妄想中年日記

連載第194回: ようやく四分の一

杜 昌彦書いた人: 杜 昌彦, タグ:
2019.
04.16Tue

ようやく四分の一

『ぼっちの帝国』を第14章まで書いた。ここまでが第一幕で起承転結の起に相当する。第二幕は盛り上がる前半と堕ちていく後半で14章ずつ、全部で28章。解決部の第三幕が残りの14章。全部で56章、400字詰原稿用紙換算で630枚を予定している。当初は六月中には書き上げるつもりだった。技術的には可能なのだがメンタルの都合で思ったように進まない。メンタルの都合というのは要するにおれはだれも悪人がいない世界の窯猫なのだ。賢治が書いた事務所と違って窯猫だけが悪い。どうせ悪なら平然とふるまえる自己愛があればよいのだが生憎そういう種類の異常者ではない。無能の自覚があるので健全なモチベーションが保てない。他人に愛されていれば調子よく書けるのはわかっている、そんな経験は生涯にいまだかつて一度としてないが。どうせだれも読まないのだから遅れても構わない。遅筆はともかくとして内容的にはひさびさに本来の書き方を取り戻している。『Pの刺激』も『KISSの法則』も本来は七百枚ほどだった。書きなおすうちにあの短さになった。『ぼっちの帝国』には手応えを感じている。プロの作家でないことが残念だ。これだけのものを書いていながらその存在を自分しか知らない。かといってこの歳でいまさら新人賞に応募しようとは思わない。受け入れてくれる賞がない。長さの面でもそうだが内容が何かしら既存の作品に似ていなければ編集者の求める原稿にはならない。色が合わないとして撥ねられる。世渡りに適性がなければモールでもソーシャルメディアでもだれにも受け入れられない。ましてや投稿サイトなど膚に合おうはずがない。ソーシャルな能力のなさで他人と較べられて惨めな思いをしたくない。twitterを数年ぶりに再開すべきかずっと悩んでいた。どうシュミレーションしても能力のなさゆえにつらい思いをする予測しかできない。交流の能力がない以上そこからの流入は期待できないし逆にミスマッチな客層に触れて貶められるだけだ。ソーシャル全盛の世間にはどうがんばっても馴染めない。しかし自分の感性がそれほど世間からずれているとも思わない。話題になった翻訳文学と読書傾向がかなり重なっている。適切な客層と出逢えればそれだけで状況は変わるのではないかという気がしてならない。これまでに試した集客でもっともましに思えたのはFacebook広告だった。おそらく成果はないだろうがいずれ『ぼっちの帝国』の広告も試すつもりだ。『本の網』には毎日数件の検索流入がある。たくさん読んで質の高い感想を量産すればコンテンツの蓄積によって流入は増えそうな気がする。しかしそこから自著へ誘導できない。関連書籍の表示やバナー設置など工夫はしているのだが導線になり得ていない。結局のところ第三者に言及されなければだめのようだ。何事もソーシャルな能力がなければどうにもならない。適切に評価されないことについてはもう諦めた。世の中はそういうものだ。評価されるのはソーシャルな立ちまわりの能力すなわちゲーム的な感性のみだ。小説の価値とは関係がない。世渡りに生まれつき欠陥があるのだからこれはどうにもならない。それよりも十年以上、書けないことで苦しんできたのがようやく解消されつつあるのを喜びたい。麻痺していた足でまた立って歩けるようになったのだ。走れる日は遠いがそれでも以前よりずっといい。書き上がればLeMEでepubにする。Pagesは期待はずれだった。mobiに変換するとなぜか横書きになる。KDPに上げても同じだ。LeMEは一年ほど前にインストールしていたがなぜか一度も試していなかった。さっき試したらこれまで使ってきたどのアプリケーションよりも優れていた。表紙作成に用いるフォントにも数年前までひどく苦労させられたものだが最近はMediBangPaintProで素晴らしい商用フォントが自由に使える。Adobeで使えるフォントと組み合わせれば足りないものはないくらいだ。やれること、やりたいことは山ほどある。ソーシャルな能力に欠陥があるので他人のように世間から評価される仕事はできない。しかし自分さえ満足できればよいのであれば世間から目を背けつづけていいものをつくれる時代ではあるような気がする。


(もり まさひこ、1975年6月18日 -)著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、藤井太洋氏、十市社氏らによる指導を受けた『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。最新作は『逆さの月』。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。最新恋愛小説『ぼっちの帝国』連載中。
ぼっちの帝国