杜 昌彦

D.I.Y.出版日誌

連載第181回: あなたが読みたい裏話

書いた人: 杜 昌彦, タグ:
2019.
03.08Fri

あなたが読みたい裏話

ぼっちの帝国を 80枚まで書いた映画でいえば冒頭 15 分まで予定としてはあした次の 10枚を書くまだ全体の八分の一だセットアップというのだろうか物語の前提を説明し終えていないよくある凡庸なプロットでネタバレにもなるまいから先に明かしてしまうとこれから主人公は職を求めて男に再会しそこから物語がはじまるわけだ本質は逆さの月のほうが恋愛小説でぼっちはフォーマットが恋愛小説だと説明した意味がおわかりいただけるだろうかこの調子で書けば当初の予定通り六百枚ほどの長さになりそうだ十年ぶりにようやく勘を取り戻した心地がする書き上がるまでは安心できないがこれまでに出した本よりはマシな出来になりそうだせめてこの本とGONZOだけは書き上げてから死にたいまぁどうせたいした人生ではないのであしたいきなり死んでも文句はいえないいやそんなわけにもいかないないまは他人様の大切な原稿を預かっている著者自身が投稿して公開するシステムなので次回がいかなる展開になるかおれは知らない最終回まで書き上げてはいるそうなので仮に人格OverDrive が更新停止になってもなんらかの手段で読者はつづきを読めるはずだそこはご安心いただきたいサーバやドメインの料金も三年分前払いしてあるし投稿フォームにテキストを貼りつければおれが何もしなくとも自動的に組版がなされる仕組みになっているあるいは別のサイトに公開したっていいわけだ自分自身はろくなものを遺せなかったが彼女にあの作品を書いてもらえたのはおれの人生でほとんど唯一の誇りだ全作品を読んだわけではないがおそらく彼女の作品群において重要な位置を占めることになるはずだ頼まなくともいずれは書かれたろうがいずれにせよ関われてよかった関わったことで責任が重くのしかかり表示の見栄えや使い勝手が悪いために作品の印象を損ねやしまいかとクヨクヨしている何しろおれが何かしくじれば読者は最悪あの作品を読めなくなってしまうのだそんなことがないよう気をつけたい連載を依頼したのは彼女のとある掌編を読んだのがきっかけだあまり注目を浴びない場所でひっそりと発表されたその作品はだれが何といおうと紛れもなく恋愛小説だった。 『大人の児童文学とでもいうべき掌編連作が彼女の得意分野なのだがその感性が活かされた大人向けの恋愛小説も書けるはずだと思っていたしその直感が証明されたように感じたこの作家の書いた恋愛小説を読みたいと強く思ったできれば少し長めのものをだから Facebook で連絡をとって無理にお願いした動機は嘘偽りなく基本的にそれだけだ基本的にはそれだけだが派生した好奇心はある彼女の読者の流入でサイトにどんな影響があるかだそれが目的ではないにせよ何らかの変化を期待した虫のよさを隠そうとは思わない結論をいえばなぜか日記が読まれたしかも個人的な愚痴っぽいやつだいやそこはぼっちの帝国を読んでくれよあるいは本の紹介でもいいナボコフの淡い焰なんておもしろいぜしかしどういうわけか売れない愚痴を書いた日記ばかりが読まれるサイト内でどういう導線になっているのかよくわからない。 『オードトワレを読んだ客がじゃあ次は知らん他人の愚痴を読もうとなる動機も経路もわからない似たような作品がほかにないかと探して恋愛小説を謳っているからぼっちの帝国を読みコレジャナイ感に憤るシナリオなら予測できるのだがそんな事象はいっさい発生していない最新話は普段通りだれにも読まれなかったもしかしたら発表する場所が人格OverDrive でなければオードトワレはもっと広く読まれたのではないかとも思えるがそこはお許し頂きたい別に独占公開というわけでもないんだし作家にはいつだって断る権利がある最後に告知というかお願いというかおれと似たような読書傾向をお持ちの方で人格OverDrive の投稿機能を試してみたいとか一緒に誌面をつくっていきたいとか人格OverDrive から本を出したいとかいう奇特な方がいたらお問合せフォームからご一報ください売り込みがおもしろかったり気が合いそうだなと思ったりしたら何かお願いするかもしれませんでもたぶん他人と関わるのが億劫だし原稿料を払う余裕もないから既読無視になりそうな気もするなぜこんなことを書くかというとひとりの著者に原稿を頼んだだけだとそこに必要以上の意味が生じてしまうからせめてもうひとりいればそういう誌面に見えそうじゃないか作家に変な迷惑をかけたくないんだよ要するにおれは読みたかった彼女は書いてくれたそしてあなたと同じようにおれもつづきを楽しみにしているそれだけだこの件の弁明はこれで終わりきっとあなたがこれを読むのはそういうのを期待してのことだろ? おれはおれなりに説明責任を果たしたいと思ったんだよ社会不適合者のおれだってそんな風にふるまうこともある


(1975年6月18日 -)著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。最新作は『ぼっちの帝国』。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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