妄想中年日記

連載第184回: 出版サイトという概念

杜 昌彦書いた人: 杜 昌彦, タグ:
2019.
03.12Tue

出版サイトという概念

今夜は風邪気味なので手短に終わらせたい。別にだれに頼まれてもいないのでサボってもいいのだが日に七人の客に気が咎める。理想的には平日にも小説を書けるようになりたいし、そのためにあれこれ工夫を試みるのだがどうもだめだ。絵空事の世界に入っていく段取りのようなものがあってその気持の切替ができない。書くばかりではなく読んだり映画を観たりするのさえ身が入らない。どうせだれも読まない小説なので急いでも意味はないが書き終える前に事故にでも遭ったら死んでも死にきれない。逆にいえばそう思えるほど今回の小説はうまくいっているということだ。この十年、何を書いても誇りに思えなかった。『ぼっちの帝国』は大丈夫だ。他人が何をいおうがだれにも相手にされまいがおれはおもしろいと思う。大手企業の商品として出版されないかぎり読まれる手段がなかった十年前と異なり、いまではだれに気に入られなくとも自力で出版するすべがある。もっとも現状はすべて自由とはいいがたく、何かにつけてアルファベット最初の文字からはじまる偉大なるモール様のご意向次第ではある。たとえば『Pの刺激』ペイパーバック版はまたしても裏表紙の表示に変えられてしまったが、CreateSpace亡きいまでは修正の手段すらない。電子版なら拒絶されてもepubがあり、人格OverDriveのウェブサイトで無料配布も有料販売も可能だ。印刷版はどうにもならない。単純に作成するだけならBCCKSも、試したことはないが製本直送もあるが、しかし価格や物流の都合まで考えるとやはり偉大なるお力にすがらざるを得ない。モール様は今月『悪魔とドライヴ』を二冊も売ってくださったし、なんらアフィリエイトで貢献していないというのにすばらしいAPIを無料で使わせてくださっている。世界に偏在するモール様のために四方八方へ伏し拝む次第である。唯一にして絶対なるモール様万歳。今夜はやはり調子が悪い。冗談も冴えないし400字詰原稿用紙二枚を書くのに三十分も費やした。帰宅してからやったことは記事のプロフィール欄だ。ちょっと手を入れた。アカウント作成時にモール様のプロフィールページのID的な文字列を登録しておくと記事を書いた際に自動的にリンクが生成される。これまでは実をいうとベタ打ちだった。お客様用のカテゴリだけその著者IDに書き換えたテンプレートを用意していた。今後はたとえば「本の網」に複数の著者が投稿できるようになる。そんな予定はないので意味はないのだが構わない。そういう仕組みになっていることが重要だ。使おうと思えば使えることが。やろうと思えばサイトをぐっとソーシャル寄りにすることもできる。この三年ほどのあいだ何度もくりかえし悩んだ。しかしだれのためのサイトかと突き詰めて考えて、最終的には読者のためでなければならぬと結論した。であれば著者同士で会議する場所など用意しなくていい。たとえば技術的にはtwitterのようなタイムラインで公開および非公開のグループをつくり、そこで装幀や校正・校閲や確定申告について話し合うようにもできる。三年前まではそうしたものを見せるのも(あるいは見せずに想像させるのも)プロモーションになり得ると考えていた。しかし一個人としてのアクティヴィティを見せすぎるのは悪意を集めやすく、広い意味でのセキュリティに難があることを思い知らされたので、いまでは考えを改めた。それにアクティヴィティ機能を廃してほぼ毎日何かしら記事を書くようにしてわかったのだが、いつでも衝動的に短文を投稿できる仕組みは考えをまとめるのによくない。無理にでもある程度の長さを書く習慣をつけたほうがいい。少なくともおれにとってはそうだった。意識の垂れ流しではなく何らかの枠組みに収めたもの、記事として完結させたものを投稿するほうが自分を向上させるような気がした。そしてそういうパッケージ化されたものが並んでいたほうが読む上でも都合がいいように思えた。おれが読者なら意識の垂れ流しよりもちゃんとした記事を読みたい。タレントがくっちゃべっている動画よりも作家が書いた記事を読みたい。そういう意味であえて投稿者には使い勝手を悪くすることにした。正直、書く方からいえばtwitter風のプロフィール画面から記事を投稿するほうが扱いやすいし、そういう仕組みだっていますぐにでも用意できるのだ。事実二年ほど前にはそのような仕組みから投稿していた。しかしソーシャルなUIと読み物としてのUIは両立しなかった。たとえばこの記事のプロフィール欄で著者の画像をクリックなりタップなりしてみてほしい。著者紹介ページが表示される。この見た目が読み物としてのUIだ。これをたとえばtwitterのプロフィールページのような画面にして、著書一覧ではなくtwitterのタイムラインのようなアクティヴィティ、意識の垂れ流しを見せることだってできる。しかしそれはどちらかといえば書籍や雑誌を読むときの感覚よりはテレビでどうでもいいタレントが退屈な話をするのを眺めるのに似ている。後者は質の悪い客、多くは悪意を持ったマウントゲーム狙いの輩を連れてくる。どちらを選ぶかという話で、人格OverDriveは前者を、つまり本を読むのが好きな客を向いて商売することにした。そのためには著者側が不便になるくらいが調度いい。ストイックであるくらいが自分にとって、人格OverDriveにとってよい影響をもたらすような気がしている。一時間かけて六枚書いた。今夜はここまで。


(もり まさひこ、1975年6月18日 -)著者、出版者。アヴァン・ポップ、スリップストリーム、スペキュレイティブ・フィクションに分類される独創的な作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、藤井太洋氏、十市社氏らによる指導を受けた『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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