妄想中年日記

連載第169回: 書いて出版することは好きに生きること

杜 昌彦書いた人: 杜 昌彦, タグ:
2019.
02.09Sat

書いて出版することは好きに生きること

習慣は変えないほうがいいらしい。昨夜はジムが定休日だったし日記も書かなかった。今夜も仕事で遅くなりジムの営業時間に間に合わなかった。神経が参ったのでケーキと菓子パンの中間のようなものを買って帰った。食べた。胃がむかつく。夜に食べない習慣にからだが慣れたのだ。支離滅裂な家庭に育ったので飢えに恐怖がありこれまでは夜ごと過食していた。そういう物事をひとつひとつ乗り越えていきたい。人生を取り戻すのだ。次の休みにはプロットをどうにかして小説も読みたい。今月の後半はいよいよ『ぼっちの帝国』に着手する。書いたはしから公開したい。サイトの縦書き連載機能を使う。Amazon専売にするには限定公開せねばならない。ところがBuddyPressを使って構築したサイトなので登録者にはプロフィールページができてしまう。そんなものはいらない。作家と読者は明確に分け隔てるべきだ。作家は著書で見せるものだ。著者紹介は著書一覧とそれらを書いた人物の紹介であってソーシャルメディアのプロフィールではない。著者をクリックすれば著者紹介に飛ぶ。それはいい。実現できている。問題は読者だ。招き入れれば入れただけプロフィールが生成されて有象無象に占拠されるのではどうにもならない。有象無象が数にものをいわせて批評家気どりでとんちんかんなマウントをするのがソーシャルである。にもかかわらずなぜBuddyPressを用いたかといえばアクティヴィティのUIが好きだからだ。見たままの画面に思いつくまま独り言を垂れ流せるのがよかった。業務的なあるいは創作上の相談ができる場所としても考えていた。作品の成立過程をリアルタイムで見せるのが販促になるのではとの発想だ。失敗だった。いまになってわかった。作家は中途半端な文章の切れ端を見せるべきではない。完成されたまとまりをパッケージ化して提示せねばならない。あるいはパッケージの集積を。人格OverDriveはそのような場であり装置でならねばならなかった。サイトの構造自体が筋の悪い客を呼び寄せていた。どちらかにすべきだった。完全にソーシャルに寄せるかプロの仕事を見せるか。実のところ前者の可能性を探っていた時期もあった。フロントエンドの投稿ツールを備えたプロフィールページをだれでも持てる仕組みだ。サイト全体の記事一覧とアクティヴィティがありこれが大通りに相当する(「妄想中年日記」の一覧で記事ごとに著者名の表記があるのはその名残だ)。プロフィールページが自分の部屋であってそこから日記なりアクティヴィティなりを投稿することで大通りに合流できる。読者は気に入った著者名をクリックすればそれぞれの部屋(プロフィール)に遊びに行けてそこの記事一覧も個人のアクティヴィティも見られる。そのような方向に全振りするのであればBuddyPressもありだ。しかしこれでは能力のないアマチュアが自分と互いの無能を甘やかし正当化することで交流するあほらしい場所となる。この数年さまざまな方向性を突き詰めて考えたがやりたいのは結局そういうことではなかった。真逆だ。完成されたパッケージを弁解抜きで冷然と提示する。ここに本がある、読めと。交流やら絆やらつながりやらの入り込む隙はない。そういうプロフェッショナルな態度を築き上げるべきだったのだ。BuddyPress用のコードをいまさら通常のWordPressのに置き換えるべきか迷っている。登録者向け限定公開の連載をはじめるならその作業をまず先にやらねばならない。あるいは全体公開で連載して単行本化の際に非公開にするのも手かもしれない。原稿を募集してBuddyPressのアクティヴィティを当初の予定通りに活用することも検討した。たとえば数年前おもしろい競馬エッセイを書いていた人にブコウスキーやディック・フランシスを題材にした文章を依頼するとか。よほど信頼できる相手(才能においても人柄においても)でないかぎり他人を招き入れるのは気苦労を増やすだけだと結論した。しばらくは独力でやるのがいい。何か企画を考えて小説以外の連載も増やしたい。本に絡めた擬似的な人生相談(「兄が虫になりました」とか「丸善のテロで恋人が死にました」とか「ママンが死んだけど実感が湧きません」とか)などもいいかもしれない。小説に登場した料理を実際につくってみる企画もおもしろそうだが残念ながらおれは発達性協調運動障害で料理ができない。部屋には調理器具どころか箸も食器もない。となればほかにどんな企画が思いつくだろうか。追々考えていけばいい。所詮は自己満足だ。他人に読まれるわけではないのだ。ストレス解消にカフェインと脂質と糖分を摂取したら調子に乗って長々と書いてしまった。あしたは遅番なので出勤前にジムに寄るつもりだったが叶わないかもしれない。それはそれでいい。好きに生きている。そうするだけの能力があると自分に証明している。支離滅裂だった過去にざまを見ろといってやるのだ。


(もり まさひこ、1975年6月18日 -)著者、出版者。硬質な文体と独創的な物語で知られる。作風はアヴァン・ポップ、スリップストリーム、スペキュレイティブ・フィクションに分類される。2010年から別名義で活動。2013年日本電子出版協会(JEPA )主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、藤井太洋氏、十市社氏らによる指導を受けた『悪魔とドライヴ』が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。
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