D.I.Y.出版日誌

連載第184回: 戻る

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2019.
03.18Mon

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体調が戻らないというより体力が戻らない喉からの風邪はだいぶよくなったいまは胃腸がおかしいがそれよりも疲れが抜けない頭が働かないし筋肉痛もあるジムにはしばらく行っていない休日なのにジムどころではなかったアパートの外観を説明する原稿用紙一枚弱の文章に一日かけた休日でさえ書けなければ平日に進むわけがない休日に十枚平日に三枚の予定で六月中に書き上げるつもりだった二月のペースでは可能なはずだった今月に入ってから何が変わったかといえば単純に本業が厳しくなった病的な無能である事実はだれも幸せにしない結果として目をそらしていられる時期には人並みに書けるが現実を見ろと迫られる時期には何もできなくなる当然ながら人生の大半は現実を見なければならない健常者の人生がどのようであるかは想像のしようもないがまぁとにかくおれとあなたの人生は異なるということだこういう時期には書くのはもちろん読むのもできないそれならそれでいいだれが気にするどうせどれだけいいものを書いてもだれも読まない何を読んだところで糞の役にも立たないコンスタントにやれているのは音楽を聴くことだけだなのでここから先は音楽の話を書く現存するバンドでもっとも大好きな The Brian Jonestown Massacre が最高傑作を出したデモ版からずいぶん待たされたほんとうは半年前に出ているはずだったなぜ遅れたのかはよくわからないあまりに待たされるうちに飽きてしまってまだ数回しか聴いていないリリースされたら人生には坂が三度ありますという書き出しで記事にしようとまで考えていたのにそれより The Rolling Stones ばかり聴いている人間ならだれしも一年に一度は Stones ばかり聴きたくなる時期があるはずだこの普遍的事実には健常者のみなさんも深く肯いていただけることと思うしかし今度の波はでかすぎたそういえばあまりに当然のように感じていたので書き忘れたがおれが Beatles の話をするときは Mono 盤についていっているのですよしたがってアビーロードもレットイットビーも知らんGlyn Johns のGet Backだけはわりと好きで年に何度か聴き返すそれで最初は Mono 盤からはじまって Bob Ludwig なるマスタリング技師の音が気に入って 94 年に Virgin Records から出た 70 年代の Stones を買い集め可逆圧縮でエンコードして聴くようになったどちらかといえば 60 年代の彼らのほうが好みだが 70 年代も悪くないこれまでは 92 年の廉価版を非可逆圧縮で聴いていたなんだかとても贅沢をしている気分になったついでに Beatles の Mono もこの機会に可逆圧縮でエンコードし直したBeatle で好きなのはRubber SoulRevolver』、 この二枚は何度聴いても飽きない年に一度の波が来るとその前の数枚も聴き返すStones でもっとも好きなのはBeggar’s Banquet』 『Let it Bleedあたりかもしれない。 『Out of Our Headsあたりから好みの感じになりはじめBeatles ならA Hard Day’s Nightがそれに相当する) 『Aftermathからここから違うなと明確に区別できてBeatles だとHelp!』)、 それ以降がどんどん好きな感じになるここから 70 年代末のSome Girlsまではこれまでの人生で何度聴き返したかわからない彼らの音楽さえあればもう何もいらない新しい音楽なんて一切出てこなくても構わないとさえ思える年に一度は必ずそう感じるということだ奇妙なことに 80 年代の彼らにはまったく興味がないSonny Rollins が客演しているから刺青の男をちょっと聴くくらいだほんとうに 80 年代の十年間だけすっぽり抜け落ちているStone にかぎらず大嫌いな時代だ90 年代以降は別に関心はないけれどもリアルタイムで流れていたからなんとなく知ってはいる三年前の最新作はちゃんと聴いたあれはすごくよかった列挙していて気づいたのだが 60 年代の音楽を聴いていたときはまだ書くほうも調子がよかった70 年代に移ってからどうもよくないまた 60 年代に戻るかたぶんおれの脳は現代についていけていないのだと思う小説もたぶん古めかしいのだBeatles と Stones の違いとか初期の彼らが履いていた靴とかについて書きたかったが長くなったのでやめにする日記なら短時間でいくらでも書けるんだけどなぁ。 『ぼっちの帝国のつづきが読みたければ友だちに薦めるなりウェブで共有なりしてください読まれたらたぶん書く読まれなくても書くけれど


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。

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