D.I.Y.出版日誌

連載第186回: 動けばいい

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2019.
03.22Fri

動けばいい

ぼっちの帝国はプロとしてやっていけるだけの能力が実際にあるのかどうかをはかる試みでもある仕事として報酬がもらえるのであればやれるという実感を得ているただし現実には職業として書くのであれば報酬をあてにして何ヶ月も執筆に費やした結果その企画は流れたからのひと言で済まされることも珍しくないだろうし向こうの都合でふりまわされた挙げ句一銭ももらえないということもまた日常茶飯事だろうそういう社会でうまくやっていけるだけの才覚があるかといえばそれはまた別の話だ単純に書く能力だけをはかろうとしているしかし日記が何も考えずに手癖だけでいくらでも書けるのに対して小説は書きやすい場面でさえも日に十数枚が限度だそれも書くだけに時間を使える日にかぎっての話でそうでない日はまったく進まないし書きにくい場面などは三日間もうんうん唸るはめになるそれでも最終的には書けるのだからまったくの無能ともいえまいCotEditor というエディタで書いているhtml も css も php もそれで書いているシンプルで使い勝手のいい道具だ一回分が十枚書けたら WordPress の投稿画面に貼りつけて公開ボタンを押すそれだけで縦書きの連載ができる理想的には WordPress の管理画面から epub 化もできればいいのだがさまざまなプラグインを試した末に断念した自力でどうにかする技術も才覚もないPages が縦書きに対応するそうだが epub 出力も縦書きでやれるのであれば今後はそれを使おうと思うこのウェブサイトに使われているのはもとはシンプルな既存テーマだったが三年ほど魔改造を重ねるうちにいまのようになった何の知識もなく仕組みがまったくわからないままコピペのトライアンドエラーと動けばいい精神でここまで来た実のところ自分のサイトがどうして動いているのか理解していない一部の環境では共有ボタンのソーシャルアイコンが表示されないらしい寄稿してくれている作家の機会損失につながりかねないので早急に対処する必要がある調べたが対処法はわからなかったそもそも web アイコンがどうして表示できているのかすらわからない九十年代の子供向け猟奇ドラマに首なしライダーというのがあって頭部を切断されて死んだはずの少年が夜な夜なバイクで走り出すそのトリックとは我が子の死を受け入れられない父親が執念で息子の首を縫い合わせたのであったというのだがいわばこのサイトもそのような仕掛けで機能している医学も何も知らないごく平凡なとっつぁんが執念で死人を生き返らすマッドサイエンティストとなるがごとくに脳に障害があって何ひとつ満足にやれない無能が一切なんの知識も持たぬにもかかわらずただひたすら執念のみでウェブサイトを構築して小説を連載している自分で読み返すかぎりにおいてはなかなか愉快な小説に思えるのだが読んでくれるのはたったふたりだけだ客層が異なるのでオードトワレがどれだけ読まれてもついでにぼっちの帝国が読まれることはない。 「こちらもどうぞ的な表示をするべきかとも思うが読者の立場で考えれば余計なものは見たくない戸田さんの読者まで喪いかねないしそもそもそんなことを期待して原稿を頼んだわけでもない。 『オードトワレの読者を別にしても閲覧者は微増している読まれるのはぼっちの帝国ではなくなぜかこの日記だほぼ毎日書くようにしたらそうなったもちろん読まれるというほど読まれてはいない多い日でせいぜい七人だが一日に最大七人もがこんな無能の繰り言を見に訪れるのだからむしろ多いといえるのではないかあなたのことですよいったい何が目的なのか悪意で訪れる客はすでに追い払った動機がわかったところで期待には添えないから書くことは変わらない。 『ぼっちの帝国の次章は三日間うんうん唸らねば書けない場面なので公開はかなり先になりそうだプロットを書いた自分の無茶ぶりが恨めしいあんな数行の雑な指定でどうやって十枚も書けというのかどれだけ苦労してどれだけいいものを書いたところで読まれないのはわかっている読まれるために書くのではないまだやれるということを自分に証明したいそれにしてもこの調子ではいつになれば書き上がるやら


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。