならないアルファベット最初の文字からはじまる偉大なるモール様があのような客層あのような品揃えあのような陳列であるのはしょうがない関わらずに済むならそうするが出品することにはそれなりに利点があるので現状は利用する利用はするけれども主な活動の舞台とするつもりはないどう考えてもおれ向きではないあの店で売られている商品は文字情報を利用したコンテンツという以外におれとの共通点はないあの売場での文脈に基づいて判断されたらそりゃ貶められて当然だああいう本じゃないからだめだといわれたらそりゃそうでしょうねというしかない書いたものを売るためにおれがいまやらねばならないのは人格OverDrive を出版レーベルとしてにせよウェブサイトとしてにせよメディアに育てることだそれが実現してはじめて成果物としてのおれの本が機能するただこれはどう考えても実現しようがない実現するには金が必要だ三年前にはボランティアベースでやろうとして失敗したそのやり方は結局のところ善意に浅ましく期待することで成立する悪意に対して脆弱すぎたひとに働いてもらうにはそれなりの対価を支払わねばならぬ当然といえばあまりに当然だそしておれには金がない数ヶ月前にちょっと試してその実験はまぁまぁ成功したが金が続かなかった広告も試してこれも投じた額の少なさを考えればまぁまぁ成功しそうな気配が見えそうな気がしないでもなかったがやはり金が続かなかった健常者でなければ金でどうにかするしかないが健常者でないので金がない堂々巡りだまぁしょうがない世の中はそんなものだ金は払えないけどおれと一緒に何かおもしろいことがやりたいひとは問合せフォームから連絡くださいおもしろいことをやれるひとならねあるいは別におまえなんかと一緒にやりたかないけどおもしろいことやってるから見てくれよというんでもいい本当におもしろければ記事にするでも他人のやってることで心からおもしろいと思えたことってあんまりないんだよなあぁ健常者様がなんか世間に喜ばれるようなことやってらっしゃいますねとしか感じないいいねとか集めて共有拡散ブクマされちゃったりとかするんですねとそういうのではない景色が見たいそこだけにしかない光景を世の中棄てたものじゃないなと思いたいおれだけじゃなかったと感じたいとりあえずそういうのを求めるのなら 65年のボブ・ディランを聴いたり図書館の本を読んだりするほうが手っ取り早いような気もする不滅の作品には裏切られないなかったことには決してされない


(1975年6月18日 -)著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。最新作は『ぼっちの帝国』。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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