杜 昌彦

D.I.Y.出版日誌

連載第186回: 戻る

杜 昌彦書いた人: 杜 昌彦, タグ: ,
2019.
03.18Mon

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体調が戻らない。というより体力が戻らない。喉からの風邪はだいぶよくなった。いまは胃腸がおかしいがそれよりも疲れが抜けない。頭が働かないし筋肉痛もある。ジムにはしばらく行っていない。休日なのにジムどころではなかった。アパートの外観を説明する原稿用紙一枚弱の文章に一日かけた。休日でさえ書けなければ平日に進むわけがない。休日に十枚、平日に三枚の予定で六月中に書き上げるつもりだった。二月のペースでは可能なはずだった。今月に入ってから何が変わったかといえば単純に本業が厳しくなった。病的な無能である事実はだれも幸せにしない。結果として目をそらしていられる時期には人並みに書けるが、現実を見ろと迫られる時期には何もできなくなる。当然ながら人生の大半は現実を見なければならない。健常者の人生がどのようであるかは想像のしようもないが、まぁとにかく、おれとあなたの人生は異なるということだ。こういう時期には書くのはもちろん読むのもできない。それならそれでいい。だれが気にする。どうせどれだけいいものを書いてもだれも読まない。何を読んだところで糞の役にも立たない。コンスタントにやれているのは音楽を聴くことだけだ。なのでここから先は音楽の話を書く。現存するバンドでもっとも大好きなThe Brian Jonestown Massacreが最高傑作を出した。デモ版からずいぶん待たされた。ほんとうは半年前に出ているはずだった。なぜ遅れたのかはよくわからない。あまりに待たされるうちに飽きてしまってまだ数回しか聴いていない。リリースされたら人生には坂が三度あります、という書き出しで記事にしようとまで考えていたのに。それよりThe Rolling Stonesばかり聴いている。人間ならだれしも一年に一度はStonesばかり聴きたくなる時期があるはずだ。この普遍的事実には健常者のみなさんも深く肯いていただけることと思う。しかし今度の波はでかすぎた。そういえばあまりに当然のように感じていたので書き忘れたがおれがBeatlesの話をするときはMono盤についていっているのですよ。したがってアビーロードもレットイットビーも知らん。Glyn Johnsの『Get Back』だけはわりと好きで年に何度か聴き返す。それで最初はMono盤からはじまってBob Ludwigなるマスタリング技師の音が気に入って94年にVirgin Recordsから出た70年代のStonesを買い集め、可逆圧縮でエンコードして聴くようになった。どちらかといえば60年代の彼らのほうが好みだが70年代も悪くない。これまでは92年の廉価版を非可逆圧縮で聴いていた。なんだかとても贅沢をしている気分になった。ついでにBeatlesのMonoもこの機会に可逆圧縮でエンコードし直した。Beatleで好きなのは『Rubber Soul』と『Revolver』、この二枚は何度聴いても飽きない。年に一度の波が来るとその前の数枚も聴き返す。Stonesでもっとも好きなのは『Beggar’s Banquet』『Let it Bleed』あたりかもしれない。『Out of Our Heads』あたりから好みの感じになりはじめ(Beatlesなら『A Hard Day’s Night』がそれに相当する)『Aftermath』から「あ、ここから違うな」と明確に区別できて(Beatlesだと『Help!』)、それ以降がどんどん好きな感じになる。ここから70年代末の『Some Girls』まではこれまでの人生で何度聴き返したかわからない。彼らの音楽さえあればもう何もいらない、新しい音楽なんて一切出てこなくても構わないとさえ思える。年に一度は必ずそう感じるということだ。奇妙なことに80年代の彼らにはまったく興味がない。Sonny Rollinsが客演しているから刺青の男をちょっと聴くくらいだ。ほんとうに80年代の十年間だけすっぽり抜け落ちている。Stoneにかぎらず大嫌いな時代だ。90年代以降は別に関心はないけれどもリアルタイムで流れていたからなんとなく知ってはいる。三年前の最新作はちゃんと聴いた。あれはすごくよかった。列挙していて気づいたのだが60年代の音楽を聴いていたときはまだ書くほうも調子がよかった。70年代に移ってからどうもよくない。また60年代に戻るか。たぶんおれの脳は現代についていけていないのだと思う。小説もたぶん古めかしいのだ。BeatlesとStonesの違いとか初期の彼らが履いていた靴とかについて書きたかったが長くなったのでやめにする。日記なら短時間でいくらでも書けるんだけどなぁ。『ぼっちの帝国』のつづきが読みたければ友だちに薦めるなりウェブで共有なりしてください。読まれたらたぶん書く。読まれなくても書くけれど。


(もり まさひこ、1975年6月18日 -)著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、藤井太洋氏、十市社氏らによる指導を受けた『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。最新作は『ぼっちの帝国』。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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