D.I.Y.出版日誌

連載第167回: 書いて出版することは好きに生きること

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2019.
02.09Sat

書いて出版することは好きに生きること

習慣は変えないほうがいいらしい昨夜はジムが定休日だったし日記も書かなかった今夜も仕事で遅くなりジムの営業時間に間に合わなかった神経が参ったのでケーキと菓子パンの中間のようなものを買って帰った食べた胃がむかつく夜に食べない習慣にからだが慣れたのだ支離滅裂な家庭に育ったので飢えに恐怖がありこれまでは夜ごと過食していたそういう物事をひとつひとつ乗り越えていきたい人生を取り戻すのだ次の休みにはプロットをどうにかして小説も読みたい今月の後半はいよいよぼっちの帝国に着手する書いたはしから公開したいサイトの縦書き連載機能を使うAmazon 専売にするには限定公開せねばならないところが BuddyPress を使って構築したサイトなので登録者にはプロフィールページができてしまうそんなものはいらない作家と読者は明確に分け隔てるべきだ作家は著書で見せるものだ著者紹介は著書一覧とそれらを書いた人物の紹介であってソーシャルメディアのプロフィールではない著者をクリックすれば著者紹介に飛ぶそれはいい実現できている問題は読者だ招き入れれば入れただけプロフィールが生成されて有象無象に占拠されるのではどうにもならない有象無象が数にものをいわせて批評家気どりでとんちんかんなマウントをするのがソーシャルであるにもかかわらずなぜ BuddyPress を用いたかといえばアクティヴィティの UI が好きだからだ見たままの画面に思いつくまま独り言を垂れ流せるのがよかった業務的なあるいは創作上の相談ができる場所としても考えていた作品の成立過程をリアルタイムで見せるのが販促になるのではとの発想だ失敗だったいまになってわかった作家は中途半端な文章の切れ端を見せるべきではない完成されたまとまりをパッケージ化して提示せねばならないあるいはパッケージの集積を人格 OverDrive はそのような場であり装置でならねばならなかったサイトの構造自体が筋の悪い客を呼び寄せていたどちらかにすべきだった完全にソーシャルに寄せるかプロの仕事を見せるか実のところ前者の可能性を探っていた時期もあったフロントエンドの投稿ツールを備えたプロフィールページをだれでも持てる仕組みだサイト全体の記事一覧とアクティヴィティがありこれが大通りに相当する (「妄想中年日記の一覧で記事ごとに著者名の表記があるのはその名残だ)。 プロフィールページが自分の部屋であってそこから日記なりアクティヴィティなりを投稿することで大通りに合流できる読者は気に入った著者名をクリックすればそれぞれの部屋プロフィールに遊びに行けてそこの記事一覧も個人のアクティヴィティも見られるそのような方向に全振りするのであれば BuddyPress もありだしかしこれでは能力のないアマチュアが自分と互いの無能を甘やかし正当化することで交流するあほらしい場所となるこの数年さまざまな方向性を突き詰めて考えたがやりたいのは結局そういうことではなかった真逆だ完成されたパッケージを弁解抜きで冷然と提示するここに本がある読めと交流やら絆やらつながりやらの入り込む隙はないそういうプロフェッショナルな態度を築き上げるべきだったのだBuddyPress 用のコードをいまさら通常の WordPress のに置き換えるべきか迷っている登録者向け限定公開の連載をはじめるならその作業をまず先にやらねばならないあるいは全体公開で連載して単行本化の際に非公開にするのも手かもしれない原稿を募集して BuddyPress のアクティヴィティを当初の予定通りに活用することも検討したたとえば数年前おもしろい競馬エッセイを書いていた人にブコウスキーやディック・フランシスを題材にした文章を依頼するとかよほど信頼できる相手才能においても人柄においてもでないかぎり他人を招き入れるのは気苦労を増やすだけだと結論したしばらくは独力でやるのがいい何か企画を考えて小説以外の連載も増やしたい本に絡めた擬似的な人生相談 (「兄が虫になりましたとか丸善のテロで恋人が死にましたとかママンが死んだけど実感が湧きませんとかなどもいいかもしれない小説に登場した料理を実際につくってみる企画もおもしろそうだが残念ながらおれは発達性協調運動障害で料理ができない部屋には調理器具どころか箸も食器もないとなればほかにどんな企画が思いつくだろうか追々考えていけばいい所詮は自己満足だ他人に読まれるわけではないのだストレス解消にカフェインと脂質と糖分を摂取したら調子に乗って長々と書いてしまったあしたは遅番なので出勤前にジムに寄るつもりだったが叶わないかもしれないそれはそれでいい好きに生きているそうするだけの能力があると自分に証明している支離滅裂だった過去にざまを見ろといってやるのだ


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。

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