D.I.Y.出版日誌

連載第174回: 選ばれないことを選ぶ

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2019.
02.17Sun

選ばれないことを選ぶ

年末年始休に相当するものをもらえたあしたから六日間はぼっちの帝国と筋トレに全力を費やす読むべき本も積まれているがまずは書くのを優先したい十代の頃から一日に四百字詰め原稿用紙で十枚が限界だったその壁を破りたい書くことはもう決まっている書く端からサイトに載せる本来なら表に出すべきではない初稿を公開することになる矛盾やらおかしな点やらが続発するはずだ一日に数名しか読まないだろうから構わない登録ユーザのみに限定公開することを検討していたが面倒なのでやらない仕組みを用意するのが面倒なのではなく読むのが面倒だだれがわざわざ登録やログインまでして読みたがるものかしかし単行本化の際は Amazon 専売にする必要があるので非公開にするかパスワードをつけるかどちらかを選ばねばならない専売にする理由は単純に読まれる機会の獲得だ読み放題であれば多少は読まれるAmazon にはきらわれているので最終的には人格 OverDrive のサイト上で読み放題なり販売なりを行わねばなるまいがまだそのときではないきらわれているというのは決して比喩でも被害妄想でもない何を売って何を売らないか彼らはなんらかの基準をもとに選別しているおれは選ばれなかったというか選ばれない対象として選ばれたすでに確定していて今後おそらくどんな本を出版しても変わらないたとえばストア内広告にどれだけ金を突っ込んだところで売れにくい表示に調整されるある日を境に明確にいじられたのでわかった同期が Prime Reading に選ばれたりインタビュー記事を出してもらったり星五つレビューが山ほどついたりしてどんどん出世していくのを尻目に稼ぎがないからと PA-API を利用停止されたり表示を調整されたりしている誇大妄想と思われるのも癪なので断っておくと大 Amazon 様から人格 OverDrive なり杜昌彦なりが個別に認識されているわけはないモール内もしくはウェブ上のデータの動きを評価する仕組みがあるのだろう場合によっては人力の調整も加わるかもしれないし大人の事情も考慮されるかもしれないいずれにせよ多くの商品が選ばれたり排除されたりしていておれは後者に属するだけの話だそうした扱いが不当だとは思わない棚に好きな商品を並べる権利が店にはあるおれにしてもあのモールの棚に自著が並ぶのを見るのは好きではないたとえば⋯⋯とベストセラーランキングの書名を上位から順に挙げようかと思ったがあまりにひどいああなるほどあなたがたはこういう本を売りたいのねと思わず疲れた薄笑いを浮かべてしまうがどんな商品をどう売るかは大局で判断すべきだしスカイネット的な AI がそのようなお告げでもしたのだろう人類の未来から読書を殲滅するためにそれに対して人格 OverDrive にとって理想の書棚がいかなるものかは本の網に示した見較べていただければ相容れないのはご理解いただけると思う。 『ぼっちの帝国はインターネットやソーシャルメディアそれにとりわけ Amazon には本来そぐわない恋愛小説だ全裸のボディビルダーが虚空から出現して追ってこないかぎりあすの晩には第一回を公開するつもりでいるまだ影も形もない原稿が書かれると断言するのも奇妙な話だがそれをいうならこの日記だって毎晩何も考えずに無から書きはじめて二十日も続いているのだ今度はこちらが選ぶ側になる


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。