D.I.Y.出版日誌

連載第199回: 本はネットの換金装置か

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2019.
06.16Sun

本はネットの換金装置か

はてなや YouTube といったソーシャルメディアで多くの支持者を獲得したアカウントが Kindle で出版して成功する事例は多いKindle での商品化に至る前にクラウドファンディングを挟んでより大きな効果を引き出す事例もあるソーシャルなイベントはあらかじめ支持されたものを支持することを主張することで社会的な位置づけを高めるために利用される)。 支持基盤はウェブ上にあるとはかぎらない実社会で人脈が広かったり市民団体で活動していたりする場合もある同人活動でもとから人気がある場合もあるいずれにせよそれらはソーシャルに最適化された能力が出版における成功の秘訣であることを示しているKDP が評価経済における換金装置として機能することは 2014 年にすでに述べたKindle Unlimited 以降はストアに最適化された感性さえあれば支持基盤をあらかじめ有しているか否かは必ずしも問われなくなったストアそのものがソーシャルな支持基盤として機能しうるからであるソーシャルに最適化されたこの層は差別的な人権侵害コンテンツともまた親和性が高いそうした商品は金になるので売りたいが暴力を肯定し助長するストアと見なされるのは不利益だなので当初は看過しある程度利益を得てからコンテンツやアカウントを削除するそうすればインターネットの特性によって稼ぎたいだけ稼いだ上に公衆道徳を尊ぶストアとしての体裁も世に訴えることができるところがそのようなコンテンツで大きな利益を得た著者は本来得るはずのなかった利益をそのようなストアの特性のおかげで得ていながら横暴だと騒ぐ前年の収益によって決定した税金が払えなくなるからであるいやならよそで売ればいいのだが彼らにはそれができない暴力を効率よく金に換えるストアの特性があって初めてそれらの利益が得られたからだストアは売りたい商品を売りたいように売る権利がある売りたくない商品を売る義務はない彼らはソーシャルなインターネットに親和性が高い商品を売りたいそうでない商品つまりソーシャルに背を向け個を向いた商品は売りたくない売りたい商品を売れるように陳列し売りたくない商品はなるべく客の目につかぬようにする人権を冒涜するコンテンツは売りたいから一度は目につくように陳列するが充分に収益を確保したら批難される前に撤去する道徳性をアピールできて二度美味しい金がほしければそうした性質を踏まえてストアの感性にみずからを最適化すべきだしかし必ずしもすべての出版がそのようである必要はないだれも読まないものを書く理由は負債のように感じるからだ解消したところで収入にはならぬが放置すれば気詰まりだただそれだけのために書いているKindle 版を読んでやってもいいといわれたので 17 日から五日間悪魔とドライヴを無料にすることにした設定が間に合わず 99 円の黒い渦が購入されたあんな恥ずかしい失敗作をストアに出したままにすべきではなかった。 『ぼっちの帝国は折り返し地点を過ぎた現時点で原稿用紙 350 枚強文庫本で 250 頁といったところだ予定ではあと 300 枚九月中に書き上げるのを目標としている当初は六月中に仕上げて今年の後半は中年探偵と女装男子の BL アクションGONZOに着手する予定だった年に二冊は出せるようにならなければあまりにも遅筆過ぎるたった 650 枚に七八ヶ月もかかるようではいけない負債ではなく悦びが得られるものであったなら状況は違っていたろう求められるままに年に三冊は出していたかもしれないAmazonGoogleFacebook とさまざまな媒体で広告を試した世代や性別ごとの傾向の違いは明確にあるその違いはおれの本がこれまでもこれからも決して読まれない事実をそれぞれ違った理由から説明するものでしかないしかしまぁつまるところインターネットとはそのようなものなのだ


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。