D.I.Y.出版日誌

連載第162回: やりたいようにやる

アバター画像書いた人: 杜 昌彦
2019.
02.03Sun

やりたいようにやる

だれに頼まれたわけでもなくだれに読まれるわけでもない日記を一週間も書きつづけているいずれ小説にとりかかったらやめるつもりだきょうはへとへとに疲れているが書かずに寝たらあたかも筋トレをさぼったかのような無力感に襲われるのはわかっているいちどはじめた習慣は変えないほうがいい出版もまた暮らしに根ざしたもので水を飲むように本を読み身のまわりを片づけるように書いて刷っている寝る前に歯を磨くのは他人に見せるためじゃない (『48 億の妄想を具現した現代ではその限りではなかろうが少なくともおれにとってはの話だ)。 どうでもいい他人とソーシャルな価値を競うためではなくあくまで身の丈に合うミニマルな営みとして家内制手工業的な出版を考えているその意義を対比によって示そうすなわち従来出版は中央集権であり権威でありマジョリティであり速さであり数であり勝ち負けであり刹那的な消費でありわかりやすい価値であり社交であり組織であり集団決定でありソーシャルでありそして何よりもひとりの人生や思いに根ざしたそのひとらしさを放棄させ得体の知れないみんなへの従属を求めるものである出版とはそのようなものであると長いあいだ錯覚されてきたところにおよそ十年ほど前から epub やプリントオンデマンドが立ち現れさながら活版印刷が神の言葉を権威者の独占から広く民衆へと解き放ったように従来とは別のありようを可能にしたあるいは出版に本来の意義を取り戻した)。 それは地方分権であり反抗であり可視化されないただひとりの事情に寄り添うものでありじっくり何度も味わうものでありさまざまでありながらも限られたものであり勝ち負けとは尺度の異なるものであり個であり孤であり内省でありわかちあえないがゆえに尊重されるべきそれぞれの思いでありその思いに根ざした自由意志であるそして何よりもだれかがほかのだれでもないそのひと自身であること孤であることを強く肯定する力である小説や出版が本来どちらを希求するかは自ずと知れようしかし実際には epub やオンデマンドといった手段は上に述べたような従来出版の性質を強化あるいは効率化するものとしてのみ喧伝されているあたかもそれがいいことであるかのようにもちろん他者の権利を脅かさぬ限りはだれがどうふるまおうが自由だしたとえば極端な話短期間で出版するチーム制の競技なんてものが東京で開催されてもいいしかしそれはあくまで多様性を認めた上での話であって本筋であるかのように語られたり見なされたりすべきではないというかだれが何をどう見なそうが勝手だが押しつけられては困るいや押しつけたければ好きにしろどうでもいい世間とは無関係にやりたいことをやるカウンターカルチャーが登場していい頃合いだしその手段も充分に出揃ったあとはいかにしたたかにやるかだ人格 OverDrive はやりたいようにやる


(1975年6月18日 - )著者、出版者。喜劇的かつダークな作風で知られる。2010年から活動。2013年日本電子出版協会(JEPA)主催のセミナーにて「注目の『セルフ パブリッシング狂』10人」に選ばれる。2016年、総勢20名以上の協力を得てブラッシュアップした『血と言葉』(旧題:『悪魔とドライヴ』)が話題となる。その後、筆名を改め現在に至る。代表作に『ぼっちの帝国』『GONZO』など。独立出版レーベル「人格OverDrive」主宰。