D.I.Y.出版日誌

連載第192回: ようやく四分の一

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2019.
04.16Tue

ようやく四分の一

ぼっちの帝国を第 14 章まで書いたここまでが第一幕で起承転結の起に相当する第二幕は盛り上がる前半と堕ちていく後半で 14 章ずつ全部で 28 章解決部の第三幕が残りの 14 章全部で 56 章400 字詰原稿用紙換算で 630 枚を予定している当初は六月中には書き上げるつもりだった技術的には可能なのだがメンタルの都合で思ったように進まないメンタルの都合というのは要するにおれはだれも悪人がいない世界の窯猫なのだ賢治が書いた事務所と違って窯猫だけが悪いどうせ悪なら平然とふるまえる自己愛があればよいのだが生憎そういう種類の異常者ではない無能の自覚があるので健全なモチベーションが保てない他人に愛されていれば調子よく書けるのはわかっているそんな経験は生涯にいまだかつて一度としてないがどうせだれも読まないのだから遅れても構わない遅筆はともかくとして内容的にはひさびさに本来の書き方を取り戻している。 『Pの刺激KISS の法則も本来は七百枚ほどだった書きなおすうちにあの短さになった。 『ぼっちの帝国には手応えを感じているプロの作家でないことが残念だこれだけのものを書いていながらその存在を自分しか知らないかといってこの歳でいまさら新人賞に応募しようとは思わない受け入れてくれる賞がない長さの面でもそうだが内容が何かしら既存の作品に似ていなければ編集者の求める原稿にはならない色が合わないとして撥ねられる世渡りに適性がなければモールでもソーシャルメディアでもだれにも受け入れられないましてや投稿サイトなど膚に合おうはずがないソーシャルな能力のなさで他人と較べられて惨めな思いをしたくないtwitter を数年ぶりに再開すべきかずっと悩んでいたどうシュミレーションしても能力のなさゆえにつらい思いをする予測しかできない交流の能力がない以上そこからの流入は期待できないし逆にミスマッチな客層に触れて貶められるだけだソーシャル全盛の世間にはどうがんばっても馴染めないしかし自分の感性がそれほど世間からずれているとも思わない話題になった翻訳文学と読書傾向がかなり重なっている適切な客層と出逢えればそれだけで状況は変わるのではないかという気がしてならないこれまでに試した集客でもっともましに思えたのは Facebook 広告だったおそらく成果はないだろうがいずれぼっちの帝国の広告も試すつもりだ本の網には毎日数件の検索流入があるたくさん読んで質の高い感想を量産すればコンテンツの蓄積によって流入は増えそうな気がするしかしそこから自著へ誘導できない関連書籍の表示やバナー設置など工夫はしているのだが導線になり得ていない結局のところ第三者に言及されなければだめのようだ何事もソーシャルな能力がなければどうにもならない適切に評価されないことについてはもう諦めた世の中はそういうものだ評価されるのはソーシャルな立ちまわりの能力すなわちゲーム的な感性のみだ小説の価値とは関係がない世渡りに生まれつき欠陥があるのだからこれはどうにもならないそれよりも十年以上書けないことで苦しんできたのがようやく解消されつつあるのを喜びたい麻痺していた足でまた立って歩けるようになったのだ走れる日は遠いがそれでも以前よりずっといい書き上がれば LeME で epub にするPages は期待はずれだったmobi に変換するとなぜか横書きになるKDP に上げても同じだLeME は一年ほど前にインストールしていたがなぜか一度も試していなかったさっき試したらこれまで使ってきたどのアプリケーションよりも優れていた表紙作成に用いるフォントにも数年前までひどく苦労させられたものだが最近は MediBangPaintPro で素晴らしい商用フォントが自由に使えるAdobe で使えるフォントと組み合わせれば足りないものはないくらいだやれることやりたいことは山ほどあるソーシャルな能力に欠陥があるので他人のように世間から評価される仕事はできないしかし自分さえ満足できればよいのであれば世間から目を背けつづけていいものをつくれる時代ではあるような気がする


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。