第三幕の第二章あたりに予定していた話をまちがえて先に書いてしまった。 今回は悪夢のフラッシュバックで間接的に描くに留めるはずだった。 全体像を最初に見せては構成のバランスが悪い。 まぁいい。 書いてしまったものは仕方ない。 今後のことは書きながら考える。 どうせだれも読まない。 なんの意味もないものをなぜ書くのか、 という命題には一応の答えを得た。 病気だからだ。 書かないと負債のように感じる。 価値あるものが評価されないのはおかしいし是正されるべきだと三年前までは考えていた。 いまはそうは思わない。 店は売れるものを売りたいので客層に見合った商品を目につきやすい場所に陳列する。 当然だ。 おれの書いたものはどの店にも合わない。 店にかぎらずどの出版社のどのレーベルにもどの雑誌にも合わない。 おれの書くものはおれだけのものだ。 似た傾向のものが世界にふたつとない。 たぶん潜在的な需要はある。 おれはおれの書くようなものを切実に必要とする。 なければ生きていけない次元で。 おれは凡庸な人間だ。 異常か正常かでいえば異常だが、 特別か凡庸かでいえば歴然と凡庸だ。 これを読んでいるあなたより確実に凡庸だ、 だってあなたにはあなたを愛するだれかがいるでしょう。 おれみたいなつまらぬ人間はどこにでもいる。 ということはつまり、 おれが必要とするならほかにも必要とする人間はいるはずだ。 しかしそうした需要になぜか供給はない。 市場が開拓されていない。 金にならぬとみなされている。 まぁ確かにだれからも愛されぬ凡庸な人間は金を持たない。 持たぬとはいえ全員が小銭を持ち寄ればそれなりの市場が形成されるはずだがだれもそんなことは考えない。 だれからも愛されるような健常者を相手にしたほうが手っ取り早く金になるからな。 凡庸なつまらぬ人間のためにはだれも商品を書かないし売らない。 だから自分でどうにかするしかない。 他人が書いてくれるのであればわざわざこんなしんどいことはやらない。 とはいえ書いたところでだれも読まぬし買わぬのでは書かなかったも同然だし出版しなかったも同然だ。 他人のやることはコントロールできないが自分はどうにかしなければならない。 アルファベット最初の文字からはじまる偉大なるモール様があのような客層、 あのような品揃え、 あのような陳列であるのはしょうがない。 関わらずに済むならそうするが出品することにはそれなりに利点があるので現状は利用する。 利用はするけれども主な活動の舞台とするつもりはない。 どう考えてもおれ向きではない。 あの店で売られている商品は文字情報を利用したコンテンツという以外におれとの共通点はない。 あの売場での文脈に基づいて判断されたらそりゃ貶められて当然だ。 ああいう本じゃないからだめだといわれたらそりゃそうでしょうねというしかない。 書いたものを売るためにおれがいまやらねばならないのは人格 OverDrive を出版レーベルとしてにせよウェブサイトとしてにせよメディアに育てることだ。 それが実現してはじめて成果物としてのおれの本が機能する。 ただこれはどう考えても実現しようがない。 実現するには金が必要だ。 三年前にはボランティアベースでやろうとして失敗した。 そのやり方は結局のところ善意に浅ましく期待することで成立する。 悪意に対して脆弱すぎた。 ひとに働いてもらうにはそれなりの対価を支払わねばならぬ。 当然といえばあまりに当然だ。 そしておれには金がない。 数ヶ月前にちょっと試して、 その実験はまぁまぁ成功したが金が続かなかった。 広告も試して、 これも投じた額の少なさを考えればまぁまぁ成功しそうな気配が見えそうな気がしないでもなかったがやはり金が続かなかった。 健常者でなければ金でどうにかするしかないが健常者でないので金がない。 堂々巡りだ。 まぁしょうがない。 世の中はそんなものだ。 金は払えないけどおれと一緒に何かおもしろいことがやりたいひとは問合せフォームから連絡ください。 おもしろいことをやれるひとならね。 あるいは別におまえなんかと一緒にやりたかないけどおもしろいことやってるから見てくれよというんでもいい。 本当におもしろければ記事にする。 でも他人のやってることで心からおもしろいと思えたことってあんまりないんだよな。 あぁ健常者様がなんか世間に喜ばれるようなことやってらっしゃいますねとしか感じない。 いいねとか集めて共有拡散ブクマされちゃったりとかするんですねと。 そういうのではない景色が見たい。 そこだけにしかない光景を。 世の中棄てたものじゃないなと思いたい。 おれだけじゃなかったと感じたい。 とりあえずそういうのを求めるのなら 65 年のボブ・ディランを聴いたり図書館の本を読んだりするほうが手っ取り早いような気もする。 不滅の作品には裏切られない。 なかったことには決してされない。
2019.
07.10Wed
(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
『D.I.Y.出版日誌』の次にはこれを読め!