妄想中年日記

連載第198回: 出版の技法

杜 昌彦書いた人: 杜 昌彦, タグ:
2019.
06.02Sun

出版の技法

PODのやりかたを詳細に教えてくれといわれたので書く。人格OverDriveではその話題はずいぶん前に終わりました。自分で調べてください。以上。あなたの出版はあなたにしか見つけられない。他人に教わるものではない。だれにも教えられない。人格OverDriveの出版について質問されたのであれば話せることは多少あったかもしれない。他人がどうすべきかなんて尋ねられても知らんがな、としかいいようがない。こういう質問がくるということはアマチュアのあいだでPODが流行っているのだろう。CreateSpaceが米KDPに吸収されてから日本では業者向けのAmazonPODを庶民のみなさんに特別に使わせてあげますよ、というきわめて不自由かつ上から目線のぼったくりサービスしか使えなくなった。BookBabyのような海外のサービスとは残念ながら水準がまるで違う。日本のユーザは舐められている。選択肢がないのでその業者を使うしかなかったが、素人のゴミが増えるようならもう見限るべき時期かもしれない。もとよりストアは読書家に最適化されてはいない、その逆だ。インターネットのサービスとはそういうものだ。低次元の貶め合いでいかに得点を稼ぐかのゲームだ。現実の社会がそういうものであるからそれはしょうがない。読書はそういう世界からの逃避であってほしい。もちろんおれの読書がそうあってほしいだけで他人に強制するものではない。世間の健常者たちは馴れ合ったり貶め合ったりするために読書するのだろう。それはそれで構わない。だれだって好きなように生きる権利がある。願わくばおれの権利を奪わないでほしい。AmazonPODは偉大なる天下の大モール様で扱ってくださるというありがたきお慈悲を別にすればたいした利点はない。他人に説明しやすいし自分でも買いやすいというだけの話だ。JANコードすら記載できない(CreateSpaceではむりやり記載できた、やる価値がないのですぐにやめたけれど)。Amazonで売ることを考えなければ製本直送がよさそうに思えるが試していない。いっそ在庫と心中する覚悟で千部くらい印刷屋に頼んで刷ってしまうのも手だと考えている、と書いてから気づいたがそんな大金は持ち合わせていない。もっと簡単にいかないものですかねぇ。Martin NewellやR. Stevie Moore、Daniel Johnstonといった音楽家が自宅でカセットテープをコピーして(Daniel Johnstonはダビングという方法を知らず受注のたびにいちいち吹き込んだそうだが)雑誌の文通欄みたいなところで通信販売していたように、自宅で印刷して製本してウェブサイトで通販するようなわけにはいかないものか。そのための簡単な製本キットが売られていたらいますぐにでもそうする。どのみち人格OverDriveの本はインターネット向きではない。他人を貶めて得点を稼ぐのに使えるような安易なコンテンツではない。そのためモールに出してもそこでの文脈で好意的に評価されることはあり得ない。毀損されるだけだ。客層が違いすぎる、というか人格OverDriveにとっては悪すぎる。一般にモールには集客力があり独自ショップにはないことになっているし、実際そうなのだけれど客層が違いすぎればその差にたいした意味はない。むしろ無駄金をじゃぶじゃぶ投じて独自ショップを宣伝したほうが多少の部数は捌けるし多少はましな文脈で読まれる。いずれにせよ人格OverDriveは最終的に出版社の機能を目指していて、次は校正・校閲にちゃんと金を投じることを考えている。装幀もそろそろ考えはじめたい。外注はできればしたいが頼みたい他人はいない。『逆さの月』は自力でやって失敗した。小学校の虫歯予防図画コンクールのようになった。おかげで売れ行きは散々だった。次はもっとましな絵を描きたいしそのための努力をしたい。


(もり まさひこ、1975年6月18日 -)著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、藤井太洋氏、十市社氏らによる指導を受けた『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。最新作は『ぼっちの帝国』。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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