妄想中年日記

連載第176回: 選ばれないことを選ぶ

杜 昌彦書いた人: 杜 昌彦, タグ:
2019.
02.17Sun

選ばれないことを選ぶ

年末年始休に相当するものをもらえた。あしたから六日間は『ぼっちの帝国』と筋トレに全力を費やす。読むべき本も積まれているがまずは書くのを優先したい。十代の頃から一日に四百字詰め原稿用紙で十枚が限界だった。その壁を破りたい。書くことはもう決まっている。書く端からサイトに載せる。本来なら表に出すべきではない初稿を公開することになる。矛盾やらおかしな点やらが続発するはずだ。一日に数名しか読まないだろうから構わない。登録ユーザのみに限定公開することを検討していたが面倒なのでやらない。仕組みを用意するのが面倒なのではなく読むのが面倒だ。だれがわざわざ登録やログインまでして読みたがるものか。しかし単行本化の際はAmazon専売にする必要があるので非公開にするかパスワードをつけるかどちらかを選ばねばならない。専売にする理由は単純に読まれる機会の獲得だ。読み放題であれば多少は読まれる。Amazonにはきらわれているので最終的には人格OverDriveのサイト上で読み放題なり販売なりを行わねばなるまいがまだそのときではない。きらわれているというのは決して比喩でも被害妄想でもない。何を売って何を売らないか彼らはなんらかの基準をもとに選別している。おれは選ばれなかった。というか選ばれない対象として選ばれた。すでに確定していて今後おそらくどんな本を出版しても変わらない。たとえばストア内広告にどれだけ金を突っ込んだところで売れにくい表示に調整される。ある日を境に明確にいじられたのでわかった。同期がPrime Readingに選ばれたりインタビュー記事を出してもらったり星五つレビューが山ほどついたりしてどんどん出世していくのを尻目に、稼ぎがないからとPA-APIを利用停止されたり表示を調整されたりしている。誇大妄想と思われるのも癪なので断っておくと大Amazon様から人格OverDriveなり杜昌彦なりが個別に認識されているわけはない。モール内もしくはウェブ上のデータの動きを評価する仕組みがあるのだろう。場合によっては人力の調整も加わるかもしれないし大人の事情も考慮されるかもしれない。いずれにせよ多くの商品が選ばれたり排除されたりしていておれは後者に属するだけの話だ。そうした扱いが不当だとは思わない。棚に好きな商品を並べる権利が店にはある。おれにしてもあのモールの棚に自著が並ぶのを見るのは好きではない。たとえば……とベストセラーランキングの書名を上位から順に挙げようかと思ったがあまりにひどい。ああなるほど、あなたがたはこういう本を売りたいのね、と思わず疲れた薄笑いを浮かべてしまうがどんな商品をどう売るかは大局で判断すべきだしスカイネット的なAIがそのようなお告げでもしたのだろう、人類の未来から読書を殲滅するために。それに対して人格OverDriveにとって理想の書棚がいかなるものかは「本の網」に示した。見較べていただければ相容れないのはご理解いただけると思う。『ぼっちの帝国』はインターネットやソーシャルメディア、それにとりわけAmazonには本来そぐわない恋愛小説だ。全裸のボディビルダーが虚空から出現して追ってこないかぎりあすの晩には第一回を公開するつもりでいる。まだ影も形もない原稿が書かれると断言するのも奇妙な話だが、それをいうならこの日記だって毎晩何も考えずに無から書きはじめて二十日も続いているのだ。今度はこちらが選ぶ側になる。


(もり まさひこ、1975年6月18日 -)著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、藤井太洋氏、十市社氏らによる指導を受けた『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。最新作は『ぼっちの帝国』。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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