『ぼっちの帝国』 を 80 枚まで書いた。 映画でいえば冒頭 15 分まで。 予定としてはあした次の 10 枚を書く。 まだ全体の八分の一だ。 セットアップというのだろうか、 物語の前提を説明し終えていない。 よくある凡庸なプロットでネタバレにもなるまいから先に明かしてしまうとこれから主人公は職を求めて男に再会し、 そこから物語がはじまるわけだ。 本質は 『逆さの月』 のほうが恋愛小説で 『ぼっち』 はフォーマットが恋愛小説だと説明した意味がおわかりいただけるだろうか。 この調子で書けば当初の予定通り六百枚ほどの長さになりそうだ。 十年ぶりにようやく勘を取り戻した心地がする。 書き上がるまでは安心できないがこれまでに出した本よりはマシな出来になりそうだ。 せめてこの本と 『GONZO』 だけは書き上げてから死にたい。 まぁどうせたいした人生ではないのであしたいきなり死んでも文句はいえない。 いやそんなわけにもいかないな。 いまは他人様の大切な原稿を預かっている。 著者自身が投稿して公開するシステムなので次回がいかなる展開になるかおれは知らない。 最終回まで書き上げてはいるそうなので仮に人格 OverDrive が更新停止になってもなんらかの手段で読者はつづきを読めるはずだ。 そこはご安心いただきたい。 サーバやドメインの料金も三年分前払いしてあるし投稿フォームにテキストを貼りつければおれが何もしなくとも自動的に組版がなされる仕組みになっている。 あるいは別のサイトに公開したっていいわけだ。 自分自身はろくなものを遺せなかったが彼女にあの作品を書いてもらえたのはおれの人生でほとんど唯一の誇りだ。 全作品を読んだわけではないがおそらく彼女の作品群において重要な位置を占めることになるはずだ。 頼まなくともいずれは書かれたろうがいずれにせよ関われてよかった。 関わったことで責任が重くのしかかり、 表示の見栄えや使い勝手が悪いために作品の印象を損ねやしまいかとクヨクヨしている。 何しろおれが何かしくじれば読者は最悪あの作品を読めなくなってしまうのだ。 そんなことがないよう気をつけたい。 連載を依頼したのは彼女のとある掌編を読んだのがきっかけだ。 あまり注目を浴びない場所でひっそりと発表されたその作品はだれが何といおうと紛れもなく恋愛小説だった。 『大人の児童文学』 とでもいうべき掌編連作が彼女の得意分野なのだがその感性が活かされた大人向けの恋愛小説も書けるはずだと思っていたし、 その直感が証明されたように感じた。 この作家の書いた恋愛小説を読みたいと強く思った。 できれば少し長めのものを。 だから Facebook で連絡をとって無理にお願いした。 動機は嘘偽りなく基本的にそれだけだ。 基本的にはそれだけだが派生した好奇心はある。 彼女の読者の流入でサイトにどんな影響があるかだ。 それが目的ではないにせよ何らかの変化を期待した虫のよさを隠そうとは思わない。 結論をいえばなぜか日記が読まれた。 しかも個人的な愚痴っぽいやつだ。 いやそこは 『ぼっちの帝国』 を読んでくれよ。 あるいは本の紹介でもいい。 ナボコフの 『淡い焰』 なんておもしろいぜ。 しかしどういうわけか売れない愚痴を書いた日記ばかりが読まれる。 サイト内でどういう導線になっているのかよくわからない。 『オードトワレ』 を読んだ客がじゃあ次は知らん他人の愚痴を読もう、 となる動機も経路もわからない。 似たような作品がほかにないかと探して 「恋愛小説」 を謳っているから 『ぼっちの帝国』 を読み、 コレジャナイ感に憤るシナリオなら予測できるのだがそんな事象はいっさい発生していない。 最新話は普段通りだれにも読まれなかった。 もしかしたら発表する場所が人格 OverDrive でなければ 『オードトワレ』 はもっと広く読まれたのではないかとも思えるがそこはお許し頂きたい。 別に独占公開というわけでもないんだし、 作家にはいつだって断る権利がある。 最後に告知というかお願いというか。 おれと似たような読書傾向をお持ちの方で人格 OverDrive の投稿機能を試してみたいとか、 一緒に誌面をつくっていきたいとか、 人格 OverDrive から本を出したいとかいう奇特な方がいたらお問合せフォームからご一報ください。 売り込みがおもしろかったり気が合いそうだなと思ったりしたら何かお願いするかもしれません。 でもたぶん他人と関わるのが億劫だし原稿料を払う余裕もないから既読無視になりそうな気もする。 なぜこんなことを書くかというとひとりの著者に原稿を頼んだだけだとそこに必要以上の意味が生じてしまうから。 せめてもうひとりいれば 「そういう誌面」 に見えそうじゃないか。 作家に変な迷惑をかけたくないんだよ。 要するにおれは読みたかった。 彼女は書いてくれた。 そしてあなたと同じようにおれもつづきを楽しみにしている。 それだけだ。 この件の弁明はこれで終わり。 きっとあなたがこれを読むのはそういうのを期待してのことだろ? おれはおれなりに説明責任を果たしたいと思ったんだよ。 社会不適合者のおれだってそんな風にふるまうこともある。
2019.
03.08Fri
(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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