D.I.Y.出版日誌

連載第197回: 出版生活

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2019.
06.04Tue

出版生活

昨夜カセットテープの DIY 文化のような手軽さで出版できないものかと書いたがよく考えたらそれが POD だった買うところまでの利便性まで考えると現状はアルファベット最初の文字からはじまる偉大なるモール様でペイパーバックを刷るのがもっとも適している個人の嗜好を淘汰しストアの都合を押しつけてくるので性にあわず注文した商品が届かないことも多いので消費者としては可能なかぎり別のストアを使いたいところだが便利なのは事実だ人格 OverDrive が何をやりたいかといえば結局のところぼっちの帝国を書き上げてまともな本として刊行したいそれだけだ他人に読まれようとは考えなくなったあれだけのものが読まれないのはずいぶんと勿体ない話だと思うけれど世間がそうしたいのなら仕方ないしとやかく口出しするようなことではない日本人はいまやインターネットで貶め合う楽しみを手に入れたそれ以外の何ものも必要とされないそういう世界とは関わりになりたくないいいと思った本をつくるだけだ他人と較べてどうとか他人にどう思われるかとかそういったことは人格 OverDrive には関係がない世間の基準で優劣を競うのが正義であってそれ以外は淘汰されるというのであれば淘汰も結構インターネットの売場で淘汰されたところで人格 OverDrive がやりたいことをやったという事実は消せないそのことを自分以外のだれも知らなくとも構わない出版はいずれそのような個人的な行為へと収斂していく社会的な営利事業としての出版は安易な貶め合いの道具として消費されることに特化されるそれはそれで構わない関わりのないところで勝手にやってほしい視界に入れたくない本文のほうは秋のうちに書き上げるつもりで遅くとも年内には間に合うはずだ内容は問題ないいいものが書けているのは自分でわかっているわからない他人は愚かだくらいに思っているし自分さえ愉しめればいいどうせ他人はだれも読まないのだから自力で好きなように出版しているから他人におもねる必要もない極小出版のいいところだ校正校閲は外注に出すことを決めているそこにもっとも金を投じる予定で二番目は広告費だ課題は装幀だ文字の配置はかなり上達してきたように感じるが装画がどうにもならない子供向けイラスト偏重の近年の出版傾向は好まない一説によればアジカンのジャケットで知られた画家のイラストでライトミステリが売れてからの傾向だというその前からライトノベルで育った大人がその延長上で読む傾向はあったしそこには大概アニメ風のイラストがあしらわれていたそういうのは好みではないイラストであっても海外文学の装画をよく手がけているタダジュンさんの作品は好きだあんな雰囲気がいいなと思うがぼっちの帝国に似合うかはわからないしそもそも調達できない子供向けイラストでも小学校の図画コンクールでもない装幀にしたいどうしたものかこれまでもこれからもだれにも愛されない出版は自力で満たされねばならないそしてそれは必ずしも悪いことではない


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。

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