D.I.Y.出版日誌

連載第181回: つながらない誌面

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2019.
03.11Mon

つながらない誌面

一月末からほぼ毎日といっていいペースで何かしら書いて公開している。 『ぼっちの帝国はせいぜい二三人といったところだが日記は七八人に読まれている三年前は私生活を監視して揚げ足を取ろうと群がる輩ばかりだったがいまはほぼそんなことはないエゴサーチしても誹謗中傷も殺害予告もヒットしないありがたい話だ読んでもらえるなら日記だろうが雑文だろうがエッセイだろうが随筆だろうが何でも書く読まれない文章は書かれないのと同じだからだ純粋に自分のためだけに書いたヘンリー・ダーガーを尊敬するどれだけ仕事を積み重ねてもいないのと同じなのはつらい三つ数えて指を鳴らしこの世から消滅するのを本気で夢みているそれは嘘ではないのだけれど不器用すぎて指を鳴らせないいたことをどこかに記録せずにはいられないしそのためにわざわざサーバーを借りてドメインを契約しこんな糞の役にも立たない文章を垂れ流している他人がお膳立てしたウェブサービスを使わないのは信用できないからだ連中はソーシャルなマウントゲームが金になることを熟知していて加害者にばかり肩入れする著名人とその取り巻きに誹謗中傷された無名人はいくら人権侵害を報告しても相手にされないほんとうはアルファベットの最初の文字ではじまる偉大なるモール様にだってかかわりたくないが現状はほかに方法がないので依存せざるを得ないこんな人間は潜在的にはむしろ多数派なのではないかと思うおれは異常ではあっても特別ではないどちらかといえば凡庸なのだそして凡庸な言葉はあるいはもしかしたら自分はひとりではないと感じさせひとりで生きる力を与えてくれるのかもしれない小説よりもエッセイ随筆雑文の類いを近しく感じる気持はわからぬでもないフィクションの物語は結局のところ何かが起きる実際の人生は何も起きないだれからも必要とされないし何も成し遂げないそういうものを読んで励まされるということはあるのかもしれないひとりではないと勇気づけることで個/孤である人生を肯定するのがあるいは個/孤である人生を肯定することでひとりではないと勇気づけるのが本の役割であるならばそういう役に立つのが子どもの頃からやりたかったことだ欺瞞をあえて肯定すればそれこそが指を鳴らせない不器用さでもあるそして考えてみれば随筆エッセイ雑文といったものを子どもの頃のおれはそれなりに愛していたこの二十年ばかりは日本語で書かれて出版される小説の大半にまったく相容れないものを感じることが多くて翻訳小説ばかり読んでいるのだけれど昭和末期から平成初頭にかけては幼すぎてあらゆる物事に鈍感だったせいかそのときどきで人気のある本を素直に読んでいたように思うしその時代には北杜夫や椎名誠や中島らもの小説ばかりではなくエッセイもまた愉しんでいた素人のブログやソーシャルメディアの大喜利に滅ぼされる以前1990 年頃の日本ではエッセイやコラムといった文芸形式が大いに人気だったのだ米原万里さんの仕事をほとんど知らないのだけれど嘘つきアーニャの真っ赤な真実』 『オリガ・モリソヴナの反語法の二冊には強烈な感銘を受けたしいずれちゃんと読み返して本の網に書きたい)、 彼女は一般的にはエッセイストとして認知されているようだ中島らもはガダラの豚』 (「アル中はアル中であるが故に強いという自己正当化はPの刺激でぱくらせていただいたよりもどちらかといえばその数年前に新聞に連載されていた明るい悩み相談室のほうが好きだったし美食にも釣りにも縁がないので開高健の随筆は読めないものも多いが数年前に小説をいくつか集中的に読んだときに随筆のほうも少しは読んだそういった作家の顔ぶれを思い浮かべてみれば小説が読まれなくても不平をいうべきではないような気もする余技と呼べばもしかしたら彼らは小説と同様の情熱をもって書いていたかもしれないので失礼に当たろうがおれには小説のほうが強烈な手段に思えるのであえてそう呼んでしまうとそうした日常の諧謔もまた作家の言葉なのだもちろん自分を彼らと同列に扱うつもりはないそういう話ではなく単にそういえばもともと好きな書き方ではあったのかもしれないと考え直しただけの話だ同列に並べるというので思い出したがもしあなたが人格 OverDrive の仲間になって一緒に誌面をつくってくれたら開高健や米原万里と後者はまだ取り上げていないけれど)、 もっといえばピンチョンやらナボコフやらと同列の扱いで作家一覧に並ぶのだがいかがかおもしろそうだと思いませんか数年前に試したときは登録を容易にしてしまったがためにセキュリティの問題でひどい目に遭ったのでもし今後外部から招くのであれば作家としての活動実績と読書傾向でつまり優劣ではなく個人的な好みとサイト運営上の都合で選別させていただくだろうしそのために大半は既読無視の扱いにならざるを得ないけれどまぁ仕組み上は可能だよということでなぜそんな仕組みを用意したのかは昨日も書いたけれどうまく説明した気がしないのでいずれまた機会を改めて書くついでにいえばおれにできることはだれにでも可能なので気に入ったら真似していただいて構わない出版がおもしろくなれば人格 OverDrive が関わろうと関わるまいとどうでもいい


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。