D.I.Y.出版日誌

連載第163回: 30年の夢

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2019.
02.04Mon

30年の夢

次の恋愛小説ぼっちの帝国のために十代の頃に影響を受けた作品を再視聴したり再読したりしている当時は一枚のレコードや一本の映画にありつくため非常に苦労をした89 年は世の中が大きく変化した時代でベルリンの壁が崩れたり手塚治虫が死んだりいろいろあったVR や AI なんて言葉が最初に流行ったのもこの頃だDC コミックスは低年齢の子ども向けからリアルなシリアス路線へと変わろうとしていて子供じみた滑稽さと大人向けの毒をないまぜにしたバットマンティム・バートンの残酷なお伽噺のような作風と相性がよく大ヒットした親に隠れて苦労して観た当時は普通のアクションに思えた場面もいま観なおすと意図的にふざけた漫画的パロディとして表現されているように感じられる体重のギャグは当時 40kg にも満たなかった中学生には強く印象に残ったので物語が非常に盛り上がるアクション場面だったように記憶していたのだがいま調べたらせいぜい 11 歳の平均体重じゃないかいくら発育不良の被虐待児でもそんなわけはないから記憶違いかもしれない)、 実際には序盤のちょっとしたアクションでしかなかった主演の役者が同じ年にドリーム・チームで暴力的な精神病患者を演じているいわば一枚の硬貨の表と裏正義の味方は見方を変えればそういうことになる。 「夢みるひとたちが認知行動療法で野球観戦に赴いたところ運悪く殺人を目撃し担当医師は瀕死の重傷を負わされ大都会に支援者もなく放り出されて悪徳警官に命を狙われるはめになる⋯⋯という喜劇なのだがこれがほんとうにいい話で題名も気が利いているしもっと評価されていい作品だと思う序盤で精神病患者たちが合唱するHit The Road Jack不思議なことに同年の⋯⋯と思っていま調べたら翌々年だったテリー・ギリアムの雇われ仕事にして成功作フィッシャー・キングでもまったく同じ扱いで登場するそしてこの作品もまた夢みるひとの物語であって哀しげに笑うロビン・ウィリアムズの最期を知るいまでは涙なくして観られないついでのように述べるのもどうかと思うが印象的なホームレス歌手を演じた役者もまた病死していたことをさっき知った。 『ドリーム・チームの前年に刊行された小林信彦世間知らずがおれにとって恋愛小説の基準になっていて新作に着手する前に読み返したいと願っているが絶版になって久しく手に入らない。 『ドリーム・チームフィッシャー・キング』、 この二作をぼっちの帝国では下敷きにしつつ小林信彦作品のような小説らしいおもしろさを目指しこの数年逃げるは恥だが役に立つ』 『ダメな私に恋してください』 『海月姫といった人気漫画を読んで考えたことをありったけ盛り込むつもりでいる⋯⋯とここまで書いたところで大体どんな話か知れてしまうような気もするがそれはさておきぼっちの帝国縦書き連載機能を利用して 56 の章を順次公開することを検討している今月中旬までにプロットを掘り下げて執筆にかかるつもりだただし公開の前にサブスクライブ機能を実装せねばならない登録ユーザのみが先を読める仕組みだ現状ではそれをやると実験中のゲスト投稿機能まで登録読者に晒すことになるたぶん権限の設定でどうにかできるはずなのでそれはいいのだが読者登録をすれば必然的にアクティヴィティまで開放することになるのでこちらは迷っている投稿者と業務的な会話をするのは三年前から意図しているので構わないしかし一般読者とはもうしわけないが距離を置かねばならない経験上それだけははっきりしているだからこそ日記にもコメント欄を設けないのだ壁を取っ払っても成立するのはソーシャルな技に長けた著者だけでくりかえし述べてきたように人格 OverDrive がやりたいのはそういうことではない89 年頃にはまだ雑誌がおもしろかったあの頃に雑誌が担っていた役割を取り戻したいのだいまだってKISSFEEL YOUNGYOUのような漫画雑誌はヒット作を連発しているように思えるのだがYOUは休刊となった代替としてウェブマガジンが流行しているがあれは結局のところソーシャルメディアに隷属する餌場でしかない見合った器でなければ機能しないしソーシャルメディアのサイズ感がいかなるものかはすでに何度も述べてきた通りだ要はマウント合戦における刹那的な使い勝手だけが求められるのであってそこで頭角を現したところでそれはソーシャルメディアにおいてしか使いものにならないepub やプリントオンデマンドが可能にした未来はそういうことではないのだじゃあどういうことなのかはこれから身をもって示していくと大見得を切りたいところだが一日に十人に閲覧されれば上等のウェブサイトが何をしたところでどうなるものでもないだれにも見られぬからこそやれる実験もあるということだ別に期待されずとも好きなようにやるし価値に気づかず一笑に付して損をするのはおれではない


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。