杜 昌彦

D.I.Y.出版日誌

連載第188回: 動けばいい

杜 昌彦書いた人: 杜 昌彦, タグ:
2019.
03.22Fri

動けばいい

『ぼっちの帝国』はプロとしてやっていけるだけの能力が実際にあるのかどうかをはかる試みでもある。仕事として報酬がもらえるのであればやれるという実感を得ている。ただし現実には職業として書くのであれば報酬をあてにして何ヶ月も執筆に費やした結果その企画は流れたからのひと言で済まされることも珍しくないだろうし、向こうの都合でふりまわされた挙げ句一銭ももらえない、ということもまた日常茶飯事だろう。そういう社会でうまくやっていけるだけの才覚があるかといえばそれはまた別の話だ。単純に書く能力だけをはかろうとしている。しかし日記が何も考えずに手癖だけでいくらでも書けるのに対して小説は書きやすい場面でさえも日に十数枚が限度だ。それも書くだけに時間を使える日にかぎっての話で、そうでない日はまったく進まないし、書きにくい場面などは三日間もうんうん唸るはめになる。それでも最終的には書けるのだからまったくの無能ともいえまい。CotEditorというエディタで書いている。htmlもcssもphpもそれで書いている。シンプルで使い勝手のいい道具だ。一回分が十枚。書けたらWordPressの投稿画面に貼りつけて公開ボタンを押す。それだけで縦書きの連載ができる。理想的にはWordPressの管理画面からepub化もできればいいのだがさまざまなプラグインを試した末に断念した。自力でどうにかする技術も才覚もない。Pagesが縦書きに対応するそうだがepub出力も縦書きでやれるのであれば今後はそれを使おうと思う。このウェブサイトに使われているのはもとはシンプルな既存テーマだったが三年ほど魔改造を重ねるうちにいまのようになった。何の知識もなく仕組みがまったくわからないままコピペのトライアンドエラーと「動けばいい」精神でここまで来た。実のところ自分のサイトがどうして動いているのか理解していない。一部の環境では共有ボタンのソーシャルアイコンが表示されないらしい。寄稿してくれている作家の機会損失につながりかねないので早急に対処する必要がある。調べたが対処法はわからなかった。そもそもwebアイコンがどうして表示できているのかすらわからない。九十年代の子供向け猟奇ドラマに首なしライダーというのがあって、頭部を切断されて死んだはずの少年が夜な夜なバイクで走り出す、そのトリックとは、我が子の死を受け入れられない父親が執念で息子の首を縫い合わせたのであった、というのだが、いわばこのサイトもそのような仕掛けで機能している。医学も何も知らないごく平凡なとっつぁんが、執念で死人を生き返らすマッドサイエンティストとなるがごとくに、脳に障害があって何ひとつ満足にやれない無能が、一切なんの知識も持たぬにもかかわらず、ただひたすら執念のみでウェブサイトを構築して小説を連載している。自分で読み返すかぎりにおいてはなかなか愉快な小説に思えるのだが、読んでくれるのはたったふたりだけだ。客層が異なるので『オードトワレ』がどれだけ読まれてもついでに『ぼっちの帝国』が読まれることはない。「こちらもどうぞ」的な表示をするべきかとも思うが読者の立場で考えれば余計なものは見たくない。戸田さんの読者まで喪いかねないしそもそもそんなことを期待して原稿を頼んだわけでもない。『オードトワレ』の読者を別にしても閲覧者は微増している。読まれるのは『ぼっちの帝国』ではなくなぜかこの日記だ。ほぼ毎日書くようにしたらそうなった。もちろん読まれるというほど読まれてはいない、多い日でせいぜい七人だが、一日に最大七人もがこんな無能の繰り言を見に訪れるのだから、むしろ多いといえるのではないか。あなたのことですよ。いったい何が目的なのか。悪意で訪れる客はすでに追い払った。動機がわかったところで期待には添えないから書くことは変わらない。『ぼっちの帝国』の次章は三日間うんうん唸らねば書けない場面なので公開はかなり先になりそうだ。プロットを書いた自分の無茶ぶりが恨めしい。あんな数行の雑な指定でどうやって十枚も書けというのか。どれだけ苦労してどれだけいいものを書いたところで読まれないのはわかっている。読まれるために書くのではない。まだやれるということを自分に証明したい。それにしてもこの調子ではいつになれば書き上がるやら。


(もり まさひこ、1975年6月18日 -)著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、藤井太洋氏、十市社氏らによる指導を受けた『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。最新作は『ぼっちの帝国』。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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